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第52話  期末と王位継承権

 世界が変わろうとも学校である以上、変わらずに存在するものがある。

 テストだ。

 シリウス王立学園では中間試験はなく、期末が二回に学期末が一回で、一年で計三回ある。試験一週間前から試験期間中はあらゆる学生活動は活動休止だ。というわけで生徒会も一旦休みになったのでアナリーゼも勉強に集中しなければいけないわけだが、


「今年の生徒数は一般入試合格者100人に加えて、私含めた推薦組が30人で130人……。そしてシリウス王立学園じゃ点数じゃなくて100位未満の成績をとると補習になるから、補習回避するには全教科で100以上の点数をとらなきゃいけないのよね」


 入学前のアナリーゼが試しに一般試験のテスト問題を解いたところ、残念ながら不合格ラインであった。このままならばアナリーゼはテストで補習を受けること必至であろう。しかしアナリーゼには秘策があった。それは、


「一般入試を猛勉強して潜り抜けてきた生徒は、勉強疲れや部活動やらでそんなに勉強している生徒はいないはず。つまりそんな生徒を後目に毎日(三成さんの指示で)ちゃんと勉強を続けてきた私が優位にたてるって寸法よ!」


「作戦なのそれ? 単に毎日真面目に勉強してただけじゃない?」


 ヴェロニカが突っ込んでくるが作戦と言ったら作戦なのだ。

 少なくとも前世のアナリーゼは毎日勉強なんてしていなかった。試験前の一週間の詰め込み型である。

 これだけ勉強したのだから、絶対に100位以内に入ってみせると、アナリーゼは覚悟を新たにした。断じて、


『言っておくがアナリーゼ。例え推薦組だろうとなんだろうと、俺は赤点補習など許さん。もしお前が赤点をとり補習になれば、通常の補習授業に加えて、個人的に厳しいと評判の家庭教師をつけて三年間勉強の沼に沈んでもらう』


 という三成の宣告が怖かった訳ではないのだ。

 しかし試験に対して並々ならぬ気合を入れているのはアナリーゼだけではない。今期の入試首席のミランダもその一人だった。


「ヴェロニカ! 私のことを推薦組の自分が受けてない試験だったからとれたハリボテの首席って侮ってるようだが、期末試験ならお互い対等だ! 白黒はっきりつけてやるよ!」


 ビシッと指を突き付けてヴェロニカに宣戦布告するミランダ。だが当のヴェロニカは困惑顔だった。


「誰よそんなこと言ったの? 知らないわよ私?」


「どうせ誰かが適当に憶測で流した話が、広がっちまったんだろ」


 バジルの言う事が正解だろう。ヴェロニカは良くも悪くも試験の成績を誇るタイプではないし、それを材料にして人を馬鹿にする人間でもない。


「そういえば三成さん。ヴェロニカ以外に成績優秀そうな推薦組って誰がいるの?」


 百位以内に入る上で最大の障害は30人の推薦組に、どれだけ一般入試でも合格できるレベルの学力の持ち主がいるかである。ヴィクトリスがいるので絶対にビリは有り得ないにしても、十人でも優秀な生徒がいれば、それだけ百位以内のハードルは上がる。


「……俺が色々聞いた限りによると、推薦組で成績優秀なのはディアーヌ殿下とヴェロニカの二人を除けば、宰相の息子とサブナック侯爵家の次期当主が中々優秀そうだったな」


「え、宰相って……えーと、アレな人よね? なのにその子供が優秀なの?」


 公衆の面前で宰相を佞臣呼ばわりすると不味そうなので、曖昧に誤魔化しながら聞いた。


「佞臣だから頭が悪いというのは、誤った考えだ。どんな方法であろうと宰相にまで上り詰めた人間が阿呆な訳がない。ただその知恵を国を良くする方向に使うか、自らの私腹を肥やす方向に使うかで名臣と佞臣は分かれるのだ」


「うん、ありがとう三成さん。でも私のそれとない配慮を察して欲しかったわ」


 王国の宰相を堂々と佞臣呼ばわりした三成に、ぎょっとしたような視線を向けている生徒が何人かいた。


「で、もう一人のサブナックって……同じクラスのエドムンドくんよね?」


「ああ。ブエル、アンドラス、サブナック、バルバトスの東部四大諸侯の一角を占める名門出身だ」


 東部四大諸侯というのはその名の通りバエル王国の東部を治める諸侯達のことである。代々家族ぐるみの付き合いをするほど仲が良く、四家揃えば二大公爵家にも勝ると豪語しているという。


