第二十回 天空星の輝き
大方の時計を合わせるために、太陽をの位置を確認しようと上を向くと、少し斜め上空に球体のような大きな輝きがある。太陽の輝きよりもずっと大きい。気温が高くないし太陽が近づいているとは考えられない。どう考えても太陽ではない。
「ぼくも分からないよ」
人間の姿に変身した燈が口ずさむ。
「明るいけど、今何時だろうか。時計を合わせたいんだけど」
「ぼくが洞窟から出て、ヨーカリスおねえさんに会ったときも明るかったよ」
燈はいつでも移動が出来る。時間の必要性がないかもしれないが時計を合わせないと、これからの移動目安が立てられない。私には時計が必需品だ。
ぐっすり眠ったようだが、起きたときに体中が硬直しているみたいに痛くて、ストレッチみたいに軽く動かすと、だんだんと体と頭がスッキリした。私の体内時計と体力の問題もあり、暗くなるのを待って時計を合わせたほうがいいのだろうか。
『ランドールさん、今何時でしょうか』
『ここはどこだか分からんしのう。教会の鐘の音が聞こえれば分かるかのう』
彼の言葉の意味が分からない。教会の鐘が鳴って時刻を知らせるの? 空にある光は移動しないのだろうか。
『……そうですか』
『ここではな、一日に六回の鐘が鳴り時刻を知らせているからのう。今の時節がはっきりと分からんのう。木の葉を見る限りではな、冬の寒い時節は終わったようじゃのう』
『……分かりました』
『頭上にある天空星の輝きの変化でな、時間が決まるからのう』
何その言葉は、天空星の輝きの変化? 太陽じゃなくて天空星なの?
『……ええっと……あの輝きは……ずっと消えずにあそこにあるのですか』
『あれがなくなると大変じゃからな、消えたりせんからのう』
あの天空星は消えずにずっとあそこに存在している。ここでは自転とか公転がないようだ。外に出てから一発目の問題が発生する。
『……ええっと……暗くなると夜になるのですよね』
『天空星の輝きがなくなると夜になるのう。朝になるとまた輝き始めるからのう。燈花は何を知りたいのかのう』
『……ええっと……分かりました。暗くなればいいです。時間は大切ですから有効に使わないと……知らないことばかりで申し訳ないです』
『天空星のことまで聞かれるとはな、明るくなり暗くなり、その繰り返しだからのう』
『……そうですね。繰り返しですね』
天空星の話はこれで終わりにしなくては、これ以上突っ込まれると答えるのにまた窮屈な気分になる。ここに来た目的を果たさなくては……。
十メートルほど先に、単独でどてっと存在していてる岩に対し、右手の平を前面に向け構えてから、妖精の言葉をやや強めに三回唱えると、右手の平が黄色く光り出し、その先でハンマーで叩いたような音がする。
「ワァー、すごい音だね」
右手の平が黄色く光るよりも、耳に響き渡っている水流の低音トーン、それに負けないほどの撃破音の響きに驚いてしまう。
二人で近づいてよく見ると、縦にずぼっと亀裂が入り、右手で軽く触るとごろんと二つに割れびっくりする。二つに割れた岩を見つめながら、自分の考えていたことが現実に目の前で起こり、これがどういう結果を招くのかという恐怖心が、私の心にツーンと芽生えてくる。
『ほほう、燈花の考えは正しいようじゃのう。光が飛び出すわけではないのう。風の魔法かのう』
ランドールさんの声が頭の中で響く。私が魔法を使えるの? それが風の魔法なの? そういう言葉があるの?
彼は歩くのが苦手なので外には出ずに本体の中から、その岩を間近に見てからの言葉であるだろうが、私みたいに驚いているような声の響きではなく、普段通りの落ち着いた音色だ。
「……風の魔法? それは何ですか?」
『魔法の力で風が打ち出されるのじゃな』
先ほどの不安な気持ちがぶっ飛ぶような魔法という言葉に、テンションが下がったり上がったり、でも、驚く気持ちがいちばんだ。
「……そういうことが起こるのですか」
『光と風の魔法が合わさったのかのう。突然物が壊れることがあるからのう』
合体魔法なの? 意味が分からない。突然物が壊れる? 何ですかそれは、目に見えない空気が圧縮されて飛んでいくのかしら?
そうだとすると……どうして圧縮するのよ。それが魔法なの? 精霊や聖霊の言葉でも可能のような気がする。
「今度はあっちの岩で……精霊の言葉を使ってみるね」
同じ効果を試すなら、同等の距離と岩の大きさは大事である。あたりを見回し私の視線は、少しとんがり気味の見た目が白っぽい岩を見つける。さっきこの岩に近づくために歩いた歩数は二十、その岩から二十歩後退して構える。
「ワァオー、壊れたよう」
精霊の言葉を三回では緑色の光が発光し、音と同時にぼろっと砕けたようだ。ここから見ても岩が壊れて存在しなくなった。自分で行動を起こしていながら、もうどうなっているのよ、としか思考が働かず、私の足が前に出ない。
『燈花、近づいてよく見たいのう』
ランドールさんの声の響きで、我に返り歩き始める。
『ほほう、燈の言葉は正しいのう。わしがこの石を回収するかのう』
そういうと同時に、目の前の石がごっそりとなくなる。
『……』
もうどうなっているのよ。自分の魔法で驚いているのに、こんな場所で彼の魔法が発動したわけ、開いた口が塞がらないとしか表現が出来ない。これらの石は物作り役立ってくれそうだから、文句の一つも言えないけどね。
『石の中には色んな金属がはいっているからのう。その欠片を取り出す手間が省けたかのう』
それは彼の仕事であり、その欠片の意味が分からないけど、石の中には色んな成分が混ざっているのは、理科の時間に勉強したような気がする。カラフルな花たちで染め物の色づけをするように、石は細かくミクロ状態にすると染料などになる。
算数と理科の計算問題は嫌いだった。高校に入り数学になるとよけいに嫌いになった。でも、不可思議な現実を垣間見ることや、理科的な自然現象を学ぶこと、それと歴史は大好きだったのよね。
聖霊の言葉では紫色の光が発光し、大きな音が聞こえた瞬間に目を閉じてしまい、おったまげてしまう。よく見ると、同じような岩が粉々に砕け散っていた。
またもや彼が回収する。今回は分割して回収している模様。周りの小石もなくなる。それを見ている私は呆れて言葉が出ない。魔法の威力と彼の回収を天秤にかけると、魔法の方が重いかな、などと考えている自分にも呆れてしまう。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




