第27話 こんなこともあろうかと
「これでとりあえず秘密裏に処理されることはなくなったわね。
報道陣が一緒に中に入れば、何も持っていないことは分かるわけだし。
おそらくその命令も下されないでしょうね。
後は私達がどうするか、でしょうね」
「このままのんびりとしていましょう。
こんなこともあろうかと、ですよ」
キャメルさんの言葉に僕はそう返答した。
こんなこともあろうかと。
一度言ってみたかったので、ちょうど言ってみました。
元々、キャメルさんルートは難しかった。
まずはホテルからの脱出。
ホテルの中にまで監視の目が入っている以上、ホテルから外に出ても監視が付いてくる可能性が高い。
次に日本からの出国。
同じように監視の目がある以上、空港に向かえばすぐにばれる。
そして最後の難関が今。
キャメルさんが移動するには物理的な移動なので時間がかかる。
しかし、相手は電話一本で回り込める。
ではなぜ僕はキャメルさんに連絡を取ったか。
それは暗躍している相手を表に出すために。
「キャメルが空港で武装した軍に足止めされているだと。
どういう事だ」
メッセージを発信した大富豪、マイケル・ビッカードは自宅で激怒していた。
半年前、突然息子と娘一家を悲劇が襲った。
テロリストの標的になったのだ。
彼らが使った毒薬により、息子と娘と娘の夫は救出した時には既に亡くなっていた。
孫娘は奇跡的に命を取り留めたが、回復の見込みはない。
既に両手両足が壊死してしまっており、その書状は今は体にも回っている。
延命措置すらあとどれくらい持つかもわからないのだ。
何とかまだ生きているが、今の医療技術では手の施しようがない。
今はコールドスリープの研究にも金をつぎ込んでいる。
金ならいくらでもある。
しかし金ではできないことがあることをマイケルは知っている。
そんな折に舞い込んできたのが異世界騒動だ。
もちろん最初はそんな空想事をあてにはしていなかった。
オカルト映像などというのはいくらでもあるのだ。
しかし日本での報道の報告を見て考えを変えた。
何かがある。
マイケル・ビッカードは大富豪。
主要な国の情報は手に入るように手を回してある。
それは普段の日本の報道を知っている者からするとおかしな報道だった。
具体的な悪が見えない状況で報道を継続している。
日本の報道は目に見える悪をとことん報道する。
無差別殺人事件、人為的な事故、政治家の汚職、有名人のスキャンダル。
つまり相手が誰であり、具体的に何をやったのかが分かる報道を続けるのだ。
それ以外は事件や事故であっても、長くは放送が続かない。
特に今回の報道は、本当であればそれは天災ともいうべき自然現象だ。
少なくとも地球人が起こしたことではないだろう。
それを誰かに押し付けようと必死になって居る。
裏に誰かがいる。
大富豪の嗅覚は伊達ではない。
何かを知る誰かが裏から手を回している。
よほどの大物、そしてそのものは異世界があるということを確信している。
あの映像が本物であると確信している。
日本に優秀な代理人を送り込む。
鍵は、日本にある。
そして動きがあった。
ニク少年。
二つの国の情報からすると、あれもおそらく18-20の間の少年だろう。
彼がメッセージを発信した。
そのホームページを見ると、依頼をクエストとして掲載する組織を作ったようだ。
つまり彼に依頼ができる。
しかし具体的な方法は書いていない。
依頼の内容も報酬も決まっていない。
依頼をしても、それを誰かが受けるかどうかも分からない。
しかしそんなことはいつもの事。
報酬次第で動く者もいれば動かない者もいる。
仕事内容と見合う報酬というのは人によって異なるからだ。
であればこれは自分の分野だろう。
成功報酬にすればいい。
金に糸目はつけない。
孫娘は唯一残された肉親。
順番なんて待っていられない。
方法がないのであれば、相手に伝わるようにすればいい。
伝わるまで何度でもメッセージを発信しよう。
そして代理人が連絡もなく帰国した。
つまり連絡ができないほど緊急の何かが起きたということだ。
それは進展があり、連絡を出来ない事情があるという以外には考えにくい。
藁にも縋る願い。
それを邪魔する者がいる。
マイケルは自宅を出て門までたどり着くと、門の前にいる報道陣に告げた。
「ワシの代理人が空港で武装した軍に足止めされているという話を聞いた。
誰か詳細を分かるものはいるか?」
家の前には報道陣がいる。
おそらく同じ会社の人間が現地にいる者もいるだろう。
カメラはマイケルの方を向き、アナウンサーはマイケルの発言を報道。
そして傍にいするたっふは本社と連絡を取っている。
1社だけではない、複数の報道会社がそこにはいた。
メッセージを発信した後の動きを追い続けている者達だ。
そしてその報道陣が家になだれ込まないようにという名目で、なぜか武装した軍が配置されている。
軍の一部は報道陣の格好をして紛れ込んでもいる。
もちろんマイケルはそのことを気づいた上で言っている。
武装した軍に足止めをされていると。
同じ武装した軍人たちを睨みつけながら。
報道陣の本社も詳しい情報は分からないようだった。
(驚かずに聞いてください。頭の中に直接メッセージを送っています。
そのまま怒りながら、家の中に戻ってください)
僕はマイケルさんに向かって念話でメッセージを送り、簡単に状況を説明した。
僕は日本でキャメルさんに会いに行く前に、もう一つゲートを進行させていた。
せっかく拠点が上野なのだ。
成田空港までは電車で一本。
電車にゲートを張り付け、そして空港に向かう人を経由し、さらには目的地に向かう飛行機に張り付けた。