「やっぱり大貴族の跡取りとなると、子供の頃から英才教育を受けてて優秀なのね」


「そうとも限らんぞ! 最高峰の家庭教師に囲まれ英才教育を施されながら、逆ナンバーワン確実の私のような男がいる! 体育と美術と音楽の授業以外、なにをやっているかさっぱり分からんしな!」


 この発言をしたのは言うまでもなくヴィクトリスであった。


「自覚があるならせめてブービー賞になれるくらい成績アップしてください。推薦組は退学も留年もありませんが、補習はあるんですよ? あと殿下は英才教育を施されてなどいないでしょう? 毎日逃げておられたんですから。家庭教師に責任転嫁しないで下さい」


 テレーゼがジト目で諫言する。


「ブービー賞でも補習は避けられんのではないか?」


「まぁ、それもそうですが第三王子としての外面がですね」


「なに。私は卒業と同時に王位継承権は返上して、正式にハルファス家に婿入りする予定だ。私に王なんてやれないのは、私が一番よく分かっている」


「王位継承権を返上しても、王位継承権がなくなるわけではありませんからね?」


『え?』


 アナリーゼとヴィクトリスがはもった。


「どういうこと!? 王位継承権を返上するっていうことは、王位継承権がなくなるっていうことじゃないの!」


「そうだそうだ! 返上するのだから継承権がなくなるのが自然だろう!」


「……あのですね、お二人とも。殿下がハルファス家に婿入りして王位継承権を返上したら王族ではなくなりますが、貴族ではあるのです」


「あ、そういうことね」


「ん? どういうことなんだ?」


 アナリーゼの方はテレーゼの説明を聞いて理解したが、ヴィクトリスの方は話を聞いてもさっぱりだったらしく首を傾げている。そこでアナリーゼは答え合わせのためにもテレーゼに自分なりの答えを言うことにした。


「えーと、私って貴族だけど王様の姪で殿下の従兄妹だから王位継承権が五位じゃない? だから殿下が婿入りして王族でなくなっても、王位継承権がなくなるんじゃなくて、貴族の中の継承権トップに格下げになるってことだと思うのだけど、違う?」


「ええ、アナリーゼ様の仰る通りです。お分かりになられましたか、殿下?」


「……?」


 だがヴィクリスは未だに理解していないようだった。溜息をついたテレーゼは、


「要するに殿下が王位継承権を放棄したら、王位継承権が今の第二位だから第四位に下がるということです」


「なるほど! 理解したぞ!」


 そこまで説明のレベルを下げて、漸くヴィクトリスは理解したようだった。

 この様子だともし英才教育から脱走しなくても、ヴィクトリスの成績は今と左程変わっていなかったかもしれない。


「ま、どちらにせよ私には関係ない話だ。仮に私の王位継承権が一位だろうと、玉座なんて遠慮するさ。私みたいな馬鹿に王が務まるはずがない」


「……じゃあ誰なら、王がやれるの?」


 話を聞いていたヴェロニカが、見定めるようにヴィクトリスに言った。


「王太子はルパート兄上だからルパート兄上が王になるのだろう」


「そ」


 どうやらヴィクトリスの答えは、ヴェロニカの好みとは違ったようだ。それでヴェロニカはヴィクトリスに対する興味を完全に失ったようだった。


(あの分だとヴェロニカと殿下の間にフラグはたちそうにないわね)


 そんなことを考えながらアナリーゼは視線を机に落とした。そこには三成が纏めた期末試験に出そうな範囲を纏めたノートがあった。


「よし!」


 両頬をパンと叩いて気合を入れる。目指すは百位以内だ。




 試験期間が終わってから一週間後。いよいよ答案用紙の返却と順位発表の日である。

 アナリーゼは心臓をドキドキさせながら一番右から順位表を見ていく。順位表の一番右側、つまり130人中130位の最下位はやはりというべきかヴィクトリスだった。王子であっても一切忖度せず堂々とビリとして表示するあたり、シリウス王立学園は公平なのかもしれない。単に忖度しようがないほど酷い点数なだけかもしれないが。

