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20.誓いのキス②

「そんな文化のある異国があったんだね」


 馬車が走り出すなり、カシスにそう尋ねられてギクッとした。


「そ、そうなの……! 素敵な文化だなって思ったから、カシスとつけたいなって」

「そっか」


 怪しまれて調べられたらどうしようかと思ったが、カシスは嬉しそうに笑っているため大丈夫だと信じたい。


「結婚指輪は結婚式の時にお互いつけ合うんだけどね、その後に誓いの言葉を告げるの」

「誓いの言葉?」

「そう! その内容が……」


 私は前世の記憶を頼りに、誓いの言葉を口にする。

 それを聞いたカシスは、衝撃を受けたように目を見開いた。


「メアリーは……俺と、それをするつもりなの?」

「そうだよ。異国の方法だから結婚したことにはならないけれど。あ、それと……その、誓いの言葉の後にね、誓いのキスっていうものがあって」


 言葉にするのは少し照れくさい。

 これまでカシスにキスされたことはあっても、唇にされたことがなかった。


「誓いの言葉を封印? する意味合いがあるみたいで……指輪が完成したらね、私とそれをしてくれる?」


 まるでキスをせがんでいるように思われていたら少し恥ずかしい。


「……喜んで」


 カシスは微笑んで、私の頬に軽く口づけした。


「本当? 良かった」

「俺が断ると思う?」

「それは、思わないけれど……」


 カシスが私のことをどれだけ好きでいてくれているのか、もう十分すぎるくらい伝わっている。


「本当はね、君にまた避けられると思っていたんだ」

「え?」

「この前の舞踏会で、君を怖がらせただろう? 俺の異常さを止めるためだけに、君が俺のそばにいると思えてしまって……王太子殿下の話を聞く前から、君は俺と向き合う決意をしてくれたのに」

「カシス……」

「ごめんねメアリー。君のことを疑ってしまって」

「ううん。私がカシスを不安にさせるようなことをしたのが悪いんだよ。だから謝らないで」


 珍しく気落ちしているカシスにそっと頭を預けるように寄り添った。


「それに、今日は私と一緒に来てくれてありがとうカシス」


 これは本心である。

 カシスは私の笑顔を見るなり、つられて笑顔を浮かべていた。



◇◇◇

 

 時が流れ、指輪が完成したという連絡が届いた。

 私はすぐカシスと会う約束をして、指輪を受け取りにいく。


「わっ、とても素敵……!」


 完成した指輪を確認し、試しにつけるとサイズもぴったりだった。

 それを受け取った後、私たちは店を後にする。


「じゃあ今から指輪交換しよう……と言いたいところだけれど、馬車だと雰囲気がないよね……屋敷の部屋でするべきか」

「本来ならどこで交換するの?」

「チャペルっていうところで……あ、いや、礼拝堂? がメインなのだけれど……」


 チャペルという言葉もこの国には存在しないため、簡単に説明する。


「礼拝堂か……じゃあ今から教会に行こう」

「教会に?」

「うん。王都の外れに教会があるのだけれど、そこだと礼拝に来る人は少ないから、周りの目を気にせずにいいかなって」

「いいね。そこに行こう!」


 少しでも雰囲気のある場所でやりたいと思い、早速カシスと向かう。

 教会の人は快く礼拝堂を貸してくれた。


「教会でやるなら、白いドレスを着てくればよかったな。少しでも雰囲気が出るかなあって」

「君は何を着ていても綺麗だから大丈夫だよ」

「またそんなこと言って……」


 私の不安を拭うだけではなく、ベタ惚れされて少し恥ずかしい。

 照れくささを隠すように指輪を取り出す。


「じゃあ私から言うね」


 少し緊張したが、カシスと向き合って口を開く。


「病める時も、健やかなる時も──命ある限り、真心を尽くすことを誓います」


 カシスは誓いの言葉を完璧に暗記してくれたようで、私の後に続く。


「──限り、真心を尽くすことを誓います」


 最後まで言い終えた後、今度は指輪を交換する。

 前世で特別な意味の込められていた左手の薬指に。


(指輪交換が終わると次は……誓いのキスだけれど! 改めて考えると恥ずかしい!)


 ここに人がいなくて助かった。

 目を閉じて軽く顎を上げる。


(顔が熱い……今の私、顔が赤くなっていないかな……なっていたら恥ずかしい)


 緊張のあまり、キスまでの時間が長く感じる。

 そんな私の肩にカシスの手がそっと置かれた。

 直後、唇が重なり……軽く触れるだけだったが、時間が長く感じた。


「……これで終わり?」

「うん、終わりだよ」


 カシスは普段通りの様子で少し悔しい。

 私だけが感情を掻き乱されている気分だ。

 けれど私にはまだやりたいことが残っている。

 ここは羞恥心をグッと堪え、再びカシスを真っ直ぐ見つめた。


「ねえカシス」

「うん?」

「私は誓いの言葉の通り、一生カシスのそばにいるって決めたの。だからこれはその始まり。カシスを止める止めないとか、王太子殿下に言われたからなんて関係ない。それ以前から私の心は決まっていたの」 


 そう言ってカシスの手を握る。


「もちろんカシスには真っ当に生きて欲しいと思っているから、私なりにわかってもらえるよう頑張るつもりだよ。けれどもし今後、カシスが悪いことに手を染めて堕ちていくなら……その時は私もついていくから」


 カシスを導くためには、生半可な気持ちでは許されない。

 だからこれは私の覚悟だ。

 必ずカシスに真っ当な道を歩んでもらい、国に必要不可欠な存在だと証明すると決めた一方で、もし止められなかった時は……その時は、私も一緒についていこうって。

 堕ちるところまで一緒に堕ちて、カシスが孤独に苦しまないように。


「もうカシスは独りじゃないよ。これからは何があってもずっと一緒」

「メアリー……」


 カシスの目が輝いて見える。

 無事に私の気持ちが伝わったようだ。


「俺が何をしてもメアリーはそばにいてくれるの?」

「うん、そばにいるよ」

「そっか……そっか」


 カシスが顔を綻ばせたかと思うと、私を抱きしめてきた。


「何だろう、この気持ち……胸の奥がくすぐったい」


 いつもより力強く抱きしめられて少し苦しかったが、カシスの感情が強く表れてるようで何だか嬉しい。


「忘れないでね、カシス。今日交わした誓いのこと」

「絶対忘れないよ。それに、君との思い出はずっと心に残っているから」


 今は不安以上に、カシスとの幸せな未来に期待を膨らませる。

 今日の誓いは私たちにとって、まだ始まりに過ぎなかった。


第二章はこれにて完結になります。

ラストまで描く予定でしたが、キリが良かったのでここで一区切りにしました。

第三章は7月から更新する予定です。


もしよろしければ、ブックマークやページ下部の☆☆☆☆☆評価を押して応援していただけると嬉しいです!

引き続きよろしくお願いいたします!

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