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11.仮面舞踏会④

 私はカシスと一緒に会場を後にし、同じ馬車に乗り込む。

 カシスは仮面を外すなり、大きなため息を吐いた。


「……メアリー」


 今日、初めてカシスは私の名前を呼び、そっと私の仮面に触れる。

 ゆっくりとそれが外され、私の顔が露わになるなり、カシスは目を見開いた。


「……っ、カシス」


 私は涙を堪えきれず、泣いてしまう。

 自分の浅はかな行動のせいで、周りに迷惑をかけてしまうところだった。


「ごめん、なさい……私、迷惑かけてばっかで……」


 自分が悪いくせに泣くなんて最低だとわかっているのに、涙は止まってくれない。


「泣かないで、メアリー」

「どうして助けてくれたの……カシスにも、酷いことばかりしたのに……」


 何度も突き放して逃げ続けた私のこと、見捨ててもよかったはずなのに、カシスは助けてくれた。


「まだ俺の気持ちが伝わっていない?」


 カシスの問いに答えるように、首を横に振る。

 もう十分すぎるくらい伝わっている。


「でも、こんな私のことなんて、呆れて嫌いになってもおかしくないのに……」

「嫌いになんてならないよ。むしろ周りを見失ってまで己の道を突き進む愚かな君を、俺が守ってあげないとって思うんだ。わかってくれた? 君には俺がいないとダメだって」

「……うん」

「本当かなあ。また逃げ出しそうな気がする」


 カシスはふっと微笑み、私の頬に伝う涙を優しく拭ってくれる。


「ほら、泣かないで?」

「……っ、カシス……」


 中々泣き止まない私を、カシスは優しく抱きしめてくれた。


(カシスの腕の中ってすごく安心する……)


 しばらくして、ようやく涙が収まる。


「落ち着いた?」

「……うん」


 子供のように泣いてしまった自分が恥ずかしくて、顔を上げられない。


「ねえ、カシスはいつから気づいていたの……?」


 今回は絶対にバレていないと思っていたため、カシスが現れた時は本当に驚いた。


「いつからだろうね。君が仮面舞踏会について調べていた時かもしれないし、君の侍女が招待状を手に入れるため酒場に行っていた時かもしれないよ」

「いや、それって……」


 もう最初からではないか。

 私の行動は全て筒抜けだったらしい。

 そのおかげで助かったのだけれど……今回も全く気づかなかった。


「どうして舞踏会まで黙っていたの?」

「それは……」


 カシスは私の首元を指でなぞる。

 くすぐったくて、思わず反応した。


「体で覚えてくれたら早いかなと思って」

「……っ⁉︎」

「まあ、邪魔が入ってしまったけれど」


 残念そうなカシスを見て、顔が熱くなる。

 もしブラッド様が来なければ、あのまま最後までされていたというの……⁉︎


「彼が仮面舞踏会で度々目撃されているって噂は耳にしていたけれど、本当だったみたいだね」

「そ、そうなの……?」


 確かにあの黒髪のまま仮面舞踏会に参加していたら、噂されても納得できる。


「もし俺がいなかったら、君はどうなっていたんだろうね。最初の男には媚薬を飲まされそうになっていたし、ブラッド・ジェランダには攫われそうになって」

「うっ……」

「前に君を攫った犯人が彼だと知れたのは思わぬ収穫だったけれど」


 そう言いながらも、カシスは冷静な様子だったため、本当に? と怪みたくなる。

 それからもう一つ、カシスに言いたいことがあった。


「あの、カシス……」

「どうしたの?」

「さっきから……手が、くすぐったくて……」


 カシスはまるで小動物を愛でるように、私の頬や耳、首の順に撫でてきて、気にしないようにしていたけれど、さすがに恥ずかしくなってきた。

 いつものように穏やかに話しながら撫でられていたため、スルーするべきか迷ってしまったぐらいだ。


「触ってくださいと言っているようなドレスを着ていながら?」

「それは……反省しています」

「うん、だから大人しく俺に触られてて」


 カシスはそう言って私の耳元にキスを落とす。

 今日は私が悪いため、甘んじて受け入れたいところだけれど……とにかく恥ずかしい。


「ねえメアリー」

「……はい」

「他の男にも同じようなことをされたら、君はそうやって照れる?」

「そんなわけない……全力で抵抗するよ」

「じゃあ俺のことを受け入れてくれるのはどうして?」

「それは……嫌じゃ、ないから……」


 カシスに触れられても嫌じゃない。

 むしろドキドキしすぎて心臓がおかしくなりそうだ。


「嫌じゃないのに、いつも俺から逃げようとしているんだね。その理由、俺に教えて?」

「う…………」


 理由、それは……『カシスがヤンデレかもしれなくて、将来監禁や精神支配されて死ぬ恐れがあるから』なんて根拠がないのに、話せないに決まっている。


「それは……その」

「メアリー、はぐらかさず正直に教えて欲しい」

「今から私の話を聞いても、怒らない?」

「何度も嘘を吐いて逃げようとした君に、今更俺が怒ると思う?」

「思いません……」


 こんな勝手な私のことを受け入れてくれるのはカシスぐらいだろう。

 もちろん前世の記憶があることは伏せつつ、本当のことを話す。


「つまり君は、俺に監禁されたり殺されるかもしれないと思って逃げていたってこと?」

「…………はい」

「酷いなあ。そんな風に思われていたんだ」

「カシスが前に、私を閉じ込めるかもしれないって言っていたから……監禁されるかもって怖くなって……」


 私の話を聞いたカシスは、何やら考え込む動作をした。


「カシス……?」

「いや、確かにあの時の言葉は本心だったなと思って」

「へ⁉︎」


 それは閉じ込める、という言葉に対してだろうか。


「……ああ、そうか。やっとわかったよ」

「わかったって……?」

「あの時の俺は君に恐れられて、拒絶されると思っていたんだ。自分が普通ではないことぐらい自覚していたからね。だから君が俺を嫌がって離れていくだろうから、その時は君を閉じ込めて、俺だけを頼るしかない状況にするつもりだった」


 その言い方が過去形だったとしても、ゾッとしてしまう。

 やっぱりカシスは本気だったんだ。


「けれど君は俺を拒絶しなかったし、むしろこんな俺を見て頬を赤らめていたよね」

「それは……」


 闇が見え隠れしている姿が、私の性癖に刺さってしまったからだ。


「その後も俺を避けようとしていたけれど、拒絶とは違う様子だったし……その理由がようやくわかって安心した」

「怒らないの……?」

「俺が閉じ込めるなんて言ったのが悪いんだし、怒らないよ」


 勝手に悪い方向に考えて逃げた私を責めるどころか、許してくれるなんて……もっと早く、勇気を出して話しておくべきだった。


「それに……君の言い方だと、俺が監禁とかしなかったら、避けたり逃げたりしないってことだよね?」


 カシスの言葉に対して私は頷いた。

 正直逃げることばかり考えていたため、すぐにカシスと過ごす日々を想像できなかったが……元々私はカシスの本性を知るまで、結婚するつもりでいたのだ。


「約束するよ、メアリー。俺は君を傷つけるような真似はしない。それに……俺の隣で色々な表情を見せてくれる君が好きなのに、殺せるわけないよ」

「ほ、本当……?」

「まだ信じてくれないの?」

「ううん、信じるよ。けれど、私……カシスに酷いことばっかりして……」

「これからは俺から離れないって約束してくれるなら、過去のことなんて気にしないよ」

「カシス……っ、ありがとう。約束する……!」


 カシスの言葉を聞いて、これからは一人で先走らず、カシスと向き合っていこうと心に決めた。


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