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第69話  王子と姫

 同時刻。同様の報告を受けていたヴォーティガンはといえば、


「おいヴォーティガン。なんか僕らの目の前で王子同士が戦争始めたぞ」


「馬鹿な……俺はまだ王家を過大評価していたというのか……」


 やはり同じように絶句していた。あまりにも酷過ぎてなんらかの罠ではないかと疑いたくなるが、ヴィクトリスとユージーンの軍は本当に争っていて、戦死者も出ているという。

 お陰で激戦が予想されていた要塞なども、革命軍は殆ど出血せずに通過することが出来ていた。


「正直拍子抜けだがチャンスだぞこれは」


「ああ」


 エカテリーナの言葉にヴォーティガンは頷く。

 別に戦争狂ではないヴォーティガンは強敵との死戦など求めてはいない。拾えるところに勝利が転がっているなら、遠慮なく拾う。


「進軍速度を速めるぞ! 付いてこれない者は置いて行って先行する! 王都はもう直ぐだ!」


 革命の足音は、加速を始めた。




 そうしてバエル王国の動乱において、最も恥ずべき一ページとして記録される事となるアルヘナ平原の戦いは、


「兄上! 私は父上とルパート兄上の仇討ちをしたいだけなのだ! なんなら軍の指揮は兄上がして、私は一兵卒として参加するのでもいい! もうやめてくれ!」


「黙れ! 王位など興味もないような顔をしておいて、抜け駆けとは卑怯者め! 王になるのは長男である私だ!」


 兄の率いる軍相手に戦う事を二の足を踏むヴィクトリスと、同士討ちすることに抵抗感があって士気の落ちきった両軍、そして一人だけ意気軒昂なユージーンとの戦いがダラダラと続いていた。

 ヴィクトリスは兄率いる軍の兵士を殺さぬよう手加減して相手をしながら、兄に向って説得の言葉を叫び続けるが、ユージーンはまったく聞く耳を持とうとしない。ヴィクトリスは王位を手に入れるために、勝手に出撃したと信じて疑わずに攻撃を続ける。

 結論から言えば、ユージーンが愚かなのは言うまでもないが、ヴィクトリスも兄への説得を早々に見切りをつけて軍を退くべきであった。二人の王子がまったく無意味な戦いをだらだらと続けている間に、革命軍は遂に両軍を射程圏内に捉えてしまったのだ。


「…………俺たち革命軍がここまで近づいても仲間割れの戦いを続けていたとは。愚かしさここに極まれりだな」


「あの人たちは何を考えているんでしょうか?」


 あまりの酷い醜態に奴隷であるダリアからすら駄目だしが出た。

 一方革命軍の軍勢を目の当たりにした軍務卿ルフェーブルが、ユージーンへ慌てて進言する。


「なっ! なんだ革命軍のあの数は……十万以上はいるではないか!」


「ユージーン殿下、直ぐに撤退しましょう! ヴィクトリス殿下との戦いで消耗した状態で、あの大軍とぶつかればただではすみません。それに上手くヴィクトリス殿下を盾とする形で軍を退けば……」


「おお、毒を以て毒を制す策だな! その案でいこう! 全軍、ヴィクトリスの軍を盾にするように王都へ撤退せよ!」


 ユージーンは愚かではあったが、逃げ足は速かった。ただちに軍を纏め上げると、さっさと軍を王都シリウスへ撤退させる。

 対するヴィクトリスは革命軍を率いるヴォーティガンの姿を見るや、戦意を漲らせて突撃しようとした。


「見つけたぞ、ヴォーティガン! 全軍、革命軍に向かって突撃! ヴォーティガンの首級をあげろ!」


「いけません殿下! 数が違い過ぎます!」


 ヴォーティガンの率いる十万の軍勢は強行軍で疲労しているが、先ほどまでユージーンの軍と戦っていたヴィクトリスの軍ほどではない。そしてヴィクトリスが率いてきた一万の軍勢は、ユージーンとの戦闘で数を減らして戦死者・負傷者を除けば六千といったところ。本来ならこの一万の軍勢で、北方の要塞にいる駐留軍と合流し、立てこもって戦う予定だったのが、ユージーンの軍に背後から攻撃されたことで全てが台無しになってしまった。


