第十九回 太陽が違う
今日は、私の記念日です。
この日を残すために、二日続けて投稿しました。
今回から、第二章が始まります。
私が剣を持つと使い方も知らないし、逆に危険きわまりない。使用目的はステッキのつもりだが、棒のように振り回しても折れないような堅めの金属で、ランドールさんにお願いして作ってもらった。
燈の身長と同じくらいで直径が二センチほどの丸い棒、ミスリルという金属で使ってくれた。地面に触れる先端部分は水平だが角はやや丸め、シルバーみたいな色合い、ローブと同じような緑色の石でコーティングをしてもらったけど、原石はメノウ系らしい。
それを護身用に持ち歩くことにする。何かを叩くと周りのコーティングが剥げないのだろうか。左手で持つと三キロほどはありそうだが、結界が張られた右手で持つと女の勘で、十分の一の三百グラムほどに感じてしまう。少し重さがなくては、慣れ親しんだ日常生活のレベルが壊れてしまうよね。
ランドールさんから作ってもらったので、彼の名前からヒントしてらんらん棒と呼ぶことにした。イースリッチョンの街へ行くと、上の部分から三十センチほどの持ち手のような柄の部分には、手に汗をかくし滑り止めみたいな感じで細い紐か布を巻き付けようと思う。
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燈花とランドールの契約条件の一端である話し合い。今後のことを洞窟内で三人で話し合う。燈の能力であるアイテムボックスの魔法袋と転移魔法という言葉、ランドールが二人に伝えたこの言葉の意味を聞き、驚嘆する燈花。
燈は別段驚く様子もなく、青い光で即座に移動が出来るし、人間に変身すれば転移することが出来ると、荷物は体内の中に保存出来ると平然として受け答えるが、その二つの言葉と同じ意味を成すのだろうか。
燈と燈花は、ヨーチュリカの神である彼女のことを『わらわさん』と呼ぶことにする。燈の強い要望である。ランドールも異存はないようだ。
燈は荷物持ちと二人の移動担当、ランドールは物作り担当、燈花は人間として存在そのものであり、燈は燈花の左手、ランドールは燈花の首元の本体に入り、イースリッチョンの街に潜入することが決まる。
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燈花は有体物のコピーを願い、上下の下着と生理ナプキンを五組ずつ、珈琲味のキャンディとチョコチップの入ったクッキーを五個ずつ、ミネラルウォーターとシリアルバーを一本ずつ並べ、各種三本ずつ増やしてもらう。ペットボトルがとても役立つと思う。
時計とICレコダーとスマホ、ミニマグライトと虫眼鏡、アーミーナイフと三色ボールペン、十五センチと二十センチのラップは、予備に一つずつ増やしてもらう。スマホ同士でトランシーバーみたいに連絡が取れないだろうか。
目薬とリップクリームとハンドクリーム、発熱や頭痛に効く薬と鼻水やくしゃみに効く薬、パックの栄養ドリンクを三つずつ増やしてもらう。マスクは五十枚入りなので一箱にする。薬に対する反応はここでは強烈すぎるのかな?
残念ながら、目薬とリップクリームとハンドクリームは使いかけなので、その残量しか増えない。でも、ないよりはましである。ハンドタオルを十枚お願いしたが、これも使いかけだけど洗えば新品同様だよね。コートやパーカー、中に着ている長袖のシャツやジーンズ、靴の類いは新たに服を買うとお願いしようと思う。靴がいちばん大事だよね。
リュック二つと横長のポーチを四つ増やしてもらい、ポーチを小物入れにしてリュックの中に入れ込み、自分で背負うリュックも荷物を移動させ、まとめ上げた二つのリュックを燈に預ける。
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イースリッチョンの街へ出かける前に、燈花の護身術と等しき身体能力、右手と両足の結界の力を確認するため、わらわさんから授けられたブレスレットの意義を見極めるため、ランドールは本体に入り場所を移動する。
ここは灯りの体内の中。時空の狭間のような雰囲気で広さは分からない。私のリュックが二つとコート、燈が買ってきてくれた服が入った麻袋のような茶色い袋、それと食べ物の入った籠、ランドールさんが作ってくれた椅子が一つ。
パーカーを着た背中でリュックを背負い、燈の買ってきてくれた袖なしのローブを羽織って椅子に座る。ランドールさんから生き物は入れられない、収納領域の大小がある、保存状態の程度が違うと聞いたけど、私、生きているんですけど、どうなっているの?
『ランドールさん、私、燈の体内に入っていますけど』
『ランドールさん』
『ランドールさん、聞こえてますか』
『ランドールさん、生きてますか』
青い炎の塊が砂地を見つけ、周りをくるくると回り、安全を確認している。
『ねぇね、着いたよ。少し探しちゃった』
『ランドールさん、生きてますか』
『どうしたんじゃ、燈花』
『よかった。呼びかけても返事がないから心配しました』
『わしも燈花の名前を呼んだんじゃがな、返事がなかったのう』
『燈の体内に入ると会話が出来ないのですね』
『そうみたいじゃのう』
ランドールさんの安否も確認でき、洞窟の灯りとは違う懐かしい太陽の光を感じ嬉しくなる。眼前には大小の白っぽい岩が点在している。足元は砂利だか小石も見える。騒音のような水の流れる音が響き渡る。
視線を戻し周りを見上げると、前面にごつごつした低い崖があるが登れそうにもない。崖の上には幹が細いが枝に緑の葉をつけた木がある。崖の上から垂れ下がっている枝もある。その奥には空のような空間が開けている。
後ろを振り向くと、少し太い樹が自分を主張するかのように、奥行きがあるこの森の守護者のように何本も重なり合って見えるが、その木々たちの頭上の葉は、今では団子状態になり風で揺らめいている。
大きめの岩の合間や砂利の上、そこにある岩を飛び越え水音方向に進む。やや大きめの岩の上から下を見ると、目の前に川幅が三メートルほどある水の流れを見つける。
ここは森林のような存在なのか、山と山の間にある谷間なのか、山間部に降った雪や雨が時間とともに土壌の隙間からこぼれ出し、岩肌から湧き水のように流れ出し、その源流らしき水が総集されたような勢いで、この場で流れているようだ。
右手の方から流れ出す水流は川幅が一メートルほど、それが私の右前で本流らしき流れと合流し、その合流した水が幅が二メートルほどの一枚石の上を一メートルほど一気に滑り落ちている。
下の部分は白く泡を吹いたように混じり合った水が見え、待ちきれない雰囲気で左側へと押し出されている。これが騒音の原因みたいだ。
その流れに沿って左側を見れば、低い崖の真下に沿って流れている水は色が濃く見え、その場所は急速に流れ水深が深いようだ。手前の方は浅瀬になっている場所もあり、その下にある砂利のような石が見てとれる。
岩から降りて水を触ってみると、冷蔵庫の中に冷やしたようなとても冷たい水、飲んでも害のないようなきれいな水だ。どこから続いているのか分からないが、支流はどのような場所に流れ込んでいるのだろうか。
水の流れにしばし見とれていた私は、先ほどの少し広い場所に戻る。また周りを見回し森の中だと確認するが……。
『燈、外に出て、太陽が違う。どうなってるの?』
今回も読んでいただき、ありがとうございました。