合流
リンネにダルウィンやラグアードが見えなくなったように、彼らの方からもリンネの姿が見えなくなってしまった。まるで生き物が現れたように、どこからか植物が一斉に生えてきて、リンネを呼ぶ前にその姿を隠してしまったのである。
「リンネ……リンネ、返事しろっ」
「姉様、そこにいるんでしょ」
だが、二人がどんなに呼んでも、リンネの声は植物に遮られているのか、聞こえない。
ダルウィンは剣を抜いた。注意しながら目の前に現れた植物を切って、進んで行く。本当なら一気に切り捨ててしまいたいが、向こうからリンネが出て来たりしたら危ないので、それを考えるとできない。この植物群がどれくらいの厚さで茂っているかわからないし、少しずつやるしかないだろう。
切る間にもリンネの名を呼ぶ。彼女も短剣を持っているし、同じことをやっていればそのうち向こうも気付くはず。
だが、思ったより早く、植物の壁は終わってしまった。さっきと同じ岩の広間と滝がある場所へ出る。
「リンネ? リンネ、どこだ」
ダルウィンが呼び掛けるが、応えがない。この場にいるはずのリンネの姿は、どこにもなかった。
「そんな……姉様、こっち側にいなきゃおかしいのに」
ラグアードもあちこち見回したが、姉の姿はやはりない。
あの植物が三人を分けてしまった間に、リンネに何かあったのだろうか。
「くっそぉ、どこへ連れて行ったんだ」
リンネが滝の方へ近寄り、あの植物が壁を造ってしまうまで、そんなに時間はなかった。本当にあっという間だったのだ。
そして、ダルウィンがあの壁を通り抜けるまでも、さほど時間は経っていない。リンネが別の場所へ向かう暇はなかったはず。だいたい、ここからどこかへ向かえるような道はない。
でも、ここはグボルグの塔の中だ。魔性が何かの術を使えば、すぐにでも別の場所へ連れて行けるだろう。いくらリンネが魔法を使えるようになっていても、こちらは付け焼き刃。リンネが強気に出ても、相手はこんな世界を造ってしまうような魔性だ。勝負は決まっているようなもの。
「行くぞ、ラグアード。急いで姉さんを捜さないと」
「うん」
この塔へ入って来る時に通った扉は、もう見えない。滝があるこの空間からよそへ行けるような出入口はないので、二人はリンネと分けられた時に自分達がいた空間からよそへ行けないか、とにかく歩き回る。
でも、リンネの姿はどこにも見当たらない。やはり別の場所へ行けるような道もなかった。
「やっぱり別の場所へ連れて行かれたのか……。敵の陣地で慣れない魔法を使うのは危険かも知れないが、そんなことも言っていられないな」
どの方向へ進んでも、行きどまりになってしまってそれ以上は進めない。呪文を唱えれば岩の一部が開いて別の場所へ行けるようになっている……かも知れないが、その呪文がわからなければ開きようもなかった。
だとすれば、ここから抜けようと思ったら魔法を使うしかないのだ。
「リンネに偉そうに言ったけど、俺もどこまでやれるか自信はないな。いいか、ラグ」
「いいよ」
ダルウィンは移動魔法を使った。ただ具体的に行きたい場所というのがない。リンネがいる所、としか念じようがなかった。
二人が現れた所は、まるで下町の路地裏のような細い道だった。人が二人も横に並べば逆方向から来る人とすれ違うのはちょっと、という幅だ。
「どこかよその街へ出て来たんじゃないだろうな」
道の両側は古そうな建物に挟まれている。空はどんよりと曇り、この道の先はずっと向こうへ続いている。後ろもしかり。路地の道としては、ずいぶんと長い。そう思わされているだけだろうか。
「でも、ここはグボルグの世界だと思うよ。普通の世界にまでぼく達の魔法は効かないと思うし……」
子どもながら、実に論理的な意見だ。
「そうだな。この力はこの世界だけのものだ。ってことは、ここは奴の世界の一部ってことになる。魔物もこんな街を造るんだな」
しかし、あの手下の魔物達に秩序というものが存在するのだろうか。人間と同じように家に住み、商売をして生計をたてている、とはとても思えない。
ふと、ダルウィンの視界に何かが横切った。はっとしてそちらを見ると、どこから現れたのか、人が向こうの方へと走って行く。その後ろ姿は、どう見てもリンネにそっくりだった。
「リンネ! リンネだろ。おい、待てよ」
