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刑事

 家に帰る途中、コンビニに寄る。朝めしやら、カップ麺やら、お菓子やらを適当にカゴに放り込む。ふと、猫用のスティック状のペーストタイプのフードが目に入る。クマネコのやつ、虫食ってるっつってたからな。買ってってやろうか。いや、もしかしたら天然の虫の方が猫社会では高級食材とされてるってことも考えられるからな。まあそんな高いもんでもないし、少し買っておこうか。よその猫に聞き込みするってんなら、賄賂みてえな感じで、あとあと使えるかもしんねえしな。


 けど、外の猫って普段何食ってんだろうな。虫とか、残飯とかか。その辺にいっぱい生えてる雑草とかも食うのだとしたら、食うには困んねえんだろうな。けどやっぱ飽きちまうよな。わたしだって野菜ばっかだったら耐えらんねえな。そもそも野菜なんて、ラーメンにどっさり乗ってるやつくらいしか食べねえし。


 あと、考えられるとしたら、人間から餌をもらってるってとこだな。飼い猫でもねえのに、人間の家に出入りしたり、人間から餌もらってる猫がいたら、その猫経由で人間の情報を得ることもできそうだ。猫と会話できる能力、案外役に立つかもな。いや、もしかしたら、逆に猫に餌やってる人間って、実は猫と会話できて、餌付けした猫から情報引き出そうとしたり、スパイ活動でもさせてたりするんじゃねえだろうな。そう考えると何だか怖くなって来る。クマネコもどっかのスパイだったりしてな。結局、いつもの食料の他、猫用スティックをいくつか買った。クマネコが喜んでくれたらいいなと思ってしまう自分がおかしく思えた。




 コンビニから出て歩く。相変わらずの排気ガスなんだが、今日は全然気にならない。事件のことを考えているせいなのだろうな。犠牲者がいるんだから、当然喜べることじゃないんだが、文句ばっかり言ってないで、何かに打ち込んでたら、世の中悪いところばっかりじゃないって気付けたんだろう。すれ違う歩行者、行き交う車、周りの建物にいる人々、そのすべてが、安心して眠れる夜であることを祈りながら家に向かう。柄じゃないのは十分わかっているんだが。




 マンションの前の公園を通る。さっきクマネコが虫を食べに行くって言っていた場所。遠巻きに探して見るがいない。小声で「おーい」って言ってみるも同じ。しばらくいるっつってたよな。部屋に戻ったのかよ。まあ、わたしが遠回りしたせいなのかもな。


 とりあえず部屋に戻ろう、とマンションに入ろうとしたとき、さっきの刑事、ケイジってクソみてえな名前の、あいつがいて、こっちを見つけるや駆け寄って来た。


「あ、細川さん。ずいぶん長い夕飯でしたね?」と低い姿勢で横から声をかけて来る。


「ちっ。ちょっと、ラーメン食べに行って、コンビニも行って。では」


「あのー、怒ってますー?舌打ち、してますし」


「い、いえ、ちょ、ちょっと噛んだだけですよ。では」


「あーちょっと待ってくださいって。ほら疑っちゃったんで。謝ろうと思って」


「もういいですよ。では」


「そうっすか?被疑者、見つかったんだけどなー」


「…ん?」と足を止める。


「なので、細川さんの疑いは晴れました。すみません。実は、もともとそんなに疑ってませんでしたけど」と、胸の高さで外側に両手を広げる刑事。ムカつくな。そんなに、って何だよ。


「で、誰なんです?」


「あー、それは明日になったらマスコミ発表ありますから、名前は言えませんけど、例のストーカーみたいな、ですよ。出前の配達員やってて、この辺でもよく走ってたみたいっすよ」


「へえ?あのマッチョが?」


「え?知ってるんですか?」


「あー、何かネットでカラビナロックのライブとかの写真見て、あるときを境に急にいなくなってたんで」


「へーすごいなー。つか怖いなー。インターネッツ」


「ん?…え?ちょっと?この辺で配達してたんですか?」


「そうっすよ。細川さんが今回使った、どあまえ…じゃなくて、何とかバイツってやつで」


 間違いない。わたしがいつも使っているアプリだ。心拍数が上がる。


「は、はあ?まじ?」


「まじ、っす」


「いやいやいや、わたしの家、絶対来てるっしょ?」


「どうなんでしょうかね?記録追えばわかると思いますが。見たことないんですか?」


「ああいうのは玄関の前に置いたり、ドアノブにかけたりして行くだけだから、会ったことはないですよ。えー?怖っ、インターネッツどころじゃねえ、まじ怖っ!」


「あー大丈夫っすよ。たぶんですけど、もう来ないと思いますよ」


「え、捕まった?」


「いえ、逃げられちゃいました。残念ですが」


「何だよ!しっかりしろよ。警察!わたしの命がかかってんだよ」


「あのですねー、肉体の方は確保したんですが、精神の方が上だか下だかの世界に行ったか、その辺を彷徨ってるかで」


「…え?…死んだ?」


「はい。警察では…自殺、ってことになりそうです。自宅で毒飲んで。これ内緒ですよ?」


「んじゃあ解決ってこと?」


「うーん、まあ一応そうっすね。所轄の方々で裏付け捜査、っていうのがありますけど、結論としては決まりっぽいっすね」


「はあ…良かったですね」


「だから、細川さんのところには来ません。あ、幽霊になって、来るかもしれませんけどねー」


「ちょ、何いっ…」


「まあ、こっちとしては完全には納得したわけじゃないんですけどねー。どうもあいつだとしっくりこないんすよねー。はぁ…」


「何でだよ?」


「何がってわけじゃないんすけど、こういうときにね、何て答えるか決まってるんです。いわゆる刑事の勘、ってやつですよ」


「はあ?」


「けどねー、その刑事っていっても結局は公務員ですから。我々はこの事件から外れます。勘で税金使うわけにはいかないっすから」


「それは知らないですけど」


「では、このたびはご協力ありがとうございました」と頭を下げる刑事。何だ、ちゃんとできるじゃねえか。


 引き上げていくうしろ姿は、あのナメくさった口調からはとても想像できないほど、哀しげに思えた。


 そうだよな。志半ばってやつだろ?見てりゃわかる。そんな風に仕事したことなんてねえけどさ。そんなわたしでもわかるくらいに、今度は無念さがダダ漏れしてるぞ。この事件はわたしが調べてやるから、お前はとっとと帰って寝て、英気を養えよ。落ち込んでる暇なんてないだろ?別の誰かを助けてなきゃいけないんだからな。そのためになったんだろ、その…公務員ってやつに。



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