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β版白雪姫物語  作者: 鹿島きいろ
19/35

宮仕えロビンの仕事と恋2

後日、叔父にどうアプローチしていくか考えながら、

庭を歩いていると、クリスと彼女の会話が聞こえてきた。


今後、重要人物になりうる彼女と仲良くなっておくのも悪くない

と思い、彼女とクリスとの会話で図書室の話題が出ていたので、

おそらく訪れるだろうと見当をつけ、本を読みながら、彼女を図書室で待ち構えることにした。


ジェファー家は代々本の虫が多く、各当主の思いいれの詰まった図書室になっている。

公的な意味もある王家の図書室には敵わないが、他の貴族の屋敷に比べると類を見ない蔵書の数である。ただ、最近増えた様子がないのが残念に思う。現当主が興味ないのか、それとも、買うお金がないのか。


その両方だった場合、起こりえることを考えるとゾッとする。

まだ、減っている様子はないので、きっとそこまでではないのだろう。


確かに、今、このジェファー家は金に困っているようだ。

調べた感じ、税収が落ち込んでいる様子もない。

俺はまだ、侯爵家の内情を教えてもらえる所まで、叔父の懐に入り込めていないが、殿下の言っていた噂と金がないことと何か関係があるに違いない...。


そんなことを思いながら、図書室にいること二日目、彼女がやって来た。


彼女は、そっと図書室の扉を開け、しばらく部屋全体を見惚れるように眺めていると思ったら、キョロキョロと蔵書を見回り始めた。声をかけなければと思い、声をかけたのだが、タイミングが悪かったらしい。尻餅をつかせてしまった。内心焦り、急いで手を差し伸べたのだが、断られてしまった。


なぜだ...。

男性に手を差し伸べられたら、通常女性は手を取るものではないのか。

声かけに「お姫様」はさすがになかったか...。


何かいつもと勝手が違い、上手くいかない事にイラつく。そして、宴で挨拶したにも関わらず、全く自分を覚えていなかった彼女に対し、一層苛立ってしまった。よくよく考えれば、あの人数じゃあ、覚えられなくて当たり前だとわかるのに、その他大勢の括りにされてしまい苛立つ。


そのイラつきを彼女にぶつけてしまった。

これではまるで、構ってほしい子供じゃないか。


冷静になるんだ、オレ。

俺の言動に傷ついた顔をしている彼女に、何かフォローをしなくては...。


ぽつり、ぽつりと話し始めた彼女。どうやら、侯爵家の事もこの領の事も、何も教わっていないようだった。


なぜだ。なぜ、教えない。

マナーから何から覚えることは、膨大で、それこそ嫁いで何年も経っていた我が母ですら、時間を見つけては勉強していたというのに。


慣れるまでゆっくり徐々に、という事だろうか?

いやそれだったら、そう伝えるだろう。

屋敷の者たちが、何を考えているのか知らんが、本人がやる気になっているのだ、少し手を貸しても良いだろう。


少し考え、自分が子供の頃、繰り返し使っていた本を何冊か紹介することにした。

子供向けで難しい言葉は使われていないが、うまくポイントが抑えられていて、最初に手に取る本としては、読みやすいはずだ。


次は、どの本を彼女に紹介しよう。

と思うと少しワクワクする。


そういえば、

なぜ彼女は俺が滞在していることを、知らなかったのだろう…。




そして、

彼女と叔父の関係にも違和感を持った。


それは、

全員がそろう夕食での事だった。


気づかれない様に注意深く観察していると、彼女は叔父に対して何か遠慮がちに訪ねている。


「エドワード。今度時間がある時で構わないから遠乗りに、一緒に連れて行ってもらえないかしら?」


みんな騙されているとはいえ、表面上は優しい叔父だ。

なぜそんなに躊躇する?

新婚っていうのは、もっとイチャイチャしているものではないのか?

それとも、年ごろの娘の前だから、遠慮しているのか?