ダルウィンは走って行くリンネを追い掛ける。ラグアードも急いでその後を追った。
「リンネ、俺だ、ダルウィンだ。逃げるなよ」
「いやっ、来ないで」
ダルウィンが声をかけても、リンネは逃げ続ける。止まろうとはしない。
どうして俺から逃げようとするんだ? 術にかかって俺達が魔物に見えてるとか……。
そうは思ったが、見逃す訳にいかない。ここでリンネを見失ったら、また魔法を使って捜さないといけなくなる。術にかかっていたとしても、とにかく掴まえてしまえば正気に戻るということもあるだろう。
ダルウィンは追い続けた。
「リンネ、止まるんだ」
あとわずかで、リンネのたなびいている服の端が掴めそうな程近付いた。
手を伸ばし、服を掴める、というその瞬間。ダルウィンの足下で、何かが絡まった。
まるで投げ縄の輪が足に絡まったみたいに動きにくくなり、走っていた勢いもあってダルウィンは前のめりに転んでしまった。
リンネはこちらを見ることなく、そのまま走って行ってしまう。
「リンネ、待てっ。……くそっ、この肝心な時に」
どこかに魔物がいて、それが邪魔したのか。ダルウィンが自分の足を見ても、何もなかった。魔法で足を引っ掛けられたらしい。
「ダルウィン……」
ラグアードが息を切らしながら、やっと追い付いた。
「すまない、追い付けなかった。足に魔法がかけられたみたいで」
「ぼくだよ、それ」
「何だって?」
聞き損なったのかと思い、ダルウィンは聞き返した。ラグアードは少し息が落ち着いてきて、説明する。
「ぼくがやったの、ダルウィンを止めようとして。速くて足が追い付かないもん」
「どうしてだよ、リンネを追ってたのに。ラグアードが邪魔してどうするんだ」
「だって……そのままだとダルウィン、落ちてるよ」
「落ち……何だって?」
ダルウィンは訳がわからず、また聞き返した。ラグアードがリンネの消えた方を指差す。
「え……」
さっきまで続いていたはずの、路地裏のような道がなくなっている。あと二、三歩先へ行けばふっつりと消えてしまっているのだ。ダルウィンがそっと近付いてみると、見事に絶壁になっていた。相当高い所なのだろう。下には薄く雲が流れている。
さすがにダルウィンもぞっとした。あのままリンネを追っていれば、ここから落ちていたのだ。
「どうして……ラグにはわかったんだ?」
「ダルウィンの後ろを走ってるうちに、道がなくなってるのが見えて……。なのに、姉様はずっと走ってるから、おかしいなって思ったんだ。ぼく、ダルウィンを呼んだんだよ。でも聞こえなかったみたいだし、そのままだと本当に落ちるし」
自分の足では追い付けない。だから、ラグアードは魔法でダルウィンの足を掴んだのだ。それしか思い付かず、とにかく必死だった。
そして、ギリギリの所でダルウィンを止められたのだ。
「道のない所を走ってたんだから、あのリンネは本物じゃなかったんだな。リンネしか見てなかったから、この道のトリックに気付かなかったのか。ありがとう、ラグ。命の恩人だ」
ダルウィンもリンネの様子を見て、冷静ではいられなかった。術にかかっていたのは、彼自身だったのだ。
「ダルウィン、姉様のこと、好き?」
「……え?」
いきなりそんなことを尋ねられ、ダルウィンは目を丸くする。
「違うの?」
「いや、違うってことは……。ああ、俺はリンネが好きだよ」
「よかった」
ラグアードは嬉しそうに笑った。
「何だよ、いきなり」
「ううん、いいの。さ、姉様を捜しに行こう」
☆☆☆
リンネはあやかしのダルウィンの元から逃げ出し、いつまでも終わらない宮殿の廊下を歩いていた。ひたすら同じ廊下が続いている。
幸い、ダルウィンは追って来ない。あれがもしも本物なら、ずっと追い続けていたはずだ。それが後ろを向いても人影の一つもないから、やはり違ったのだ。
「そうよね。こんな所にダルウィンの屋敷があるはずないもの。彼がどこに住んでいるのかはともかく、グボルグの世界に住んでる訳がないじゃないのよね。だますにしたって程があるじゃないの。ふざけてるったらありゃしない」
リンネはまだ怒っている。詐欺に遭ったような気がして、腹が立っていた。
あれなら、魔物に襲われた方がまだいいと思える。ああやって自分の知人を使って術をかける、というやり方は気に入らない。ひどく卑怯な手に思えてならないのだ。
