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ただいま転移暴走中  作者: ヨウ
第1章 異世界と地球
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第13話 レベルアップ

「そういえば、なんで帰りはあんなに速く移動できたんだろ」


明らかに行きとはスピードが違った。

ブルーシートも、空飛ぶ馬も、とんでもなく速かった。


「レベルが上がったからだろう?」


マイアがあっさりと答えを言った。



「レベルアップ?」



「あれだけの盗賊を倒したのだ、当たり前だろう」


マイアがそういうということは、ここではそれが常識なのだろう。

つまり僕はレベルアップをしているのか。



「僕は眠らせるだけしかできなかったけど?」


倒したといっても、僕は最初に眠らせただけでほとんど何もできていない。

あっという間にマイアがほとんど倒してしまったように見えた。



「ニク殿、戦闘中に寝るということは、死ぬのと似たようなものだ」



そうなの?

睡眠って大体のゲームでは1発で起きちゃうけど。



「あれだけの数がいたのだ。相手が動かないからこそすぐに倒せた。

剣となったアル殿のおかげでもある。

それに、PTを組んでいるのだ。

誰が倒そうが経験値はみんなに入る」



なるほど、PTか。

つまりとどめを刺した人や活躍した人が経験を積むのではなく、PTを組んで誰かが倒せば経験値がもらえる仕組みか。


あれ?

でもレベルアップをして僕の動きが速くなるのは何となく理解できる。

なんでブルーシートが速くなるんだろう?



「レベルアップをしたら、なんでブルーシートの飛行速度が速くなったの?」


「ブルーシートは飛行ユニットなのだろう?飛行ユニットはレベルが上がれば速度が上がる。もちろん攻撃力や防御力、耐久力なども上がる」



?

つまりレベルアップの話って。

ブルーシートがレベルアップしたってこと?

飛行ユニット、レベルアップ。

航空機扱い?



言われてみれば確かに航空機だけど。



「ブルーシートは何でレベルが上がったの?

ブルーシートはPTに入っていなかったと思うけど」



「ブルーシートは魔法の道具だろう?

魔法の道具は常に所有者と同じPTの扱いとなる。

イー殿やアル殿と同じだ」



そうなんだ。


「マイア、もしかして僕とネグリジェの服もレベルアップしているってこと?」


僕とネグリジェの服に飛行魔法を付与したけど。


「当然だ。

飛行ユニット扱いか防御ユニット扱いかはわからないがレベルアップはしているだろう」



防御ユニット。

つまり攻撃ユニットもある?


「もしかして魔法の道具で装備を固めたら、装備も一緒に成長して強くなる?