 視線を左へ移していく。120、110……アナリーゼの名前はない。109、105、103、そして101……100。まだアナリーゼの名前はない。段々とアナリーゼの口端がひくひくと吊り上がっていく。90、80、70までいってもアナリーゼの名前はない。そして、


第62位:アナリーゼ・アガレス


 丁度真ん中の65を少し過ぎたところにアナリーゼの名前はあった。

 思わずアナリーゼはその場で飛び上がってしまった。


「やった……やったわ三成さん! 62位だったわよ! 凄くない私!? アイアムワンダフォー!」


「余程補習が嫌だったのか」


 呆れる三成。ちなみにそんな三成はどうやら30位だったらしい。130位中の30位なのでトップ層とまではいかないが、十分成績優秀者のカテゴリーに入るだろう。

 自分と三成の順位を確認したアナリーゼは、気になるトップ層の順位を見るため視線を左へ向ける。


第5位:ビリー・ザ・ドゥル

第4位:ヴェロニカ・ウァレフォル

第3位:ミランダ・ラウム

第2位:エドムンド・サブナック

第1位:ディアーヌ・ベリアル


 成績トップ5は一際目立つように、名前の上に薔薇の造花が飾られていた。原作主人公の覇王タイプなヴェロニカのことだから、てっきりオール満点でもとって堂々の一位かと思ったら四位だった。かなり意外である。最低でもトップ3には入ってくると思っていた。


「畜生! ヴェロニカには勝ったのに、推薦組のサブナックに負けた! どんな手を使いやがった!?」


「予習と復習、ですかね」


 ミランダが長身の男子生徒に絡んでいた。侯爵家出身のエドムンド・サブナックである。エドムンドはぽりぽりと頬をかきながら満更でもなさそうな顔をしていた。あれは密かに猛勉強した証拠だと、アナリーゼは実体験から察した。


「わーい一位ですよ一位! ヴェロニカ~、三成さ~ん! 褒めて下さい~!」


 最下位に輝いた自国の王子様と正反対に、異国の地で見事に一位になったディアーヌは全力で喜びを露わにしながらヴェロニカと三成に絡んできた。


「はいはい、おめでとおめでと」


 ヴェロニカはぞんざいに返すが、


「異国の地で一位をとったことは見事であるが、成績が一番の者が必ず名君となるのならば、一年に一度名君が輩出されることになるが、そういうわけではない。優秀な学識ある学者が、いざ政治家に転身してみれば、現実に合わぬ愚かな政を行い、国政を混乱させる事例は多々ある。今後もこれに慢心せずに精進していくことだ」


 などと三十位の分際で随分と上から目線で説教していた。

 この面の皮の厚さはアナリーゼには真似できない。


「ちっ。王太女で私より成績がいいからって浮かれやがって。レズ王女め」


「レズじゃないですバイです~! 女性なのに女性を恋愛対象にするのがレズ! 男女両方が恋愛対象なのがバイ! ここ大きく違いますからね! テスト出ますよ!」


「でねぇよ」


 バジルが冷静に突っ込んだ。一周回って前世の高校のテストなら出るかもしれないが、中世ヨーロッパ風異世界のテスト問題にそういうものは出ないだろう。


「ちなみにヴィクトリス殿下は最下位なので、補習を受けて下さいね」


 成績順に一喜一憂する生徒たちを眺めながらロウィーナ先生閣下が言った。


「ははははは! 凄いぞマルグリット! 算術の試験で適当に全部0って書いたら一個あってた! 3点だ!」


「お、おめでとうございます……?」


 その後の話をすると補習授業を受けたヴィクトリスの余りの馬鹿さ加減に、殆ど全ての教師が匙を投げたが、魔法薬のギデオン先生だけが熱心に指導を続けた結果、ヴィクトリスは魔法薬だけはそこそこの成績をとれるようになった。

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― 新着の感想 ―
バルバトスはぶるぁああかもっとよこせで年齢が分かれそうですねw 家名だと原作AAが誰だったかちょっと思い出せないのでもう一度見直したくなります。けどそれやると半日潰れるからなぁ……w
もっとよこせバルバトスされる家はどこかなあ?
補修の誤字多いよなあと見るたびに思う よほど補習を受けたことがないのか…
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