第21話 ドラゴン
大陸に着く前に、島が見えた。
初めは大陸が見えたのかと思ったのだけれど。
直径にして数十キロ、十分大きな島だろう。
海の上では海面から少し離れて、海が見えるように撮影しながら飛んでいた。
魚が飛び跳ねている姿も見えた。
島の生物も何か撮れないかな。
島の上空を飛行しながら島を撮影する。
しかし残念ながら、なかなか動物が見当たらない。
そして突然、光の奔流にのまれた。
何が起こったのか分からなかった。
辺りを確認すると、そこには大きな口を僕の方に向けている生物が飛んでいた。
「ドラゴン」
蛇のような龍ではなく、トカゲを大きくしたような竜。
大きな翼を広げ、その巨体を空に浮かべている。
全身は黒。
ブラックドラゴンと呼ぶのだろうか。
「試練に挑みし者よ、第一の試練の突破を宣言する」
試練?
試練に挑みし者?
ドラゴンがしゃべった?
いや、もしかしたら転移者だから聞こえているだけかも。
「あのー、人違いではないかと」
僕は試練なんて知らないし、試練に挑みし者でもない。
あれ?
今受けている依頼が試練なんていう事はないよね。
地球からの依頼だし。
「第2の試練を始める」
僕の言葉に反応せず、ドラゴンは追加の言葉を告げた。
光のブレスに続き炎のブレス。
雄叫びに尻尾での打撃、さらには爪での斬撃。
飛ぶスピードも向こうの方が速い。
そして魔法抵抗も高く、眠らせるなどの直接的な魔法も通じなかった。
しかし途中で気が付いたこともある。
相手の攻撃が僕に全く通じていない。
僕の完全耐性は、魔法だけでなく物理も効かないらしい。
斬撃耐性、打撃耐性、衝撃耐性。
しかも装備や持ち物にも耐性は有効のようだ。
前に装備の防御録は覆っていない部分にも効果があると教えられたが、耐性の能力は持ち物にも影響があるようだ。
倒せないけど倒されない。
僕はカメラを構えてドラゴンの迫力ある攻撃を撮影することに専念した。
他のメンバー連れてこなくてよかった。
「全ての試練の突破を宣言する。
試練に挑みし者よ、汝の望みをかなえよう」
どうやら終わったらしい。
何だったのだろう。
「ドラゴンさん、なんで僕が試練に挑みし者なんです?」
とりあえず聞いてみた。
「我が名はウルドラ。汝が試練に挑みし者であるのは試練の島を訪れたが故に」
この島が試練の島なのね。
通りかかっただけなんだけど。
「望みってなんでもいいんですか?」
元の世界に変える何か、もしくはゲートの大幅レベルアップ。
この辺のことができないだろうか。
「否。神殿の守護者へ叶える最初の望みは、聖域の設置である。
汝が守護するドラゴンの神殿へと案内せよ」
ドラゴンの神殿。
そういえば建設したね。ドラゴン信仰の研究ででてきた建物か。
今は別の場所に向かっているので、帰りにもう一度寄ることにした。
ドラゴンにとっては大した時間ではないらしく、普通にそれでいいと言ってくれた。
ドラゴン、完全に異世界要素だった。
迫力もあったし、ライブ配信は大盛り上がりに違いない。
試練の島を過ぎ、西の大陸の港に着いた。
港の傍にはセキレイの町があった。
そして町にはサンセンさんに聞いた通り、鉄道が敷かれていた。
走っている列車は蒸気機関車。
こっちの科学は工業化時代の蒸気機関と鉄道までは進んでいるようだ。
今の開拓都市よりも先の技術だ。
この依頼が終わったら、早めに研究を進めておこう。
その日はセキレイの町で一泊。
翌日の朝、汽車に乗って首都カルカトリスを目指した。
空を飛んでもいいけれど、なんとなく乗ってみたかった。
セキレイの町から首都カルカトリスまでの料金は銀貨15枚だった。
途中で4つの町を経由する。5駅目が首都、単純に1駅辺り銀貨3枚だった。
銀貨100枚で金貨1枚。金貨1枚あれば平民4人が1月暮らせる程度の価値。
