最終話 魔術師未満、魔術使い以上
森都から新都へ戻る道のりは、いつもよりゆっくりとしたものだった。
祭りの余韻も、魔族との戦闘の緊張もまだ体の奥に残っている。
歩くたびに筋肉が軋むが、アイツラとの戦いに比べたら何でも平気に感じる。
「協会がどう判断するかは読めないわ」
ネリがポツリとこぼす。
「でも、功績は功績よ。協会は形式ばっているけれど、実力はちゃんと見るわ」
その言葉に、胸の奥の不安が少しだけ和らぐ。
ロピはずっと俺の後ろを歩きながら、何度も「先生はすごいです」と呟いていた。
セタールとルキッドは、俺が疲れていないかを気にして何度も振り返る。
これでは俺が護衛されているみたいだ。
今まで以上に感じる仲間の気遣いに、油断すると涙が出そうだ。
そんなことを知ってか知らずか、シクロは優雅に歩きながら俺の肩を軽く叩いた。
「ケントが魔族を倒したなんて、物語の主人公みたいですわね」
シクロの冗談めかした言い方には、どこか本気の響きがあった。
「ケントが主人公なら、俺は相棒だな」
イミドが満足そうに頷いているが、俺は脇役で精一杯だ。今回の戦闘で思い知った。
魔族を倒したという噂は森都に留まらず、新都にまで広がっていた。
「【真紅の鴉】が魔族を倒したらしいぞ!」
「俺は違うパーティだって聞いたぞ」
その内容は正確性には欠けていたが、ネットも電話もない環境ですぐに広まっているという事実が、ことの重大さを示していると言えるのかもしれない。
「おいケントが魔族を倒したって本当か!?」
中にはかなりの情報通がいて、確信を突いてくるやつがいる。
「あー、一応な。たまたまおこぼれをいただけたって感じ」
「それでもすごいじゃねーか! おい、ケントが倒したらしいぞ!」
「あんまり喧伝してくれるなよ」
いずれバレるとはいえ、有名になるのはトラブルに巻き込まれるもとだからな。
……しばらく隠居でもするか。
さて、魔術使いでありながら魔族を倒したというのはかなりすごいことらしい。
どうやら魔術師協会が功績を称えたいらしいが、魔術師ではない身元の不確かな冒険者が為したのは前例にないことなので、対応に頭を悩ませているらしい。
ネリが難しい顔をしながら語ってくれたことだ。
魔族を倒すのに四属性の魔術を使ったが、それはしっかり秘密にしてもらった。
そのためか、俺の実力を疑っている人が多いとか。
……そろそろ三属性くらいは公にしてもいい頃合いかもしれない。
魔術師協会は、いつ見ても荘厳だ。
魔術師たちが行き交う中に、魔術師未満の冒険者——俺が立っている。
場違い感がすごい。
だが、ネリは堂々と胸を張って歩いていた。
その背中を見ていると、少しだけ勇気が湧いた。
式典の場は静まり返っていた。
魔術師協会の重鎮たちが並び、その中央にネリが立つ。
彼女は俺の前に歩み寄り、銀色の勲章をそっと掲げた。
「あなたは魔術師ではありませんが、魔術師以上の働きをしました」
ネリは勲章を俺の胸元に付け、静かに微笑んだ。
「これは準魔術師としての証です。あなたの功績は、協会が正式に認めました」
周囲から拍手が起こる。
その音が、夢のように遠く聞こえた。
準魔術師に授与された権利は、魔術師のそれに比べれば限定的だった。
魔術書の閲覧権も一部だけ、魔術の研究参加も条件付き。
次の試験で有利になるらしいが、確約ではない。
だが、これくらいが、俺らしい。不思議と納得している自分がいた。
背伸びしすぎず、でも確かに前へ進んでいる。
そのくらいがちょうどいい。
協会を出ると、【真紅の鴉】が待っていた。
「ケントが勲章なんてねぁ」
セタールがとしみじみしている。
いつもはどちらかと妹のような感じだが、今はお姉さんのように俺を見ている。
「……似合っている」
ルキッドの言葉は相変わらず短い。
新しい仲間も、旧友も、みんなが俺の周りにいてくれる。
この状況こそが、何よりの宝物だと心から思えた。
胸元の勲章は魔術師未満、魔術使い以上という中途半端なもの。
だが、自分の歩んできた道を証明してくれている。
「次は何の任務を受けるのかしら」
ネリは普段と変わらない落ち着いた様子で聞く。
「そうだな、間も空いたし貢献度稼ぎでもするか」
「……今ってそういう流れだった?」
セタールが心底嫌そうな顔をした。
この締まりのなさが、俺たちらしい。