「…………その、ようだな。このままでは全滅か」


 ヴィクトリスは馬鹿だが、戦争の気配を感じ取る天性の本能を持っている。テレーゼの進言を勘で理解して、自分が詰みの状態に置かれていることを悟った。


「殿下。私が殿軍をいたします。どうか殿下だけでも王都へお逃げ下さい」


「テレーゼでは殿軍にはなれん」


 六千の軍勢全てをテレーゼが率いて革命軍に突撃したとしても、ヴォーティガンは軍の一部だけをテレーゼに当てて、逃げたヴィクトリスと先に逃げたユージーンの軍に苛烈な追撃を敢行するだろう。王と王太子が爆破テロで殺害された上に、二人の王子が戦場で討たれればバエル王国はおしまいだ。

 それを直感的に悟ったヴィクトリスは決断する。


「命令だ! 殿軍は私一人がやる! 他の者は逃げろ! 逃げて王都を守れ!」


「な、なにを申しますか殿下!」


 テレーゼの言葉を聞かず、ヴィクトリスは力を解放した。

 超魔法を継承した者が超魔法に耐えうる強靭な肉体を持っている場合のみ発動可能となる奥義にして禁じ手。それが一時、人の身でありながら神域へ足を踏み入れる"魔人化"だ。

 ヴィクトリスの全身が悪魔めいた鎧に覆われていく。これは本物の鎧ではなく、ありったけの寿命を注がれて物質化した魔力そのものだ。


『バエル王家の魔法無効化と、極限の肉体とが合わさることで開眼する魔人の力! 受けてみるがいい!』


 魔人化したことでヴィクトリスの身体能力は数倍に跳ね上がり、更に魔法無効化の超魔法が常時発動状態にある。魔神ヴィクトリスの周囲では魔法は発動することすらできず、無効化される。そして魔人化したヴィクトリスを覆う鎧は、どんな刃物ですら通しはしない。今この瞬間ヴィクトリスは人知を超えた無敵の存在となった。




 史書に曰く、革命軍に突撃したヴィクトリスは一人で数千を切り捨て、革命軍の将校を十人以上討ち取ったがヴォーティガンには届かないことを悟るや、命令を無視して一緒に殿軍として残った家臣たちに逃げるよう告げた。

 筆頭家臣のテレーゼは自分だけは残ると訴えたが、ヴィクトリスは自分は最期まで立派に戦ったと婚約者に告げてくれと頼むと、テレーゼはそれを断れなかった。

 それからヴィクトリスは更に数千を斬り屠り、あまりの猛攻にヴォーティガンの脳裏に撤退の二文字が浮かんだ時、遂にヴィクトリスがその動きを停止した。

 暫く遠巻きに様子を伺っていても、ヴィクトリスがなんの反応も見せないので兵士の一人に確認に行かせると、魔人化の鎧が消えて、中からは白骨化したヴィクトリスの遺体が転がり落ちてきた。


「……凄まじい男だ。死体が白骨化するほど、超魔法を発動し続けるとは」


 超魔法が消費するのはあくまで寿命である。寿命を全て使い切れば、そのまま死ぬだけだ。白骨化などしない。なのにこうして白骨化したのは、ヴィクトリスが極限の意志力で寿命を捻じ伏せ、限界を超えて戦い続けたからである。


「ダリア。さっき王家を過大評価しすぎていたと言ったが取り消そう。俺は王家を過小評価していた。この男に対してはな」


「……はい」


 ヴォーティガンはヴィクトリスの遺体を丁重に扱うよう指示をすると、王都シリウスへの進軍を再開した。




 そして王都へ帰還したテレーゼは、ヴィクトリスの遺命を果たしその死をマルグリットに伝えた。合わせてヴィクトリスから託された遺言も伝える。


「最期に殿下はこう仰せでした。『どうか幸せになってくれ』と」


「最期まで……殿下、らしい。でもねテレーゼさん、殿下は生きて幸せになってくれと仰ったのだろうけど、私の幸せは殿下と一緒にいることなんです。私……寂しがり屋なんですよ。だから……許してくれますよね、殿下」


 力なく微笑むマルグリットを見て、全てを悟ってしまったテレーゼは鬱血するほど手を握りしめながら退室する。


「私も、お側に参ります」


 ヴィクトリスとマルグリットの愛は、死をもってすら引き裂けなかった。

 二人の魂は天へ還り、そこで一つとなった。

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― 新着の感想 ―
分かってた……分かってたんだよ…… でも改めて描かれると……ここは辛いよなぁ……!
こいこいクリティカル→ファンブルという芸術性よ
思うに、これが最後の引き金だったのではないか…?
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