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その彼は、幽霊になってまだ2日目だそうです。
死んですぐ家を飛び出し、旅をはじめたんだとか。
消えるまでの間に、どれだけ多くのものを見聞きできるか。
どれだけの町をめぐり、どれだけの幽霊に会うことができるか。
とにかく受身に回りがちな幽霊だけど、彼は積極的です。
積極的な受身です。
なんて初々しい幽霊!
そんな死に方もあるなんて……
漫然と身辺を見回すことしか出来なかった自分と比べて、
なんと充実した幽霊ライフなことか。
正直、うらやましい!
できることなら死になおしたい!
私が羨望のまなざしをむけると、
彼ははにかみながら言いました。
死んだことを後悔したくないんだ。
胸をはって、幽霊やってたい。
ヤバい。
キュンときた。
心臓は動いていないんだろうけど、
これは確かにキュンときた。
大発見。幽霊だって恋はできます。
神様、最後の最後に
ステキな出会いをありがとう。
人生、愛がすべてだよね!
しかし三十分も話し込まないうちに、
彼は旅立つそぶりをみせました。
もっと多くのものを見たい、
聞きたい、
出会いたい。
キラキラした目で彼は語ります。
そっか……そうだよね。
そういう貴方なんだもんね。
うん、わかった。
一瞬ついていこうかなとも思いましたが、
どうせあと一日もつかもたないかだし、
ここは笑って見送ろう。
私は聞き分けのいい女。重荷なんかなりたくない
私は私なりの充実した余死を送ろう!
一瞬で決意を固めると、
私は一歩下がって握手を交わし
せいいっぱいの笑顔で見送りの手をふりました。
ステキな出会いに感謝!
バイバイ!
またねー!!(嘘)