着陸した後は再び人に張り付けて空港の中に入り、そしてアイゼンの情報を使って目的地付近に向かう人に片っ端からゲートを張り付けた。
一度ゲートを張り付ければ、消しても再度開く事が出来る。
ゲートは別にいくつでも構わない。
そして目的地の町に誰かが着いたところでアイゼンに情報を貰い、その人のゲートを開いた。
その後は上空を飛ぶ鳥に片っ端からゲートを張り付け、目的地付近を飛んだところでやはりアイゼンから教えてもらってゲートを開き、敷地内ゲートを設置できた。
元からキャメルさんはいなくてもできた作戦。
キャメルさんが無事にたどり着ければそれでもよし、暗躍している人が表に出てきてもよし。
どちらにしてもなんとかなる予定であった。
(主治医とメイド長と執事長を連れて、孫娘、ミナさんの元へ向かってください。それと念のため記録用に動画を撮影しておいてください。収音マイクで外から音が拾われていますので、しばらく念話で失礼します)
マイケルさんが家の中に入ったところで再び念話でメッセージを送った。
ゲートは既にマイケルさんに設置してある。
(皆様はじめまして、異世界に転移した者の一人のニクです。この部屋も声が外から拾われていますので念話で失礼します。撮影はお嬢さんが治るところを記録しておいてください。皆さんの言葉を信じられないという人に、見せるかどうかを検討してください)
そして僕は窓の外から見えない位置にゲートを作り出し、マイケルさんにエリクサーを渡した。
(それがミナさんを治す魔法薬、エリクサーです)
エリクサーという単語を聞き、執事長と主治医がピクッと反応した。
(お二人が予想したそのエリクサーです。異世界でも最高級の魔法薬です。残念ながらそれ1本しか手元になく、そして次に手に入れることができるかどうかすらわかりませんので落とさないでくださいね)
落ちたくらいでは割れないとは思うけど。
多分。
(では使い方と皆様の役割を説明します。本来であれば、飲むか体にかけるだけで十分です。しかし今は、異世界にはない点滴と人工呼吸器がありますので、どういう作用をするかが不安です。
まずは点滴を外し、針も抜いてください。そしてエリクサーの1/4ほどを肩から胸辺りにかけ、1/4ほどを頭にかけ、ミナさんが目を開けて気が付いたら呼吸器を外してください。そして少しだけ口に含ませ、飲み込めるように落ち着いたら残りを全部飲ませてください)
アイゼンに使い方を確認し、呼吸器による何かしらのダメージがあったとしてもその後で回復できるように順番を伝える。
(執事長は全体の状況を撮影。エリクサーを振りかけたり飲ませたりするのはマイケルさんが、メイド長はミナさんの着衣をはだけたり、いろいろなお世話を。主治医の方はまず点滴を外して針を抜き、その後タイミングを見て人工呼吸器を外してください)
緊張した面持ちで全一が動き始める。
僕は撮影に移らないようにゲートを閉じ、別の場所から小さなゲートで様子を確認した。
主治医が点滴を外し、針を外す。
これだけであれば再び戻すこともできる。
続いてメイド長がミナさんの上着を脱がせた。
本来であれば素晴らしい光景が見られるところだが、全体的にやせこけ、ところどころ変色していた。
そこへマイケルさんがエリクサーの蓋を外し、胸のあたりを中心に1/4程度を振りかける。
効果は絶大だった。
振りかけられた周辺が光に包まれ、生気が満ち溢れていく。
全員が驚きの光景に目を見張り、動きが止まってしまった。
(マイケルさん、続きを。目を覚まさずに肺が自発的に動きだすと、苦しいかもしれません)
僕は人工呼吸器の原理を知らない。
おそらく、こんなに急速に回復するということも、本来はありえないだろう。
僕の念話で割れを取り戻したマイケルさんはミナさんの頭に1/4ほどエリクサーを振りかけた。
こちらも効果は絶大だった。
生気のなかった顔に生気が戻り、抜け落ちてしまっていた安宅らはきれいな金髪の髪がすごい勢いで生え、そして目を覚ました。
急いで主治医が人工呼吸器を自発呼吸モードに切り替え、そして取り外しにかかった。
人工呼吸器の取り外しが終わった後、マイケルさんはミナさんにエリクサーを少量のませ、飲み込めることを確認したのちに全部飲ませた。
体中が光に包まれ、光が消えた時には全身がきれいな女性の姿になっていた。
痩せこけていた体は見事なプロポーションとなり、裸の上半身には見事なぽよよんが。
壊死した手足も既に通常の状態に戻っている。
(ミナさん初めまして。音声が外から拾われていますので念話で失礼します。
ニクと申します。メイド長さん、ミナさんの上着を着させた上げてください。
もう体は普通に動くはずですので、自分でも着られると思いますけど)
そしてミナさんは自分の格好に気が付き、バサッと素早い動きで上着を羽織った。
(手は無事に動くようですし、おそらく普通に歩けるとも思います。体力も全壊しているはずですので、念のため最初はゆっくりと立ち上がってカメラを構えている室次長さんの方に向かってみてください)
すかさず僕は執事長さんを生贄に差し出す。
僕に見られた恥ずかしさを、カメラに撮影された恥ずかしさでごまかす。
お仕事頑張ってください。
その後普通に動けることを確認し、声が拾われているので小声で会話ができることも確認した。
そしてシャワーを浴びてさっぱりしたミナさんは、しっかりと着飾ってマイケルさんと一緒に自宅の門へと向かった。
キャロルさんを開放する決め手とするために。
全てはもう終わったことだと報道するために。
そして暗躍している者達の反応を見るために。