あんなことをされると、感情の線が一本、プチッと切れた気のするリンネである。
「それにしても……長いわね。いつまで歩かせたら気が済むのよ。歩かされる方の身にもなってほしいもんだわ」
スッキリしないことは全てやつあたり。
「さっきは疲れちゃってうまくできなくなってたけど……もう移動魔法は使えるかしら。こうもバラバラにされちゃったら、最初に誰を捜すべきかもわかんなくなっちゃうわ」
ダルウィン達でも、ニルケ達でもいい。とにかく誰かと合流しなければ。
合流できなくても、やらねばならない時がくればリンネは一人でもやり合うつもりでいる。魔物の大群だろうと、今回の件の根源であるグボルグであろうと。
一人だからと言っていざ敵と出遭って逃げていたら、ここまで来た意味がない。他の面々が聞いたら何を言い出すんだ、と怒るだろうが、引く気はなかった。
こういう強気の部分が、リンネの怖いもの知らずと言われるゆえんだ。
「身体が本当に疲れてしまう前に、試してみた方がいいかも」
リンネは移動魔法を使うことにした。ずっとここを歩いていても、果てしないこの廊下の先に誰かが待っているとはあまり思えない。現れるとしてたら、きっと魔物くらい。それなら、もう魔法を使った方がいい、と決断する。
が、念じる前に、廊下に並んでいる中のある扉が開いた。その扉から人影が現れる。懲りずにまた誰かのニセモノが出て来たのだろうか。
リンネは魔法を使うのを一時中断する。今度さっきと同じような手を使われたりしたら、手加減なんてせずに本気で一戦交えるつもりでいた。やられてばかりでは、こちらの気が済まない。
「姉様!」
今度はラグアードで来たわね。その次は、ニルケかカードでも出そうって言うのかしら。同じ手段ばっかりなんて、芸がなさすぎだわ。
リンネは笑顔で現れたラグアードの姿を見ると、心の中でつぶやきながら短剣を構えた。
「リンネ……リンネか?」
ラグアードに続き、扉からダルウィンが姿を現した。その格好は、はぐれてしまった時と同じだ。さっきのあのダルウィンはあまりにも変わりすぎていたので、考え直したのだろうか。
ふぅん、今度は二人がかりでやろうってつもりかしら。さっきと全く同じ、というのではないだけマシってところね。
リンネがそう考えている一方で、現れた二人もリンネが本物かと見定めていた。
「ラグ、本物のリンネだと思うか?」
「うん、間違いないと思う」
「肉親が言ってるなら、信用できるかな」
それに、ラグアードのように子どもの純粋な目なら正しい姿が見えるはず。
「姉様!」
ラグアードが嬉しそうにリンネの方へ向かって走り出す。ダルウィンも一緒に。
「姉様、無事だったんだね」
でも、リンネは笑顔で応えてくれない。
「来ないでっ。それ以上近付いたら本当に斬るから」
短剣を抜かれ、ラグアードは近付くのをやめた。戸惑ったように、追って来たダルウィンの顔を見る。
「どういう目に遭ったか、想像できるな……」
リンネもダルウィン達と似たようなことがあったのだろう、と考えるのは容易だった。
ダルウィンでさえ、目の前の人物が本物だろうかと疑ってしまったのだ、リンネにも同じことが起こっていたとすれば、こういう反応になるのもわかる。
「そっちは本物のリンネなんだろ? こっちも本物のラグとダルウィンなんだ……と言っても、言葉だけじゃ信用できないよなぁ」
「できないわ」
リンネはそう言いつつ、ニセモノがこういう言い方するかしら、などと思い始める。
「あなたが本物のダルウィンなら、出身地、言いなさいよ」
「俺の? オクトゥームのイメールだけど。……リンネ、俺の出身地、知ってたか?」
「……知らない」
「おい……」
知らないから聞きたかったのである。彼がニセモノだったら意味がないが、本物であればこれで一つ、ダルウィンのことを知ったということになる。
女心は時と場所を選ばない。
「ラグの目は正しかったな。ニセモノだったら、こんなこと言わないぞ」
ダルウィンは笑いをこらえつつ、そう言った。
「うん、ぼくもそう思う。やっぱり姉様らしいや」
今の二人の言葉は、どう受け取ればいいのだろう。リンネとしては少し悩む。