服以外にも剣とか盾とか靴なども」


「当然強くなる。

アクセサリーやマントや兜などもな。

揃えるのにいくら掛かるかは、分かったものではないが。

だからあっさりと空飛ぶ魔法道具を作り出したニク殿がすごいのだ。

イー殿やアル殿も作り出しているそうだしな」




「ねぇ二人とも、とりあえずお風呂入ろうよ」


僕とマイアがレベルアップや装備談義をしていると、ネグリジェが割り込んできた。




「ニクはこの後、マイアとサーヤを抱く時間も必要なんだから」



割り込んできた、というか爆弾を放り込んできた。

ネグリジェ、なぜ。




「そうだったな。

この家には風呂もある。

サーヤ、久しぶりだな」


「はい、姫様」




サーヤもだいぶ元気になった。

しかし気になる言葉が。



「姫様?」


「ニク、シャワーを浴びていた時に聞いたけどね。

マイアはずっと東の国のお姫様だったんだって」



僕の疑問の声に、ネグリジェ反応した。

お姫様。

ネグリジェのお嬢様に続き、今度はお姫様。

しかもサーヤも関係者っぽい。



「えっと、丁寧に話したほうがいいのかな」


「気にするな。すでに滅びた国だ。

既にこの身では政略としての価値も低いしな」


「姫様」



マイアの投げ出すような言葉に、サーヤが悲しみの声をかけた。



「サーヤ、お前も私のことはマイアと呼べ。

私は姫としてここにいるわけではない」


「かしこまりました、マイア様」


「いや、その言葉遣いもだな。

お前はもう、姫の侍従というわけではないだろう」


「それでもマイア様はマイア様です。

慣れだとあきらめてください」



お風呂に向かう僕とネグリジェの後を、二人は言い争うようなじゃれあうような会話をしながらついてきた。




昨日はネグリジェだけだった。

今日はそれに続き、マイアとサーヤ。


眼福眼福。






「ニク、マイアとサーヤを抱いて」


ああ、やっぱり。

あの時のは勘違いとか言い間違いではなかったんだ。



「よろしく頼む」


「すいません。お願いします」



二人は既に納得済みらしい。


「ネグリジェ、僕はネグリジェとだけで満足しているんだけど」


「ありがと。

私だって日本ならこんなことは言わないわよ。

まぁここは異世界だし、それに、これには意味があるの」



僕はネグリジェに想いを伝えたけど、ネグリジェはそれを納得づくでの行動のようだ。


「意味?」


「そう。マイアとサーヤのことは救出した。

救出したけれど、二人がされた事実が消えたわけではないわ」


「うん。そうだよね」



今は気丈にふるまっているけれど、サーヤは少し前まで虚ろな目をしていた。


「でもね。今でも一つだけできることはある。

あいつらとの子供を残さないこと。

サーヤは今日だけだったらしいけど、マイアは一か月。

その間ずっとだったという話だし、闇の祭壇の中で抱く意味はあるの」


「そっか。二人はその話には納得しているの?」



盗賊達にだけじゃなくて、僕にまでなんて。


「ぜひとも頼む」


「私も、ぜひお願いします」



そっか。

やはり不安があるんだね。

できるだけ優しくしよう。





できるだけは優しくしたつもり。

不安だからなのか二人一緒だった。

ネグリジェまでずっと一緒にいたんだけど。



「感謝する。

できればきれいな体でニク殿に抱かれたかった。

まさか私がこう思う日が来るとはな」


「マイア様。それは私も同じです。

ニク様にきれいな私を抱いてほしかった。

こういう立場にならないと、実感できないことですね。

それでもニク様、不安を取り除いて下さってありがとうございました」




これで二人に盗賊の子供ができる可能性はなくなった。

それでもやるせない気持ちになってしまう。


この世界ではありふれた事なのかもしれない。

地球でも知らないだけで、似たような事は有るのかもしれない。



それでも、何とかならないのかな。



心の中で愚痴が漏れた。

本当は誰かにそういいたかっただけなんだと思う。



(別の問題がありますが、何とかなります)



突然アイゼンが話しかけてきた。


あれ?呼びかけたっけ?



(いいえ、呼ばれていません)



まただ。



(アイゼン、呼びかけなくても反応できたんだっけ?)


(いいえ、できませんでした)



だよね。

なんでだろう。



(レベルアップしましたので)



なるほど。



(アイゼン、現在の能力一覧を表示)


(かしこまりました)



1.ゲート Lv4

2.AI全知 Lv4

3.全能 Lv2

4.完全耐性

5.完全適応

6.魔法付与 Lv4

7.飛行 Lv4


以上





アイゼンのレベルが4に上がってる。

そういえばレベルが上がると行動が変化すると前に言っていた。


考えるだけで読み取ってくれるようになったようだ。

さらにはそれに対してアドバイスまでしてくれる。

つまり、僕が考え付かないことまでアドバイスを貰える可能性がある。

頼もしくなった。



あれ?

僕のプライバシーって亡くなったんじゃない?




こういう時は反応しないんだ。



(AIの嗜みです)


イーちゃんといアイゼンといい、どこでこういう言葉を知るんだか。


ってアイゼンは何でも知れるんだった。




それで、何とかなるの?


(なります。別の問題がありますが。

正確には、本来の目的の副作用で何とかなるのですが)



詳しく。


(かしこまりました。

闇の祭壇の根本的な性質は、<特定の行動>により、<A>から<B>に、<C>を移すというものです。

今までの利用方法は、<中で交わる事>により、<交わったお互い>から<神棚>に、<交わりにより発生する生命エネルギー>を移すというものです。

移すものにより範囲が決められており、<交わり終了時に体内に保有する全て>となっていました)



それが今、僕たちが利用している闇の祭壇の利用方法だね。


(そうです。そして違う利用方法もあり、その一つが何とかなる方法です。

<闇の祭壇を利用した経験がある者が祈ること>により、<祈った者>から<何か>に<過去に得た全て>を移すというものです)



過去に得た全て?


