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かごめの詩  作者: an-coromochi
一章 ようこそ、籠目村へ
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宵 1

後で振り返ってみると、この部分は必要だったのだろうか…、


と思いましたが、百合と銘打っている以上、こういうシーンも必要かと思って残しております。


脈絡なしに、と思われる方もいるでしょうが、ご容赦下さい。

 鶴姫が酔っ払ってふらふらになった母を連れて、二人のいる祖母の家を訪れたのは、リビングの大時計の短針が夜の十一時を指し示していた頃だった。


 顔も真っ赤になった母は、風呂にも入らず、着替えもせずに寝室へと通されると、すぐに横になって眠ってしまった。


 途中、怪談を上がる際には、落ちないかどうかヒヤヒヤしたものだ。


 こんな時間に、成人もしていない少女を使って人を送り届けるというやり方には、正直反感を抱いたが、村全体が一つの集合体のようなものだと思えば、そんな警戒すら必要ないのかもしれないと、一人で無理やり納得する。


 鶴姫は、もう宵も深いというのに、母の様子が落ち着いていから家に帰ると言い出した。さすがにそれは、と早々に彼女を送り返すか、送っていこうかと考えていたかごめすらも、気の強い少女は一蹴した。


 適当に珈琲でも飲んでから勝手に帰ると言い張る鶴姫に根負けして、かごめと白雪は床に就いた。


 時間はもう、一時を回っていた。


 深い、霧のような夜気が包むこの村で、一日目の夜が過ぎようとしていた。


 ベッドに端のほうに、遠慮気味に寝転んだ白雪とは、真反対の位置に体を横たえる。


 布団や枕からは、知らない香りがしていた。

 その匂いが、顔すらまともに思い描けない祖母のものなのか、ただ単に何かの香料によるものなのかは、判然としない。


 かごめは、自分が想像していたよりもあっさり眠りに就いていた。その眠りがあまりにも深かったため、途中、白雪が身を寄せても気付かぬほどであった。


 白雪の、甘く、控えめな香りをそばに置きながらも、かごめはまるで微動だにしなかった。


 同性同士だから、というつまらない理由ではない。


 実際、かごめは白雪が異様に距離を詰めてくるとき、その独特な良い匂いのためにドギマギさせられることが、少なからず今までも何度かあった。


 長旅の疲れによる熟睡でもあったのだろうが、それを言うなら白雪のほうが、肉体的な疲労は大きかった。


 白雪はかごめと違って、浅い眠りと覚醒とを行き来していた。


 彼女が眠れなかったのは、ひとえに、かごめの温もりがあまりにも近くにありすぎるせいである。


 それでもさすがに、布団に入って一時間ほども経てば、眠りの世界に飛び込んでいた。


 白雪は、ベッドのスプリングが軋む音でゆっくりと、それでいて、曖昧な覚醒を迎えた。


 初めは、外で鳴くカエルの声のせいでまともに聞こえていなかったのだが、音と同時にベッドがわずかに傾いたことで、誰かがベッドの上を移動していると分かった。


 かごめが寝返りでも打っているのかと考えていた白雪は、突然、すっと柔らかで、細くしなやかな指が自分の左肩に触れて、死ぬほど驚いた。

 飛び上がったり、悲鳴を上げたりしなかったことが、奇跡と思えるほどの驚きだ。


(かごめちゃん…?)


 声に出したつもりが、あまりに急なことだったので、喉が開かない。


 かごめが寝ぼけて腕を伸ばし、それがたまたま肩に当たったのかと思ったが、指先は明らかな意図をもって、白雪の肩をなで上げていた。


「ん…」


 それから、するすると脇腹の辺りに移動した指の動きに、小さな声が漏れる。その声のせいか、ぴたりと一瞬だけ手の動きが止まるが、数秒もすれば、再び指は体を這い始める。


 脇腹から、(あばら)、そしてとうとう胸の下辺りを触れられた際に、白雪はどうしようもない熱情が、胸の底から沸騰しながら湧き上がってくるのを感じた。


 ――…かごめちゃんに、触れられている。しかも、明確な下心をもって。


 触れたくても触れられず、


 触れてほしくても、触れてもらえなかった。


 そんな彼女の指が、はっきりとした劣情をもって自分の体の上をなぞっていることは、白雪にとって感無量の出来事だった。


 かごめほどではないが、そこそこのボリュームのある双丘を掌で擦られたとき、ついに我慢できなくなった白雪は、目の前の暗闇に横たわるかごめを、強く抱きしめた。


「か、かごめちゃん!」


「あ…!」と囁きが耳朶を打つ。


 聞き慣れない、かごめの怯んだような声がいっそう白雪の興奮を煽る。


「かごめちゃん!私も、ずっと、ずっと――」


 ところが、こうしてみたかった、と白雪が言葉を続けようという寸前に、再度、ベッドのスプリングが鳴った。


 だがそれは何故か、少し離れた位置から聞こえてきた。


「あれ?」


 白雪が動きを止めたとき、ちょうど音が鳴った辺りから、聞き慣れた声が響いてくる。


「もぅ…、何?何時?白雪さぁ、うるさいんだけどぉ…」


 寝ぼけ眼を擦っているかごめの姿が、暗闇の向こうにありありと浮かび上がるような気がして、白雪は酷く困惑した。


「え、ん…?あの、かごめちゃん?」


「だからぁ、うるさいってば…」


 暗闇の中で、人の形をした影が上半身をもたげたような姿勢でこちらを向いている。


 かごめだ。


 かごめは、あそこにいる。


 ベッドの反対側に…。


「え?」ともう一度、白雪は小首を傾げる。


 かごめは少し離れた位置にいることは確かなようだ。


 しかし、腕を動かしてみると、自分の両腕の中にもかごめがいる。


 試しに、掌でそのアウトラインをなぞってみた。


 柔らかい二の腕から、かごめの女性らしい、豊かな胸に手を…。


 白雪の掌が触れたものは、およそ豊かとは言い難い、薄いまな板のような感触のするものだった。


 刹那、落雷に襲われたかのような衝撃と共に、白雪は直感した。


 ――これ、かごめちゃんじゃない。

読みづらかったり、もっとこうしたほうが良い、という意見がありましたら、是非お寄せください!


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