「リンネ、聞きたいことがあれば、何でも聞けよ。全部答えてやるから。どうしてこの世界に来たのか、誰と一緒だったか、今は誰を捜しているのか、何をしようとしているのか。幻なら、うそを言ったりするだろうけど、俺は本当のことを話してやる。……それもうそだろうと言われたら、そんなことないって反論できる材料はないんだけどさ」
「……」
リンネは短剣を収めた。こんなことまで言う彼が、さっきと同じニセモノとは思えない。もし、これが本物でなかったら、リンネの目は余程曇っているのだ。そうなれば、自分を責めるしかない。誰の責任でもなく、うそを見破れなかった自分の力のなさだ。
「ここって本当にいやな世界ね。一見まともだけど、ちっともまともじゃないもの。次は誰の幻を見るか、わかったもんじゃないわ」
リンネは軽く溜め息をついた。それから、ダルウィンの方に近付く。
「本当に本物よね? だましたりしたら、今度はただじゃおかないから」
「何なら、俺をひっぱたいてみる?」
「あら、それじゃ遠慮なく」
リンネは手を上げると、ダルウィンの頬を目掛けてひっぱたこうとした。が、ほんのわずか手前で勢いを殺し、叩かずにそっと触れる。
「本物じゃなかったら、わざわざひっぱたけ、なんて言わないわよ。ショックで術を解けちゃう時だってあるでしょ」
「助かった。今の勢いでひっぱたかれたんじゃ、ニルケ達と合流した時に色々と疑われそうだしな」
ダルウィンはわざとそんなことを言って笑みを浮かべ、つられるようにリンネも微笑んだ。
☆☆☆
幻を見破ってから、徐々に霧は薄れてきた。それにつれて、視界もよくなってくる。気が付くと、ニルケは牢へ連れて行かれる時に通った螺旋階段の近くにいた。
「カード、無事でしたか」
ニルケは近くにカードの姿を見付け、声をかけた。
「一応ね」
カードは目に見えて不機嫌だった。
「何かあったんですか?」
「あった。……けど、話すとまた腹が立つから、言いたくない」
幻のリンネがカードにひどいことを言った。言葉はともかくとして、たとえ幻であってもリンネの姿をとられるということ自体、カードは許せないのだ。
「言いたくないなら聞きません。ぼくもあまり楽しいと言えるようなことは起きませんでしたし」
ニルケも幻に惑わされかけた。カードがどういう目に遭ったか知らないが、お互い触れない方がいい。
「ニルケ、カード!」
声がして、そちらを向く。カディアンだ。
「どうやら、合流できたようですね」
「あの霧のせいで、一時はどうなるかと思ったが」
カディアンもどこか渋い表情だ。あの霧はみんなにいやな思いをさせたらしい。
「ここへ来た時の場所へ戻ったみたいだ。これ以上、不愉快になりたくないからさっさと行こうぜ」
カードが自分の言葉通りにさっさと歩き出す。
「おい、待てよ、カード。またさっきみたいになっちまうぞ」
「だったら早く来いよ。こんな所にいつまでもいてられるか。グボルグの奴に一発でもお見舞いしてやらなきゃ、気がおさまらねぇよ」
カードは歩調を緩める気配がないので、ニルケとカディアンは急いで後を追う。
「カディアン、奴のいる場所……ああ、前はここまで来てなかったんだっけ」
「この塔までは……な。だが、グボルグがこの塔の中にいるのは間違いないはずだ」
カディアンは一度この世界へ来たものの、この塔の存在は知らなかった。見えていたとしても、辿り着くまでにグボルグの手下に襲われている。だから、この塔の中のことはわからない。
「だったら、ニルケだけが頼りだな。このくっだらねぇ世界の主がいる所、見付けてくれよ」
「やれるだけはやりますが……場所を見付けて殴り込みに行っても、逆にやられるのがオチだと思いますよ」
カードもカディアンも魔力がなくなっている。ニルケは魔法が使えても、グボルグには及ばない。どうしたって負けは見えている。
「だったら、どこへ行くつもりだよ。カディアーナは奴の所にいるんだろ? オレ達は奴の所へ行くために、こんな気分の悪い世界に来たんじゃないか」
「カード、落ち着きなさい。興奮しても、相手の術にはまってしまうだけです」
「……くそっ、奴をこの世界から引きずり出せたら、簡単には負けないってのに」
いまいましそうに、カードは床を蹴った。
「いきなりグボルグの所へ行くのは、やっぱりマズいだろう。奴の所にはカディアーナを含めて複数の花嫁がいるはずだ。彼女達を盾にとられたら、動けなくなる」