「ごめんね、カメリア。しばらく仕事が詰まっていて、ちょっと難しいんだ。

 あ~そうだ、ロビン。悪いが君が彼女を案内してくれないか?」


は?

なぜまだ、自分の領を案内していない?

そして、なぜ、俺に案内役を任せる?

オレ一応、独身男性なんだけど...。

俺の事を信用しているからなのか?


「私ですか?ちょうど明日はメリンダと、明後日はナターシャと...。」


と、とりあえず遠回しに断ってみたが、

そもそも馬に乗れる人も限られるし、このまま叔父が案内しないのであれば、ひょっとして、彼女は誰にも案内されることなく過ごすのでは、と思い、申し出を受けることにした。


「私で良ければ、ご案内しましょう!逆に叔父上は良いのですか?こんな貴重なお役目、私が頂いても?」


遠くから嫁いできた妻との距離を縮めるのに良い機会なのに、なぜ無駄にする。

仕事といったって、今火急の案件はないはずだ。


「あー構わない。私はしばらく手が離せないからな。残念だが、ロビンに譲ろう!」


残念と言っているが、多分あれは、残念だと思っていない。


なぜ?


チラッと彼女を見てみると、平然を装っているが、明らかに気落ちしている。


政略結婚だからといえば、それまでだが、明らかに、彼女と叔父の温度差を感じる。

しかも、自分の娘には、ちゃんと自分が連れていくとか、言っちゃってるし!

これでは、あまりにも彼女が不憫ではないか。



少なくとも、明日自分は、彼女が楽しめる案内をしようと心に決めた。



□□■□□■□□■□□■


翌朝、彼女の興味を引くよう、前日に渡した本に沿った内容で領を案内することにした。


彼女は、既に目を通してあったらしく、話に付いてきてくれていた。

子供向けとはいえ、それなりの情報量のある本を、昨日今日でほぼ理解していることに驚いたし、質問内容も領地とは何たるかを理解していないと出てこない質問ばかりであった。そして、会話から察するに、彼女は頭の回転も速い。


久しぶりに、領地に関して深い話が出来て、俺はとても楽しかった。

少し話をしただけで、彼女の聡明さはわかるのに、叔父はなぜ気がつかない?



なじみのベーカリーを彼女に紹介したところ、気に入ったらしく、彼女はその店のお菓子をいくつか購入していた。きっと彼女の侍女達のお土産か、自分用だろうと思っていたら、その一つを俺に差しだした。


「私にですか?」


「んー、ロビンっていうか、メリンダ?に。今日、あなたデートの約束あったんでしょう?エドワードの言いつけとはいえ、申し訳ないから、彼女にあげて!大したものじゃないけど、お詫びの印に。って、余計な事だったかしら?」


「...。」


なんていうことだ。

適当に言ったあの事を、真に受けているなんて!

しかも、俺、あの時、何て言ったっけ?

メリンダに、次の日はナターシャって言ったっけ。


...。


そういう設定で叔父に近づいているけどさ。

軽い奴って思われているよな。そうだよな。


確かに人には会う。

人には会うが、内偵に入っている暑苦しい男達だ。


ヤダッ!

あんな男達に、これ渡すのヤダ!

絶対ヤダッ!!


そうだ!

これから案内しようと思っていた「あそこ」で、彼女と二人で食べれば良いじゃないか!


