10話 マチアンナイ
「アラタさん! オーヤマ選手って知ってる?」
わたしが定食屋に入るやいなやアラタに訪ねると、アラタは何を言っているんだといったような態度で答えた。
「そりゃ知ってるに決まってるだろう、デビルスターズの看板選手だろ? ビジョンにもでっかく映ってるじゃないか? なあ?」
奥さんのナオもちょうどいたので、アラタはナオに話題を振ったが、ナオは不思議そうな顔で答えた。
「そんな選手いたっけ?」
と答えた。
おいおいマジか?といった表情でアラタは答えた。
「これはカミカクシだな」
「この街の住人は気付かないんだよ。 気付くのは俺達外部の人間だけさ」
わたしはここで何か引っかかるものを感じたが、続けた。
「カミカクシにあった人間はみんなの記憶から消え去るんだよね?」
「そうさ、全く恐ろしいよ」
私はそもそもオーヤマ選手がこちら側の人間だったことに驚いた。
「そりゃそうさ、この街で突然話題になる人間なんて大体願い事のおかげさ。 あいつもプロ野球のスター選手になりたいとでも願ったのだろう」
その言葉に彼は微妙な表情を浮かべ、アラタへと訪ねた。
「やはり、夢を叶えるとカミカクシにあってしまうのですかね?」
「いやそれは分からん、そもそも私は何を願ったのか覚えてないしな、でもまだここにいる」
一つだけ言えることは、わたしたちと会ったあの夜、オーヤマ選手はカミカクシにあったということだろう。結論はそれ以外でなかった。
話し合いも大分続いた頃、定食屋に2人の来客があった。篤とまどかである。
篤とまどかはそもそもこの街に来たばかりだったのでオーヤマ選手どころかデビルスターズすら知らなかった。
「ねえ良かったら、わたしと奏くんが案内をするので、この街を一緒に回りませんか?」
わたしの言葉に2人は嬉しそうに許諾した。2人ともこの街のことよく知らないだろうし、何より、同じ境遇の2人を放っておくことは出来なかった。彼も同じ気持ちだったのだろう。笑顔で同意した。
わたしたちは早速中央駅の方へと向かった。中央駅の巨大ビジョンにはオーヤマ選手ではなくよくわからない別の選手が映っていた。だれなんだろうかと考えていると、ビジョンは星空フェスティバルの宣伝に切り替わった。彼は恥ずかしそうにうつむき、2人は彼のぎこちない作り笑顔に笑いをこらえられないようだった。
「ぶふっ! 何よあの顔」
まどかが耐えきれなかったのだろう。思わず吹き出してしまったようだ。
「うるさいな、慣れてなかったんだよ!」
彼は恥ずかしそうに返した。
「いやーいくら願い事のおかげとはいえすごいな! 星空フェスティバルもうすぐだよね? 絶対見に行くわ!」
篤のその言葉に彼は少し嬉しそうな笑みを浮かべた。きっと彼も同年代の男友達が出来て嬉しいのだろう。わたしも実際女の子であるまどかが来たことは少し嬉しかった。
「ねえねえちょっと別行動しない? 私はナギサちゃんと! やっぱり女同士話したいこともあるしね! あんた達は2人で楽しんできなさい!」
まどかのその提案にわたしも同意した。
そうしてしばらく男子チーム、女子チームに分かれ遊びに出かけることになった。
わたしはまどかを3番街へと案内した。やはりまどかは興味があったらしく、
「この服可愛い! 絶対ナギサちゃんに似合うよ」
……あれ、わたし?
「試着してみない? 試着してみない? あーーーーこれも!」
そうしてしばらくの間、わたしはまどかの着せ替え人形となった。
チーム男子は、天女横丁の飲み屋で飲んでいたらしい。いや、それ街案内の意味ないよね?
こうして、別行動はよくわからないまま終わった。まあ楽しかったしいいっか。
その後合流したのち、わたしたちは天女横丁へと向かった。いわゆる飲み会と言うやつの始まりである。高校生であったわたしは全く縁のなかったもので、正直な話ものすごく興味があった。流石に大学生が3人もいればペースが早い。
もともと篤とまどかは関東の方に住んでいたらしい。そして話すよりも飲むペースの方が早い。恐るべし大学生。
すぐにギブアップしたのは意外にも篤だった。その屈強な見た目からは想像出来なかったがあまりお酒は強くなかったらしい。というか、男子会で篤は滅茶苦茶飲んでいたらしい。大丈夫か?この人?
酔いつぶれた篤は爽やかないつもの振る舞いとは異なり、彼にべったりとくっついている。この人に酒を飲ませてはいけないと強く思った。
一方、まどかはお酒になれているのだろうか?篤と同じペースで飲んでいたが顔色一つ変わらない。こっちもこっちで恐ろしい。
結局、彼も潰れるというか寝てしまい、素面のわたしと、酔っているのか酔っていないのかよくわからないまどかとの女子会となった。なんだこれ。
そして女子同士の飲み会と言えば避けて通れないのがいわゆる恋バナってやつである。
まどかはわたしを弄るかのように彼の話題を振ってきた。
「ナギサちゃん、彼の事どう思ってるの-?」
わたしは、はぐらかすように答えた。
「すごくいい人だと思ってます。誠実ですし、何より一生懸命で」
「だよねーだよねー私彼狙っちゃおうかな?」
その言葉にわたしはおもわずぴくっと反応してしまった。その反応を見ていたのかまどかは笑いながら続けた。
「冗談よお-! ナギサちゃんのダーリン奪うわけないじゃない!」
「そ、そんなこと!」
「あらーじゃあやっぱりワ・タ・シ立候補しちゃおうかな-!」
まどかは意地悪そうな笑みを浮かべ、わたしの反応を楽しんでいる。この女は敵に回してはいけない。わたしは強くそう思った。
「でもね、私ナギサちゃんには本当に感謝しているのよ。 あの日もあなたが助けてくれなかったら、私……」
「まどかさん…」
「でーも、それとこれとは話が別-あんまりのんびりしてたら私が奪っちゃうかもね-!」
わたしは心から思った。この人達に酒を与えてはいけないと。
そうして、夜は更けていった。




