「ずっと一緒に居て欲しい?無理です」
「パーティーに戻って欲しい?嫌です」
そう断ったのに勇者は何故か俺の前に跪きビロード箱の中で銀の輝きを放つ指輪型のマジックアイテムを差し出してくる。
「絶対に君を守る。君の髪の毛一本だって敵には傷付けさせないと誓うから僕と一緒に居て欲しい」
なんてプロポーズみたいな言葉をほざきながら。
本当に理解が出来ない。
何だコイツ、気持ち悪いな。
今までは勇者に対して劣等感や苛立ちを感じていたけれども、気持ち悪いと言う感情は初めて抱いた。
前々から話が通じないなとは思っていたが、話の通じなさって行きついたら気持ち悪いなってなるんだな。
要らない学びだわ。
これ以上話しても無駄だと思った俺はしっしと手を振る。
「あんたがどう言おうと俺はもうパーティーには戻らない。俺が居ようと居まいとあんたらには何の支障も無いだろう。これ以上は話の無駄だし帰って」
「「「待って下さい!」」」
何故か座らずに勇者の後ろにずっと控えてた三人が俺に詰め寄って来る。
「わたくし達が間違っていたのです!」
「君がずっと陰で支えてくれていたのを理解していなかったんだ!」
「僕達が愚かだったんです!パーティーに戻るのを考え直しては貰えませんか?!」
「えぇー……」
急な手の平返しの態度に困惑する。
俺が役立たずで足を引っ張っているってあんなに俺と意気投合してたのに急にどうしたんだよ、コイツ等?
「君が居なくなってから君がどれだけパーティーの為に考えてくれていたのかを知ったんだ!」
「最初から貴方の提案を聞いて行動をしていれば良かった事が沢山あったのです!」
「僕達では君の足元にも及ばないんだよ!」
そう言ってくる三人にちょっと自尊心が擽られる。
ま、まあ?ゲームの知識って言うある意味でのチートがあったから手間を省こうとしてたし?
それを理解出来る展開になってから俺の提案とか行動の意味を知って『アイツは実は凄かった』的な展開になったんだろうな。
ちょっと気分が良くなって顔が緩みそうになるのを頬の内側を噛んで耐える。
どちらにせよ意図が分かる段階にまで来ているんだったらもう俺が先回りする事も無いしこれ以上役に立てる事も無い。
底辺だった株が急上昇してこの見直された状態で別れるのが一番気持ちが良いだろう。
俺が。
「まあ、その時に偶々情報が手に入っていただけだし、気にしなくて良い。もう魔王城近くまではいけるんだろう?どの道後は戦闘だけだし俺の役に立つ場面は無いから」
「「「そんな事はありません!!」」」
「お、おう」
凄い形相で否定する三人の勢いにちょっと引く。
何でそんな必死なんだよ。
「魔王を倒す為にも貴方様のお力が必要なのです」
「俺の力ぁ?」
聖女様の言葉に首を傾げる。
魔王城に行く為のアイテムは最初の街に近い所以外はもう揃っていた筈だし、後は一直線に魔王の所に行って倒すだけの筈だろう?
戦闘のセンスがからっきしな俺が魔王城に行って何するよ。
精々で物陰に頭を抱えて隠れて震えている位しかできないぞ?
そう言っても三人は何故か「それで良いのです!」「一緒に行く事に意味があるのだ!」「この通りだから一緒に行って下さい!」と詰め寄って来る。
ええ、何ぃ?
足手纏いを連れて行く縛りプレイにでも目覚めたの?
俺にとってはゲームの世界だったとしてもこの世界で生きている人達にとっては現実なんだしそんな遊び心入れないでとっとと魔王を倒して平和を取り戻して欲しいんだけど?
「ここでおさらばしたい俺」と「どしても一緒に行って欲しい人達」とで意見は平行線だ。
俺の人生だし好きに生きさせて欲しいんだけどな。
どうすっかなぁと視線を泳がせると勇者と目が合ってしまった。
ゲッ!