「そうだ!これから、俺のお気に入りの場所案内するんで、そこで食べませんか?」


「あら、お気に入りの場所連れて行ってくれるの?うれしいわ!」


「早駆はできます?」


「もちろん!」


「では!」




早駆けは久しぶりと言っていたが、軍で鍛えた俺に付いてくる彼女は、本当にすごいと思った。

一体彼女は、どんだけ優秀なのだろう。



ある意味、一番案内したかったこの場所は、誰にも教えていない俺のとっておきの場所。

森を走り回っている際に偶然見つけたこの場所は、森の高台にあり、畑や町、山に川と領全体を一望できる。


イーサムに怒られて不貞腐れた時や、勉強につまずいた時、剣術のけいこで打ち負かされて悔しかった時、久しぶりに父に褒められてうれしかった時、いつもここに来ていた。そして、「あの日」以来久しぶりにこの領へ戻ってきた時も。


「良い場所ね。気持ちが落ち着くわ...。

 

 私ね、最近ちょっと気持ちが落ちていたの。

 でも、今日ここに来れて良かったわ。

 なんか自分の悩みなんて、ちっぽけに見えてきたわ…。ありがとう。」


少しでも彼女の気持ちが晴れれば良い...。

そう思いながら、夕日に当たった彼女の横顔は、とても綺麗だった。





屋敷に戻ってから、義務的に感想を聞いてきた叔父に、彼女の聡明さを言おうと思ったが、止めた。

自分のキャラを偽っている上、叔父の彼女に対する扱いの真意が見えない中語るのは、どう転ぶかわからない。今は、俺だけが知っていれば良い。とりあえず、当たり障りないことを答えておいた。それに対して、叔父も、それ以上突っ込んだ質問をしてこなかった。


他の内偵の者達と情報交換をしたり、屋敷内を探ったりしながら、数日滞在したのち、殿下に報告する為、俺は王都へと戻った。


トルタイム領を出る前に、彼女にブックリストを渡してきた。あの感じだと、今後も彼女に必要な教育は施されないだろう。


ついでに、きっと堅苦しい本ばかりでは、飽きてしまうだろうと思い、領地とは全く関係無い自分の愛読書も混ぜておいた。


次回、屋敷を訪れた時に、彼女から感想を聞くのが今から楽しみである。



□□■□□■□□■□□■


気持ちを整え、殿下の執務室をノックする。

彼に従えてから何年も経つが、この瞬間はやはり緊張する。


「どうぞ~」


「失礼いたします。」


「どうだった?」


「まだ、目立った動きは...。」


「じゃなくて、君の叔父上の新しい奥さん!美人だった?」


「...。ええ、まあ」


「ふ~ん、君がそう答えるという事は、結構美人だったんだね。」


いやいやいや、確かに彼女は、美人だしナイスバディだ。だが、彼女の良さは外見だけではない。気づかいはできるし、馬もすごい。頭も良いし、努力家だし…


我に返り、ふと殿下を見ると、ニヤニヤしている。


「な、何ですか!?」


「べーつにー」


「報告は聞かなくて、宜しいので?」


「はいはい、聞く聞く!」


「ジェファー卿自身の関与はまだわかりませんが、屋敷内で何人か関与している節があります。次回その線から手繰っていこうかと。あと、内偵に入っている者からの情報ですと、やはり彼の国の間者が領内に入り込んでいるようです。」


「わかった。引き続き頼んだよ。

 僕のほうでも、あの国の動向、外交筋から探ってみる。」


「よろしくお願いいたします。」



叔父に怪しまれない為、トルタイム領に入り浸るわけにもいかず、殿下に報告した後、すぐに戻らず、間を空けてから、領に戻るようにしている。その間、「暇だろ」と言って、沢山仕事を押し付けてくる殿下。


いや、俺だってやる事あるし。

てか、この仕事なんか完全に殿下の仕事じゃん!

オレ、やっちゃって良いの?

ダメじゃね?


この前なんか、晩餐会の冒頭挨拶文、俺書いたし...。

自分で考えて書いた方が、頭に入ると思うんだけどな。

あの晩餐会、祖父さんに連れられ、俺も参加したけど、我ながら良く書けていたと思う。

「さすが、殿下ですわぁ~。」と隣のどこぞのご令嬢も呟いていたし。


それにしても、あの晩餐会では、カメリアほど目を引く美人いなかったな...。

はぁ~、早く領に戻りたい...。


「...。」


オレ、今 なに かんがえて い  た?


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