(はい。指定期間のすべてを失い、その前の状態に存在が戻ります)



つまり盗賊に襲われる前に戻れるということ?


(そのとおりです)



問題点が見当たらないんだけど。


(この移す範囲は選択できるのですが、いついつの年始までという指定しかできません)



今は何月何日?


(1月4日です)


地球と同じ?


(そうです)


前にも思ったけど、この異世界に召喚されるのが地球なのは、環境が同じだから?


(そうです。

正確には、この世界のこの星に環境が一番近いのが、地球のある世界の地球ということです。この環境には生命体の形なども含まれます)



そうなんだ。

つまりサーヤは今年の年始まででいいけど、マイアは去年の年始まで。

つまり約1年分のすべてを失うということになるわけか。


(その通りです)


記憶や知識もすべて失うの?

世界が進んでいるから混乱すると思うけど。


(記憶や知識に関しては実感が失われます。

例えば今年の年始に戻った場合、すべてが年始の状態で、その先を夢の中で見たことがあるようなことになります。

自分で得たものだとは思えなくなり、正確にも思い出せません)



そうか。

とりあえず話してみよう。

二人がどうしたいかは二人の選択だよね。





「マイア、サーヤ。

失うものがあるけれど、盗賊達に襲われる前の体に戻れるとしたら、戻りたい?」



僕が真剣な顔で言ったのが伝わったのか、二人とも姿勢を正した。

裸だけど。



「ニク、アイゼンからの情報なんだろうけれど、失う内容を伝えないと判断できないわよ。寿命が残り1時間になるとかだったら困るでしょ」


ネグリジェに突っ込まれた。

まぁそうか。



「失うものは、戻った時点から先に起こった全てらしい。

体は戻った時点の自分になるので、盗賊に襲われる前に戻れば襲われていない自分になる。

ただし得た経験やスキルなどはすべてなかったことになるし、記憶や知識も夢を見ていたような状態になるらしい。

そして一番の問題点は、戻る時点が年始という限定がある。

今年じゃなくて去年でも数年前でもいいみたい」




「サーヤは直ぐに戻った方がいい」


マイアが先に話し出した。



「マイア様」


「サーヤならば4日前。時間的に考えても町から迷宮へと馬車で移動中だろう。

それならば失うものはほとんどなく、直ぐに再び手に入れられるものだ」


「確かに移動中です。失うものは、助けていただいたこと、再会できたこと、みんなでお風呂に入ったこと、ニク様に抱いていただいたこと、でしょうか」


「ニク殿、サーヤはその時の場所へ転移してしまうのだろうか?」



ああ、そういう可能性もあるのか。

どうなの?


(位置はこの、闇の祭壇の結界の中のままです)



