第十八章 傍観者
宮殿、その女王のものだった部屋に、一人の男がいた。
「……」
クライス・イルスタント。時の革命王であり、これから殺される三日天下の王様が、一人で佇んでいた。
その横には、何故か小さなイスとテーブル、その上にささやかなティーセットがあった。
ティーセットの陶器ポットは、保温作用のある魔法の石の上で暖められている。
クライスの右手には、進行形で暖められているやかん。暖めているのは手で、手段は勿論魔法だ。
やかんが蒸気を勢いよく吹き出して沸騰を知らせると、クライスは即座に動いた。
――美味しい紅茶の作り方。
常人には何をしたのかわからないほどの速さで、事前に茶葉を入れておいたポットの蓋を開ける。
――ポットと茶葉を事前に暖め、汲みたてで沸騰したてのお湯をすぐに注ぐ。
ポットの中にお湯を入れ、茶葉が立つぐらいで止める。
――待ち時間は四分半。やや濃い目が飲みたい。
しばしの休憩。城の外の喧騒が遠く聞こえる。
時間を計り終わり、ポットからお茶をカップに注ぐ。
そこで一息つき、イスに座る。
地味だが綺麗な装飾がされたカップを静かに口に持っていく。
――カップも事前に暖めておけば尚良い。
喉を通った味は、合格点。姉に言わせれば、「主人の好みと違うから及第点」だろう。その『彼女』が好きなのは、実は緑茶だ。同好の士がいないので隠しているようだが。
――無理に周りに合わせて紅茶なんか飲んで、言ってくれればちゃんと用意したのに。
茶葉のケースを机に置いた。
紅茶を飲み干し、殺風景な部屋を見渡す。
ベッドも机もなくなった女王の部屋で、バルコニーからの月の光が、冷たい石の床を照らしている。
「……広い」
呟きを聞く者のいない寂しさと、聞いてくれたのかも知れない女の子を思って、頬を涙が伝った。




