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8、東雲の唄、白邸の庭

 交易都市カラハタスの南側にはさとうきび畑が広がっている。カラハタスそのものはもともと交易で栄えていたが、現在の繁栄の礎になったのは、後から開拓されたこのさとうきび畑だ。虫けら以下として扱われている奴隷達が働く、このさとうきび畑だ。

 そして、そのさとうきび畑に今日も歌声が響いている。


  さあ陽が登り 始まるよ ♪

  さあ踊れ 我が友よ ♪

  さあ行こう 我が庭へ ♪

  大地の女神も 踊ってた ♪


  さあ陽が登り 始まるよ ♪

  さあ歌え 我が友よ ♪

  さあ行こう 我があるじ

  黒き獣も 歌ってた ♪


  暗いよるが 明けてくよ ♪

  つらい過去 忘れるよ ♪

  未来へと 笑ってけ ♪

  赤髪あかがみ振って 笑ってた ♪


  暗い夜が 明けてくよ ♪

  暗い過去 飛んでくよ ♪

  荒い砂 吹き飛ばし ♪

  赤髪振って 跳ねていた ♪


  さあ陽が登り 始まるよ ♪

  炎の女神も 歌ってた ♪

  炎の黒豹 踊ってた ♪

  みんな揃って 跳ねていた ♪

  赤髪振って 跳ねていた ♪




 広大な畑で赤髪の人々が歌いながら、さとうきびを刈り取っていく。熱い日射しの中を、どこか楽しげな、どこか寂しげなうたを歌いながら刈り取っていく。

 今年の内に、何人が死ぬのか。来年まで、何人が生き残れるのか。


 東雲しののめの唄がさとうきび畑に響いている。







 カイン伯の邸宅は見るからに造りが違う。ただ大きい訳ではない。日干しレンガは白く塗装されていて、三階建ての邸宅は迫力を感じさせる高さがある。庭も広く、街の一区画全てが使われている。邸宅の横に後から建てられた倉庫も立派なものだった。

 カイン伯はここで領内の政治を行っている。同時に商売もやっている。爵位以上に帝国内でちからがある理由はこれだ。この街で扱うサルカラの大部分を握っている。帝国内で最も多くサルカラを生産し、最も多く売っているのだ。

 その邸宅は高い塀で囲まれており、物々しさがあった。ヒカリは城壁に囲まれた都市の中で、さらに高い塀を作る男にどんな感想を抱くだろう?

 裏口の戸を、ヒカリはノックする。出て来た兵士に裏庭を連れられて行く。庭は砂漠の街とは思えない程緑豊かで、それは整備された細い水路があるからだった。着いた所に立っていたのは、ふたりの偉丈夫だった。ひとりは頬に刀傷が残る銀色の鎧を身につけた大男。もうひとりは隻眼で暗い朱色の鎧を身につけた大男。


 頬に刀傷がある男が大声で尋ねてくる。


「グレゴリウスの紹介で来たのはお前か? 」


「そう」


「ちびっ子が寄越すのは、やっぱりちびっ子か、はっ」


 ちびっ子って言われるのは嫌だな。実際に背が低いと尚更。ヒカリは黙っている。彼女の目が怖い。

 銀色の鎧は武骨な感じがして、いくつもの傷があり、使い込まれているのがわかる。戦場の武人という感じで、体格のない者を蔑むのは当然と思っている。裏組織の人間に対する侮りもあるかも知れない。

 その様子を見て、隻眼の男が落ち着いた声で言う。


「待て、ベルナルドゥス。グレゴリウスのナイフ捌きは本物だと聞く。そんな男が寄越して来るんだ、腕はあるのだろう」


「クレメンス様がそう言うなら。だが、『朱殷しゅあんの鎧』から一隊10名も来てもらった。俺の活躍する場が無くなりそうなのだけが心配だ」


 カイン伯の持つ兵力は約2000名と言われているが、それは領地全体でであり、カラハタスの城壁にも配備している。何より、広いとは言え邸にそんな兵数は置けない。100名だろうか。だからこそ精鋭部隊がいるのは、盗賊に対しては大げさで、ブラッドムーンが恐れられているのか、それとも緑夜空石サードアイが余程貴重な物なのか。ヒカリはそんな事を考えていた。

 頬に刀傷のあるベルナルドゥスは、手で追い払う仕草をとりながらヒカリに告げる。


「お前の持ち場は一階だ。中に入って、場所は聞け」


 ヒカリは何も言わず、白邸の中へ入って行く。


 ヒカリは最後まで、フードを外さなかった。顔は見えないが彼女は不機嫌な事だろう。だいたい命令されるのが嫌いだ。彼女に何かさせたいなら、丁寧な語り口で彼女のちからを、彼女の存在を認めた上で話さないといけない。僕はそう感じている。

 せっかく入り込んだカイン伯の邸宅で、仕事の前に喧嘩を初めてしまわない事を僕は祈った。何せ、僕はここの中に入る訳にはいかない。裏庭からそっと出ていく。

 ブラッドムーンの予告状に書かれていた日付は三日後。僕も最後の準備をしなければいけない。それどころか、朱殷の鎧がいるなら追加に何か準備をしなければ。


 何事も事前の準備が一番大事なのだ。









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