第四十七駆
「ふうー」
僕は一人で摺針峠に来て練習をしていた。
住職はお盆の檀家さん周りの前倒しで一日に何軒も回っているらしい。
なので、今日は自主練習で何をしようかと考えた時に山登りの練習をしようとここに来た。
登りの練習を何回かして登った所で休憩をしていると一台の自転車が坂を登ってくるのが見えた。
僕が練習している時から何台か横を走り抜けて行ったりしていたので大会も近づいてきたので練習しに来てる人が多いのかなぁくらいに思ってみていた。
その自転車は僕の目の前まで来ると急に止まって
「おっ、いつかの少年君じゃないか?」
声をかけられたので見てみるとペダルのこぎ方を教えてくれたトライアスロンの人だった。
「あっ、この間は色々アドバイスをくださりありがとうございました。」
「いやいや、そんなたいした事じゃないよ。
あれ?コーチの人は?」
「住職はお盆のお参りに行っておられるので今日は自主練です。」
「ああ、あの人お坊さんだったんだ。
まぁ、そこはいいか。
調子はどう?いい感じ?」
「はい、前よりも長く速く走れるようになってきました。」
「そっか。……それにしては元気ないよね?」
「えっ?そう見えますか?」
「まぁなんとなくだけどね。」
「そうですか……」
「その住職さんにも話せない事なの?」
「実は住職さん達についてなんです。」
「指導方法がダメとか?」
「いえ、そんなことはないです。
色々とサポートして貰ってて、たぶん僕が知らない所でも気を遣って貰ってると思うんです。
僕のわがままに時間をさいて貰ってるのに僕は何かお返しできてるのかなと思うと貰ってばかりで申し訳ないなと思ってしまって………」
住職には無料でコーチをして貰って、田中さんや鈴木さんも服を貰ったり色んな情報を集めて貰ったりとお世話になりすぎている。僕はそれが申し訳なさ過ぎて悩んでいた。
「う~ん、少年君の気持ちもわからないではないね。
でも、お返しができてないわけでもないと思うよ。」
「どうしてですか?」
「テレビでスポーツ観戦してるおやじが『ここはこうだろ』とか『あそこに攻め込めば…』とかビール片手に言ってたりするだろ。
大人になるとさ自分はできない事が増えてくるんだよ。
やりたい気持ちはあっても時間もお金も体力も余裕がなくてできない事の方が増えてくる。
あれって『自分はこうしたかった』の裏返しなんだと思うんだよね。プロになりたかったけどなれなかった人は未練も必死に頑張ってた時の辛さも楽しさも覚えてるから最適なプレーを夢見てる。
決して今の自分じゃできない事だとわかっていても夢は見るんだよ。
住職さん達はきっと少年君に夢を見てるんだよ。
何も返せてないんじゃなくて返して貰わなくても良いくらい少年君を見て楽しんでるんだと思うな。」
「それでも何かお返しできないかなと思うんです。」
「少年君は良い子だね。
う~ん、考え方一つでどうとでも変わる話だけど……。
少年君は自転車をどう思う?」
「どうっていうのは?」
「自分にとって自転車とは?みたいな話かな。
俺は競輪選手じゃないから、自転車を相棒とか商売道具とかめちゃくちゃ思い入れがある訳じゃないんだよ。
トライアスロンの中で偶々自転車に乗るってルールなだけでね。これがスケボーだったりローラースケートだったりしたかも知れない。
俺にとっては自分の身体が相棒であり商売道具でもあるわけだね。偶々落ちてた枝で相手を倒した武士がいたり、怖くてよけたら相手のみぞおちに頭突きくらわせたりとかマンガや物語にはありそうだろ。
要はどれを使うかじゃなくてどう使うかなんだよ。
住職さん達の好意で与えてくれるものを『ラッキー』と思って受け取るのか『本当にありがとうございます』と思って受け取るのか。
少年が後者であり続ければ、きっと良い結果になって恩返しができると俺は思うね。」
「なるほど………。
ありがとうございました。」
僕は勢い良く頭を下げてお礼をいった。
『結果で返す』それが僕にできる最大の事だと思えるようになった。




