新しい世界で6
「あれ、あにうえ?え、ここどこ………?」
気づいたら、さっきまでいたはずの職人街のにぎやかさとは程遠い、狭くて暗いじめじめした通りにいた。
どうやら、工房を夢中になって回っている間に、兄上とはぐれてしまったらしい。
護衛の人たちがいるはずだし、大丈夫だとは思うけれど。不安になる。
とりあえず、兄上たちを探そうと思い、通りを戻ってみる。
しかし、三つに道別れており、どれを通って来たのかわからない。
が、間違えたら戻ってきたらいいと思い、一番右の路を選らんで見る。
すると、だんだんと臭くなり、路も不衛生になってきた。
しかし、それまで、誰かに道を聞こうにも、人に合えなかったが。ところが、ようやく一人の男の子が、道の端っこにうずくまっているのを見つけた。男の子は、髪はぼさぼさで、汚れ切った服を着ている。それに、とてもやせ細っていた。
「あの、だいじょーぶ?」
うずくまっていた少年が、顔を上げた。
「俺には話しかけないほうがいいよ。」
「にゃんで?」
「だって君は、表で生きられる側の人でしょ。」
「おもてで…?どういうことにゃの?」
「だから、君は、このスラム街の人間じゃないでしょ。とっとと表の世界にいる家族のところに帰りなさい。」
「ぼくだってかえりちゃいよ!けど、みちにまよってかえりかたがわからにゃいの。だから、おしえてくれしょうなひとをさがしてたの。」
「それが、俺?君ってば運が悪い人間かと思いきや、運良かったんだな。下手な人間に関わったら、この街では奴隷商人に売られて二度と表の世界には戻れないんだよ。」
「どれいしょうにん?どれい?」
「そう。奴隷。あれ、みえるかい?」
少年が指さした先には、首に金属の首輪がつけられて鎖繋がれ、台車の付いた檻の中に入れられた幾人かの薄汚れた子供達がおり、その台車の周りには逃がさないようにか、男たちが囲みながら進んでいた。
「あれが奴隷証人の部下とそいつらに捕まえられた子達。多分これから彼らは、奴隷としての苦しみとともに一生を過ごすことになるだろうね。自由は二度とないだろう。」
「!!!!だったら、助けなきゃ!ねえ、力を貸してよ!」
「やだよ。何で俺がそんなことしなきゃなんないのさ。そんなことしたら、俺まで奴隷にされてしまう。」
「そ、そうだけど…。けど…。」
「それにさ、たった二人で何ができるのさ。ついでに言うなら、多分あの汚れ方だと、あの子たちもスラムの育ちだよ。ならば、捕まりたくないなら、自分の身は自分で守らないといけないことくらい、わかってなきゃいけない。そうやって俺たちスラムの人間は生きてきた。守ってくれる人間なんか誰一人としていない俺達はそうするしかないんだよ!!!!俺らは、親に捨てられたり、売られたりした結果ここにいる。スラム育ちの親は自分たちが生きるために生まれてすぐの我が子を捨てる。だから、君みたいに、探してくれる親だっていやしない。」
「そんな…。」
「……ああ、ごめんな。俺と違って、表で生きていける君のことを見てると、感情が爆発してしまった。ほら、しかたないから、俺が表の近くまで連れてってあげるよ。早く、君を心配しているだろう家族のもとに戻ったほうがいいでしょ。」
「じゃ、じゃあくには?くにはスラムにすむひとのためになにもしてくれないの?」
「国??ああ、あんな、腐った貴族連中が、ボク達みたいなスラムの人間の事なんか考えてくれると思う?してくれたことなんざ、なんにもないよ。それにね~、貴族連中だけじゃないんだよ、俺たちスラムの人間を嫌うのは。俺みたいなスラムの人間が、一歩でも表に出たとしたら、その周りにいる人間皆ににらまれて、下手をすれば石を投げられるだろうな。あいつらは、スラムに住む人間は全員犯罪者だとでも思ってるんじゃない?」
「じゃ、じゃあ、ぼくが、このくにをきっとかえてみせる。いまはなんのちからもないけど、いつかはぶんかんになって、このすらむとおにいさんのみらいをかえてみせる!!やくそくする!!!」
「やめときなよ。そんなむだなことを。」
「むだじゃないもん!!」
ぼくは、涙目だった。
「あ~あ!…………まったく、小さな勇者もいたもんだ。君のそんな夢語りを信用するほど落ちぶれてないけど、でも、でも、一回くらいは信じてあげてもいいかもな。」
「ほんとう!?」
「ああ、ったく。おまえ、名前は?」
「ぼくはレイシュン。けどなんで、ぼくのなまえをきくの?」
「……将来、もし本当にお前が、このスラムを変えたなら、お前の名前が俺の耳にも届くだろうからな。」
「………だったら、おにいさんのなまえもおしえてよ。ぼくがやくそくをはたせたのなら、おにいさんともういちどはなしたいとおもうだろうから。そのときにさがしやすいように。」
「……………アンジュだ。」
「いいなまえだね。」
「うっせ。……………まったく。そろそろ、お前も家族が心配してるんじゃないか?」
「は!そうだった。」
「こんなやつに、俺らの未来を預けるのかよ……。」
「こんなやつはひどくない?」
「ったく、ついてこいよ。おいてくぞ。」
「ごめんてっば。ちょっとまってよ~。」
僕は、アンジュを小走りに追いかけた。
しばらくすると、突然アンジュが立ち止まり、僕のほうに向きなおった。
「この道をまっすぐ行けば、職人街だ。はやくいきなさい。」
「うん!ありがとう。アンジュおにいさん。ぼく、ぜったいにおにいさんとのやくそくまもってみせるからね。」
「まったく、わかったよ。このスラムの未来を頼んだぞ、レイシェン。」
「もちろんだよ!じゃあね!また、ぼくがやくそくをはたせたときにあおうね!」
「ああ」
僕は、兄上が僕を探しているだろう職人街へと急いだ。
そして、とうとう、表の街に戻ってきたのだった。