感覚的には銀貨が1枚1000-2000円程度だとおもう。
ちなみに泊まった宿屋は、夕食と朝食付きで1泊銀貨8枚だった。
汽車の旅。煙いしガタガタするしと不満点は多かったが、予想以上に速かった。
朝早く出たとはいえ、その日のうちに首都まで着いてしまった。
3000㎞以上あったはず。
アイゼンに確認したところ、やはり時速400㎞以上の速度で走行していたらしい。
蒸気機関車なのに。
どうやら汽車は輸送ユニットとして扱われるらしく、レベルが高い人が運転すると攻撃、防御、移動速度が上がるらしい。
科学どこいった。
現状の地上の輸送ユニットとしては最速だそうだ。
レベル補正はあくまで倍率が上がるだけとのことで、馬より鉄道の方が速いらしい。
空を飛んだ方が速いのは確かだけど、まだ航空機までは発展していない。
魔法の国側には飛空艇があるらしいけれど、魔石を大量に消費するということで普及はしていないらしい。
「ここが首都カルカトリスか」
首都は夜でも活気があった。
駅前だからということもあるだろう。
人通りが多い場所に酒場が連なる光景は、地球でも異世界でも同じようだ。
「お兄さん、良い宿があるよ。美味しい食事と私がついて、1泊金貨1枚」
駅から出て食事と宿を探そうとキョロキョロしていたところ、立派なぽよぽよを押し付けながら呼び込みをしているお姉さんに捕まった。
しかし僕の傍には、ぽよぽよ姉さんの同業者が108人もいるのだ。
僕のぽよぽよ耐性は日々向上している。
首都の調査は必要ですよね。
食事もおいしかったし、泊まるところも清潔だった。
ぽよぽよお姉さんも素晴らしかった。
首都の調査は一つ進んだはずだ。
翌朝食事を終え、ぽよぽよお姉さんと別れた僕は城へと向かった。
城門で兵士に冒険者カードを見せ、要件を告げた。
「ニク殿、予定通りだな」
モンドさんが城の中から出てきた。
一昨日ネメキスの町で会ったモンドさんは一緒についてはいけないと言っていた。
いくつか仕事を片付けないといけないから。
しかし、一人で直接城に行っても国王との面会には時間がかかる。
そこで直接空を飛ぶのではなく、電車で移動して今日の朝城で一緒に合う手はずとなっていた。
モンドさんの飛行速度がおかしい。
この人はネメキスの町と首都との間を4,5時間で移動してしまう。
時速にすると800㎞を超えるくらい。
でも音の壁にぶつかったSランク冒険者ジルと比べると、まだまだ抑えている方なのかもしれない。
Sランク冒険者と戦争最前線で実際に戦う指揮官。
二人とも歴戦の強者だしね。
僕はまだまだレベルが低い。
国王との面会はあっさりと叶った。
元々モンドさんが手を回してくれていた。
公式の謁見ではなく、国王の執務室で。
これは僕の立場がいろいろと微妙なことが原因だった。
まず僕は国の国王として、今この国に着ているわけではない。
あくまで冒険者カードを見せて、冒険者として自由に移動している。
これが国の王としての立場であれば、勝手に行くようなことはできない。
まずは相手の国に訪問の希望を告げ、日程を調整し、国同士での会合を開き、同盟を結ぶ形となる。
それには時間がかかるし、僕の開拓都市の状況をまだ見てもらってすらいない。
しかしそこは転移者、無下に扱うことはできない。
そして予め送った贈り物の事もある。
水面下では同盟の準備は動き出している。
国王様は気さくな人だった。
謁見の間ではないのだから堅苦しい挨拶は不要。
そう言いながら送った指輪をはめて宙に浮いて飛んできた。
王妃様は、国王様のはしゃぎっぷりがすごいのよ、と笑っていた。
そして第一王子と第一王女を紹介された。
二人とも僕よりも少し年上だった。
今回この国に寄るにあたり、アイゼンで国王の家族構成を調べておいた。
そしてどうせ行くならそれぞれに贈り物をしようという事になった。