「位置はこのままだって」


「であればサーヤ、失うものはまたすぐに手に入る。

ここにいるということは盗賊から救出されたということだ。

私もいるのだから再会も果たせる。

お風呂には入ればいい。

ニク殿に抱かれるのだけは自分で頑張ってくれ」



それは返事に困るんだけど。



「サーヤがその時にニクに抱かれたいなら、私はいいわよ。

闇の祭壇の中でならね。

開拓エネルギーもたまるし」


「サーヤ、ネグリジェ殿もこう言ってくれているんだ。

私達で役に立てることがある。

後はニク殿次第だが」



やっぱり言わないとダメなのね。

ネグリジェがいいならいいか。

サーヤもかわいいし、浮気扱いされないなら。



「その時にサーヤが望んでくれるのなら、ね」



ヘタレで結構。

いや、だって。

うれしいけど多分きついよ。

僕の体は一つしかないんだよ。





ピコーン♪



スマホの音が鳴った。

この音はメッセージカメールだろうか。


よし、この話題は一時逃避。





「10分後に行くけど大丈夫か、ってメッセージが小池さんから来てるわ」


スマホを見たネグリジェが伝えてきた。



「了解。とりあえず着替えようか」



僕とネグリジェはTシャツと短パンに。

マイアとサーヤはバスローブでそれぞれの部屋に行ってもらった。


見つけた時には二人とも何も着ていなかった。

Tシャツなら何とかなるけれど、下着がないのが厳しい。

そのうち小池さんにお願いすることになるのかもしれない。




アイゼンに確認したところ、マイアとサーヤの言葉は地球では通じないということだ。


僕達転移者は自動翻訳を標準装備しているとのこと。

確かに偶然日本語なんて言う事があるはずがない。






「夕方を予定していたのに、遅くなってごめんなさいね」


ゲート越しに合流した僕たちに対し、小池さんが謝罪してきた。

今は19時。

確かにちょっと遅いのかも。

こっちはこっちで、色々やっていたので待ってはいなかったけど。



「すまかったね。

合流するのに少し手間取ってしまった」



小池さんに続いて沢木さんが。

そしてその後、初めて会う人が3人入ってきた。


「お父さん、お母さん、お姉ちゃん」



ネグリジェの家族だった。

京都から会いに来たようだ。


「アイ、無事か」


「お父さん、大丈夫だって。

ほら、こっちを覗いてみて。

ちゃんと家の中にいるでしょ、私は無事よ」



僕とアイはゲートから少し下がり、アイのお父さんがゲートを覗き込んできた。


「お父さん、こっちがニク、えっと、ユウよ」


ああ、ついにこの時がやってきてしまった。


「渡辺優一です」



無理。いきなりお嬢さんを僕にくださいは無理。

普通はこれ乗り越えられるの?



「初めまして、アイの父の早乙女正和です。

そして家内の美紀と、姪の小百合です。

渡辺君、娘を助けてくれてありがとう。

できる限りのことをしよう、何でも言ってくれてかまわない」



これはチャンスだ。


「お、お嬢さんを僕にください」



頑張った。

頭を下げて頑張ったよ。




反応がないけど。

顔を上げてみると、アイのお父さんは驚いた顔で僕を見ていた。



「うむ。その話はまた今度しようではないか」


「なんでよ。私はもうユウのお嫁さんなの」



先送りにしたアイのお父さんに、アイがかみついた。


「アイ、昨日の今日じゃないか。

もう少しじっくりとだな。

お父さんにも心の準備というものが必要なのだよ」




その後もアイとお父さんの言い合いは続いた。

突然いなくなった娘がいつものように過ごしている。

わがままを言ってくる。

二人が日常を取り戻していく過程だったのかもしれない。



結局、付き合いは認めてその後のことは落ち着いてから、というあいまいな線で決着した。

アイはまだ粘っていたけれど、アイのお母さんとお姉さんが今はそれがいいということで。

特にお姉さんの一言が効いていた。


「どうせ二人の時間を邪魔できないのだから、既成事実よ」


アイのニヤッとした笑いが印象的だった。





「ゲートが想像していたよりも大きくてよかったわ」


そう口にしたのはアイの従姉のお姉さんのサユリさんだった。



サユリさんはいろいろとアイの物を持ってきてくれたらしい。

小さなカバンに小分けされたものや、いくつかの紙袋があった。

中身は見られなかったけど。

アイは喜んでいたし、問題ないのだろう。



「ユウ、ニクの方がいいかな。マイアとサーヤの服を持ってきてくれたわ」


「名前、どうしようね。マイアとサーヤの前ではニクとネグリジェだし」



僕とアイはそれぞれの名前と、掲示板のハンドルネーム。

掲示板や配信で間違えて呼ばないように、異世界ではニクとネグリジェで通していることを説明した。

弁護士の沢木さんの後押しにより、ニクとネグリジェを採用することとなった。

個人の特定を防ぐことが優先。

この一言が決め手だった。




「二人を着替えさせてくるね」


ネグリジェはそういって荷物を持って出て行った。

僕ひとりになってしまったんだけど。




「さて、少し時間があるだろうし、その間にニク君には教えてほしいことがある」


弁護士の沢木さんが話しかけてきた。



「こちらから異世界に行った384人の情報と、警察官っぽい何かさんの連絡先だ」

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