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第25話  ザリガニ令嬢と伯爵令嬢

 マルグリットは果たして本当に喜んでいるのだろうかと、アナリーゼは本心か社交辞令なのか悩んでいたが、結論から言えばそれは杞憂であった。なにせマルグリット・ハルファスは、ゲームでの極悪非道アナリーゼにすら良心が残っていると信じる生粋のお人好しの善人である。


(私のことを考えて贈り物を選んでくださったのね。素手でクマを殺したと聞いておっかない人を想像してたけど根っこはお優しい人なのかも。ちょっと安心)


 というように少々アレなお土産も、かなり好意的に受け取っていた。


「あの、ところでアナリーゼ様の隣にいられる方は?」


「『アナリーゼ』が第一の臣、石田治部少輔三成。つい先日、男爵位を授かったばかりの新参故、ご容赦を」


「あ、こちらこそよろしくお願いします」


 そう言うマルグリットの視線は三成というより、三成の纏う着物に向けられていた。

 異世界に来ても三成は平時は着物、戦時は角のように生えた脇立が特徴的な乱髪天衝脇立兜の戦国時代スタイルである。この世界の人間にはかなり物珍しく映るだろう。


「ところでハルファス夫人! 私は今日、この家で料理をご馳走になる予定だ。だが頂くばかりというのも伯爵に悪い。なので食材を提供したいと思う。このあたりに獣の住まう森はあるか?」


「で、殿下!」


 テレーゼが慌てた顔になるが、ハルファス夫人の狼狽はそれ以上だ。

 いきなり王子様に獣狩りして食材を手に入れるから森を紹介してくれと言われればこうもなるだろう。


「ヴィクトリス王子殿下。事前に調べましたが、ここいら一帯に獣が住むような森はありません」


 三成が冷静に指摘すると、ヴィクトリスが露骨に残念そうな顔になった。


「森はないのか……。そうだ! ならば川だ! 川へ行けば魚を釣れるだろう! いや釣りなんてまどろっこしいことせずとも、川底に衝撃波でも放てば気絶した魚が浮いてくるはずだ!」


「殿下、川もありません」


「なんと! 山も川もないのであれば狩りも釣りもなにもできんではないか!?」


 まるで親が死んだと聞かされたかのような悲愴な叫びをあげた。テレーゼはやれやれと呆れ顔である。

 その時だった。アナリーゼに天啓のようにナイスなアイディアが閃く。


「お待ちください、殿下。川がなければ釣りはできない? 何を仰っているのです。あそこに広がる田畑……特に田んぼが目に入らないのですか?」


「田んぼ、だと?」


 アナリーゼが指さした場所には広大な田んぼが広がっている。ハルファス領は米の収穫量がバエル王国第一であった。


「魚がいないならザリガニを釣れば良いではありませんか? シャルウィフィッシュザリガニ!」


「?」


「?」


「?」


「?」


「――――――――ッ!!」


 ハルファス夫人もマルグリットもテレーゼも、そして三成も困惑顔になる。そんな中でヴィクトリス王子だけが雷にうたれたかのように目を見開いていた。


「ザリガニ……釣り……? そもそもザリガニって、食べれるんですか?」


 マルグリットが当然の疑問を言う。


「ええ! 田舎のおじいちゃんの家に帰省した時に、現地人ガキ大将と一緒に食べたわ! 任せて!」


「……おい」


「と、いうような話をうちの使用人の誰かから聞いたような気がするわ!」


 三成の冷たい指摘に慌てて取り繕うアナリーゼ。

 公爵令嬢アナリーゼの祖父はバエル王国の先代国王本人だ。当たり前だが王の居住地は王都であり田舎ではない。


「ザリガニ釣りか! はははは、田んぼで釣りをするなんていうのは未体験の分野だな! マルグリット嬢! 折角だし一緒にどうだね?」


 なにかが琴線に触れたらしくヴィクトリス王子はノリノリであった。

 ハルファス夫人は暫し悩んでいたが、近くの田んぼでザリガニ釣りなら病弱で運動が苦手のマルグリットでも危険はない。万が一にも体調を崩しても、屋敷は直ぐ近くにある。そういう計算をし終えた後で、


「マルグリット。殿下たちを田んぼに案内してさしあげなさい」


 と、娘に許可を出した。

 そしてマルグリットは初対面のアナリーゼにも、絶対に社交辞令ではないという笑顔で頷く。


「はい!」


 病弱だったマルグリットにとって、同年代の人間と外で遊ぶというのは、初めての経験だった。


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― 新着の感想 ―
ザリガニ… 旗… うっ、頭が
後の世で、ザリガニ釣りがハイソな趣味として親しまれてるやろな…
次話から作品の表題が変更になります。(嘘?)
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