地球ではありふれたものを。
科学の国では、この先発展したら作れるようになるであろう物を。
まずは僕が使っているのと同じ、飛行魔法を付与したブルーシート。
大きさも同じものを選んだので、王様、王妃様、王子様に王女様。
他にも側近や護衛位は乗せられるだろう。
王妃様には3面鏡とブラシ、王女様には手鏡とブラシ。
これは、鏡以外の部分はプラスチック製の物を選び、自動修復の魔法を付与してある。
プラスチックはまだこの国では作れないし、鏡もまだここまできれいなものは作れない。
二人とも大変喜んでいた。
そして国王様と王子様には太陽電池の付いた簡単な計算機。
もちろんこちらにも自動修復の魔法を付与してある。
筐体のプラスチックはもちろん、中の電子機器などはまだ夢のまた夢。
数字の対応と計算記号の、この国の文字との対応表も一緒に渡した。
流石に計算機の方はいじれないからね。
もちろん二人とも喜んでくれた。
実務で役に立ち、さらには将来の発展の目標ともなる。
将来の交流の事を考え、僕達の世界としてはありふれたものであることは伝えておいた。
自動修復はさすがにこちらの世界限定だから、魔法が付与されているという意味では特別だけど。
それを聞いてもなお、喜んでくれた。
自分達ではまだ作れない、オーバーテクノロジーであると。
春になって、キラリクの町を落としたらそこで再び会うことになった。
僕の開拓都市から一番近いのがキラリクの町、そしてその次がネメキスの町。
南側の道路だと、その後の前線になる。
まずはキラリクの町との間に道路を作り、お互いの移動を楽にする計画にした。
僕としてはそれまでに鉄道を使えるようにしておきたいところ。
国王との会談が終わり、僕は地球からの依頼を遂行するために、再び訪問相手の位置情報を調べた。
彼女は二日前の町にはいなく、首都の近くにある迷宮に居た。
盗賊にさらわれた、というわけではなく冒険者として迷宮に行ったようだ。
しかも4人PTで全員が転移者。
近くに迷宮があるため、ここの冒険者ギルドは盛況で、首都にも冒険者が多い。
アイゼンの情報では、特に危険な状態ではないとのことだったので首都で待つことにした。
せっかく大きな町に着た、しかも冒険者も多く、武器屋や防具屋もある。
実践装備としては必要がない。
武器は買うよりも作った方がいい。
防具に関しては、ドラゴンの攻撃で無傷の僕に攻撃が通じるとは思えない。
しかし、見た目は重要。
他人から見た第一印象はやはり見た目。
そういう注文をしてアイゼンにお勧めとなる防具屋を案内してもらった。
飛竜の革防具一式。
魔法は付与されていないが、軽くて通気性もよく、マントは水捌けもよい。
飛竜の皮鎧、飛竜の革靴、飛竜の小手、飛竜の帽子、飛竜のマント
インナーとしてTシャツに短パンかGパンを履けば十分だった。
金貨10枚。
結構な値段だが、盗賊やネメキスの町の戦利品で十分な金貨があった。
落ち着いて商売を始めれば、金の心配はしなくてもよくなると思うしね。
さらにそれぞれに魔法を付与した。
革鎧に飛行、革靴に移動速度上昇、小手に腕力上昇、帽子に念話、マントに隠密。
隠密は能力の時ほどの効果はないが、それでも隠れようと思うと周りからは気づかれなくなった。十分な効果だった。
夕方になり、目標の冒険者PTが戻ってきた。
泊りがけでの迷宮探索じゃなくてよかった。
男二人、女二人の4人PTだった。
宿は1人1部屋撮っている状況だった。
まだあってからの時間が短いためかもしれない。
ばらばらに部屋に入った状況で、目標の冒険者の部屋の扉をたたいた。
「どちら様でしょう?」
彼女は部屋の扉を開けて僕を見てそう言った。
最初は仲間の誰かが来たと勘違いしたのかもしれない。
そして僕は一言
「宅配便でーす」




