第32話 初めてのゲート通過
地球では人口最大の国の国家主席がメッセージを発信した。
「我が国で保管されている古き地図に、異世界の地図に我が国の名前が表記されているものが見つかった。異世界の土地は、我が国固有の領土である」
(アイゼン、これって領土戦争をやるつもりなのかな)
(はい、人員を送り込むようです)
(帰れないという情報は伝わっている?)
(はい、それでも続行するようです)
(これって、他国も乗り込んでくる国がありそうだよね)
(未来の事は分かりません。ですが乗り込む準備をしている国はあります)
そっか。
それならまぁあとは好きにしてというしかない。
別に異世界に来た地球人に対して僕が何か責任を持っているわけではない。
ネグリジェの事は当然僕が守りたい。
シースルーも一緒に生活をしているうえで愛着がある。
この二人だけは僕が守る。
九条さんは一応ネグリジェ関係者だし、僕の大学の先輩にもなるから何かあったら助けに行く。
でも僕が考えるのはここまでだろう。
僕の国に手を出してきたときの為にも、こっちはこっちで力をつけないといけない。
ゲートの力を独占するために、こっちの世界でならとんでもないこともやりかねない。
まずは開拓都市らしく開拓を続けよう。
ここには地球人以外の大切な人たちもいる。
2月に入り農村の人の引っ越しも終わった。
現在は開拓都市の中心付近にそれぞれ家を用意した。
人数は63人。
水田にある農村でも良かったのだが、それは田植えの時期からでも十分。
この辺では4月に入ってからだそうだ。
僕が考えるよりもプロに任せよう。
その前におそらく北西の港町、キラリクとの戦争が始まるだろう。
カルカトリス国の援軍として。
そしてそこで正式な同盟となる予定だ。
その為にも、最低限鉄道の研究までは確保したい。
僕達は空を飛べばいいけれど、それだと外から街に人が訪れづらい。
せっかくの迷宮という資源、冒険者を呼び込んで活性化させよう。
農村の男だけでは、ぽよぽよお姉さん達は満足してくれない。
今でも僕の影分身達はフル稼働中だ。
そんな折、マイケルさんからの呼び出しがかかった。
何か用事があるらしい。
マイケルさんの傍に誰もいないことを確認し、マイケルさんに念話で話しかけた。
(マイケルさん、何かありましたか?)
(おお、ニク君、久しぶりだね。会議室でいいかな?私だけでなくミナも話したいだろうしな)
念話に答えたマイケルさんに連れられて、会議室に向かった。
集められたのはマイケルさん、ミナさん、執事長さんの3人だった。
「ここなら声で大丈夫ですね。皆さんお久しぶりです。ニクです」
僕は会議室にゲートを開いて話を進めた。
「突然すまないね、ニク君。転移魔法陣に関して地球側の対応は確認しているかね?」
「はい、ヒマラヤとマッキンリーは軍が主導を握っているようですね。他の3か所は観光客や個人が入り込んでいるというのは分かっています」
今の所、2国以外は慎重な姿勢を見せている。
エアーズロックは一番入り込みやすいからここに軍が来るかと思っていたけれど、聖地として立ち入り禁止を予定している以上、あまり大きなことはしたくないようだ。
「その者達はどうなっているかね?」
「そこは調べていませんので。調べると助けたくなるかもしれませんし、助けたら最後、言葉が通じない以上ずっと面倒を見続けないといけなくなりますので。
自己責任で自分から来た以上、自分で生き抜けないのであればそこまででしょう。
巻き込まれた転移者とは状況が違います」
ネグリジェやシースルーの面倒を見るのは特に問題はない。
というか常に一緒に暮らしているし、いろいろと積極的だし、失うなんて考えられない。
普段は言葉が通じるから、他の人とも交流できるし負担は特にないしね。
「そうか。確かに保護し続けるのであれば見合う対価は必要だな。
言葉が通じるのは、国王のニク君かもしくはその側近のネグリジェさんとシースルーさんの二人だけ。大統領を通訳のために呼び出して使うようなものだ。
難しいな」
一応確かに僕は国王だし、ネグリジェやシースルーをそんなことに使いたくない。
何人来ているのか知らないが、自力でサバイバル生活でも頑張ってくれ。
もし僕の開拓都市にたどり着いたのであれば、迷宮で稼ぐなら住処ぐらいは用意しよう。
でもその為には商店とか早く稼働させないと食料品とかすら買えないな。