「こそこそ隠れて行くなんて、性に合わないや」
カードは不服そうだが、堂々と出て行って勝てる相手でないということもわかっている。カードもそこまで無茶はしない。
「ここは先にリンネ達と合流する方がいいでしょう。あちらもぼく達を捜しているはずですから」
「そうだな。彼女達のことも心配だし」
「ニルケ、変な奴にだまされるなよ。本物を見付けてくれよな」
「わかってますよ、カード」
この塔の中で魔法を使えば、グボルグに何をしているか気付かれてしまう可能性は大いにある。だが、きっと逃げ出したことなど知られているだろうし、こうなったらこちらも遠慮する必要はない。
ニルケはここで持てる力を使い、リンネ達の気配を捜し始めた。
☆☆☆
一方で、リンネ達もニルケ達を捜していた。ただ、こちらは魔法を使って捜すという考えが浮かばず、自分達の足で捜し回っていた。
ニルケはよくリンネを捜すために魔法を使うので、当たり前のようになっている。反対に捜される立場のリンネには、魔法を使って……ということが思い浮かばなかった。魔法を使い慣れないダルウィンやラグアードも。
三人はまだ宮殿の廊下をさまよっていた。早くここから出たいと思っても、どこか別の所へ出られそうな扉は見付けられないでいる。どの扉を開けても、壁があるだけで中へ入ることすらできないのだ。
「本当にこの塔のどこかにいるのかしら、ニルケ達は」
「そう願いたいよ。そうでなきゃ、俺達のここまで来るための努力は何だったんだってことになる」
さんざんおかしな場所へ出てようやくここまで来たのに、ここにはいない、ではやりきれないではないか。
「ニルケ達を捜す前に、とりあえず別の場所へ出られる道を見付けたいな」
「移動魔法、やってみる?」
「……やめておこう」
もうあちこち行ってる時間はない。
「ニルケ達、こっちの方にいそうな気がする」
ラグアードが一方を指し示した。リンネ達の現在の進行方向だ。
「じゃ、ここをひたすら真っ直ぐに行くしかないわね」
「でも……途中でそれるんだけど」
「ラグ、道……というか廊下はずっと真っ直ぐだぞ」
「うん、そうなんだけど、ちょっと曲がるの」
リンネとダルウィンはよくわからず、顔を見合わせた。
「とにかく行ってみようか。勘でも何でもいい。この真っ直ぐなだけの場所から出られるなら、ラグにまかせる」
「そうね。どうせ見当なんて、まるでついてないんだもの」
二人はラグアードを先に歩かせた。ラグアードは自分が感じる方向へ足を向ける。
しばらく歩くと、ラグアードは右に向いた。そこは一定間隔で並んだ、ある扉の前。
「ラグ、その扉の中……って言うか、部屋へ入るつもりなの? 今までのことを思えば、部屋があるとは思えないけど」
「んー、こっちのような気がする」
「こっちのようなって……」
ラグアードは手を伸ばし、扉の中央に触れた。すると、手の触れた場所を中心にして縦長の穴が広がった。
「何、これ。扉だと思ってたのに。もしかして、今まで開けていた扉も、こうして触れば穴ができてたのかしら」
「全部がこうじゃないと思うよ」
「さすがリンネの弟だな。あなどれない」
「……ダルウィン、今のセリフ、あたしはほめられてるの?」
「もちろん。さぁ、早く行こうぜ」
疑わしい目を向けるリンネを、ダルウィンが穴の方へと促す。ラグアードの勘が正しければ、ニルケ達が近くにいる場所へ出るはずなのだ。
「穴に入ってばっかり。この世界へ来る時も穴だったわよねぇ」
リンネはぶつぶつ言いながら、先に入ったダルウィンの後に続いて穴をくぐった。
そこも宮殿の一部らしい造りの建物の中だったが、今までいたような長いだけで何もない廊下とは違う。両側に扉があるのは同じだが、廊下には終わりがあった。真っ直ぐ行った突き当たりには、門のような立派な扉が待ちかまえるようにして存在している。
「あっちの方」
ラグアードが突き当たりにある扉を指差す。この塔へ入る時に開けた石の扉とは質が違うものの、重そうな黒い扉だ。
「開けたら魔物がドバッと出て来る、なんてことはないでしょうね」
「そうなりゃ、そうなった時のことだ」
三人は扉に近付き、ダルウィンが取っ手に手をかけた。ゆっくりと扉が開く。
「ようこそ、お客人」
聞いたことのない声が響いた。