「みんなもこう言っているし、これはパーティーに戻るしか無いよね?」
「それこそ無い」
「うーん、埒が明かないなぁ」
「それはこっちのセリフな」
嬉しそうに小首を傾げる勇者に溜息が出る。
漸く解放されたと思ったのに何でこんな事に……。
って言うかコイツはいつまで跪いてんだ、断ったんだからさっさと立てよ、そんでもってそのままいなくなれ。
額に片手を当て、はぁっと溜息を吐いていると不意にテーブルに置いていた左手が持ち上げられた。
無意識に閉じていた目を開けると何故か勇者が俺の手を取っており、勝手に指輪を嵌めようとしている。
「はぁ?!止めろ!勝手に嵌めるな!!」
「まあまあ」
「まあまあじゃねぇんだわ!」
左手を引っ込めようにもビクともしない上に指輪を嵌めようとする手を押さえても強靭な力で押し返される。
「ぐっ、こんのっ……!」
「ふふっ」
ふふっじゃねぇんだわ!ぶん殴るぞお前ぇぇぇ!!!
俺の本気の抵抗を赤子の様にあしらい勇者は容赦無く俺の手に指輪を嵌めた。
しかもコイツ薬指に嵌めやがった!!
手を解放された俺は直ぐに指輪を外そうとしたがどれだけ引っ張っても抜けない。
「ぐっぎぎぎ……!呪いの指輪か、コレ……!」
「呪いだなんてとんでもない、君の為の祝福が沢山込めてあるだけさ」
キツイキツイキツイ!!マジで嫌!
指輪を外そうと必死で引っ張ったり油を貰って滑らせてみたがビクともしない。
え、嘘だろ?!
「ちょ、聖女さん解呪して貰えない?!」
「……残念ながら、勇者様がおっしゃった通りそれは呪いではなく祝福なので解呪出来ませんわ」
「え、じゃ、じゃあ魔術師君なら」
「僕にも無理」
「……聖騎士さんのパワーで」
「最悪、指が無くなるぞ?」
「……勇者」
「なんだい?」
椅子に座り、嬉しそうにニコニコしながら焦る俺を見ていた勇者にイラっとくるが背に腹は代えられない。
「これ外してくれ」
「嫌だけど?」
「どうしたら外してくれるんだ」
「うーん、そうだなぁ。君がパーティーに戻ってくれて、これから先に絶対に僕の傍から離れないって誓うのであれば考えるよ」
「え、じゃあ諦めるわ」
勇者の提案に俺は速攻で薬指を諦める事を決めた。
勇者の傍に居たくないから離れたのに指輪を外す為だけで戻る訳が無い。
勇者と同じ指輪を左手の薬指に付ける痛い奴だと思われるだろうけども最悪、外では手袋を付けて過ごせば良い。
将来愛する女性の為に開けておきたかったが、その女性には昔付けて外れなくなったとでも言えば良いし、この指輪の上からお揃いの指輪を付けるでも良い。
納得してくれる女性と結婚すれば良いだけだ。
そう自分に言い聞かせた俺は手拭いで手の油を拭き取り、財布から飲み代を出してテーブルに置く。
「話は終わりだな、じゃあ俺は帰るからお前らは魔王討伐頑張れよ」
立ち上がりながら早口で一方的にそう捲し立てて俺は一刻も早くこの場から離れるべく足を踏み出し、気が付いたら目の前にドアップで勇者の顔があった。
「……は?」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ。
背を向けて歩いたはずが何故か椅子に座る勇者の腕の中で姫抱きの格好になっていた。
何を言っているのか分からないと思うが俺にも分からない。
ぽかんと口を開ける俺を嬉しそうに見つめながら勇者が口を開く。
「まだ伝えていなかったんだけれども、その指輪に掛けてある祝福の一つに片割れとなっている指輪と一定以上距離が離れると自動的に片割れの元に帰還させられる祝福がかけてあるんだ。つまり、その指輪をしている限り君は僕から離れられない」
「嘘だろ……」
あまりに非情な現実に「これは夢か?」と逃避したくなるが、恐怖で流れる冷や汗が夢では無く現実だと知らしめてくる。
結局、選択肢は一つしか無かったのだと突き付けられた俺は放心するしかなかった。