「ニク君、出入りのゲートの大きさはそれが最大かね」
「いえ、もう少し大きくなります。
今は大体これくらいですね、他にも割いていますのでほんの少しだけはさらに大きくなりますが、これで通れないなら通れないでしょう」
迷宮で活動しているユニットのお陰で僕自身のレベルは少し上がったが、ゲートのレベルはまだ上がっていない。
直径が約35cm程度のままだ。
「ミナ、通れるかい?」
「無理やり通れば通れるとは思います、おじい様。あと5cm広ければ普通に通れるでしょう」
試してみると、確かに通れた。
肩が通らないかと思ったけど、別にまっすぐそのまま通る必要はない。
片方の腕と肩だけ頭と一緒に先に通し、もう片方はひねるようにして通してきた。
確かに土管のように長いわけでもない。
リングを通り抜けるだけなら何とかなるのか。
お尻を通すときがちょっと大変そうだったけど。
「厳密にゲートを通って地球と異世界を移動したのは、ミナさんが初めてですよ。
通れないと思ってました。
僕の大きさだと、もう少しレベルを上げてゲートを大きくしないと無理そうですけど」
「動けるようになってからもプロポーションの維持は頑張っていますから」
確かに細くてナイスバディーなんだよね。
「今ならニク様の素顔を拝見できる」
ふふふとか言いながら近寄ってくる。
「ダメですよ。ここでは僕とかネグリジェとかに敵意を向けるとフィールドからはじけだされちゃいますから。冗談のうちにやめておいてください」
「あらあら、それは困りましたね。
では取り入るためにもすべて脱いだ方がいいでしょうか。
服がない方が帰るのも楽でしょうし」
そう言いながらゆっくりと脱ぎ始める。
「ダメです。もう、からかわないでくださいよ」
「ニク君、ミナを貰ってくれてもいいのだよ」
「マイケルさんまで勘弁してください。僕にはネグリジェというお嫁さんが決まっています」
「残念だのう。では愛人の座でも射止めるのだ」
「シースルーみたいなことを言わないでください」
シースルーは自称愛人だ。
妾でも何でもいいとか言っているけど、楽しければいいという精神。
開拓の協力になってくれるので助かってはいるのだけどね。
「前例があるのならよいな。ミナ、頑張りなさい」
「はい、おじい様」
「ってちょっと、こっちで暮らす気?」
「ちょっとしたテストを依頼したくてな」
マイケルさんが本題を切り出した。
「まずはレベルやステータスというものをどのタイミングで見ることができるようになるのか。職業もそうだな。あとはレベルを上げた時に実際どれくらい変わるのか。
もちろん言葉の問題もあるし、十分に謝礼は用意させてもらう。
この間と同じくらいでどうじゃ」
いやいやいや、この爺さん何言っているの?
この間って100億ドル貰ったよ。
一兆円オーバーですよ。
「期間が分かりませんが、さすがに出しすぎです。
とりあえずわかりました。
今のところお金には余裕があるので、無事に終わってから適当にもらいます」
「ミナを愛人として迎えて、儂の資産ごと持って行ってもらってもよいのじゃぞ」
「マイケルさん、シャレにならない額だと思うので聞きたくないです」
世界的大富豪、100億ドルをポンと出してしまうような。
怖すぎる。
「後は何か機会があれば、ミナにそちらの言葉を勉強させてほしい。
それに関しても必要な人数分の支払いをしよう」
言葉の勉強か、暇している時にやってみるのもいいかな。
ぽよぽよお姉さん達もまだ暇だろうし、協力してもらうのもいいかな。
マイアとかも結構暇だしね。
「分かりました。色々とこちらの世界の人に手伝ってもらいますので、費用の交渉はミナさんに任せます。
僕だとお二人とは生活レベルが異なりますので、今の希望にどこまで予算をかけるのかとかの想像がつきませんから」
丸投げしよう。
交渉とかは苦手だ。
「それで構わんよ。ミナが言葉を覚えて通訳になることができれば、行き来のめどが立った者を送り込むこともできる。使える手足は多い方が良いじゃろうし、冒険というのも楽しそうじゃしな」
「マイケルさんももしかして乗り込んでくるつもりですか?」
「通れるようになったらな。流石に戻れないうちに転移魔法陣で移動してしまうには立場がまずいからなぁ。というわけで、ミナ。頑張って言葉を勉強するのだよ」
「はい、おじいさま。頑張ります。ニクさんよろしくお願いします」
こうして言葉の通じないミナを預かることになった。




