2、宴の終わり
年に一度の紅い月が輝く夜。
会場に灯りが灯されて行く。
賑やかな戦勝の宴から何かが始まろうとしている。
スッチーデント公爵が戦勝の宴の予定を決めた時、プリームス帝国の一部には反対の声が上がった。皆既月食と重なるのではないかと占星術師や聖職者から指摘が出た為だ。皆既月食は不吉とプリム人の言い伝えがある。
この世界でも皆既月食は起こる。地球と似たような現象と思われ、年に1回か2回か起こる。地球とはっきり違う事があるとするなら、はっきりと体感できるくらいに体内の魔力量が増える事だ。魔物も同じで魔力が増える。被害が大きくなる事もあった為に、不吉と言われるようになったのだろう。
宴そのものは既に始まっている。城下も祭りのように騒がしい。
式典そのものはこの後だ。会場に初代と二代目の皇帝が到着すれば始まる。ヒカリは美しい白のドレスを纏い銀色の台車を運ぶ係だ。この台車には短めの刀が隠されている。もちろん刃物なんて隠しようがないが、チェックをするのが味方なのだから何の問題もない。それに台車にはもっと人の目を集めるモノが置かれている。
式典会場にラッパの音が鳴り響く。主役の登場だ。少しは老いているのだろうか? 実際の年齢と、この世界の見た目の年齢は一致しない事も多い。魔力量が関係するからだ。命を奪えば奪う程に若く見える。だが、流石に年老いているだろう。もう最前線に立つことだってないだろうし。
主賓の二人が席に着き、式典が始まった。挨拶やら何やらがあってからクライマックスにヒカリは登場する。そうだ。正義の味方が登場するのはいつもクライマックスだ。
僕の知り合いの声がする。最近、よく聞くようになった。魅力的な語り口。普段とは違うが、人を引き寄せる力は違わない。
この場面で、この舞台でチャンスは最後になる。
そう、最後。全てが終わる。失敗すれば何も果たせず、何も返せず、終わってしまう。しかし、今回は成功するだろう。
だが、最大のチャンスに心が踊らない。きっと上手くいく、そう思ってるのに喜びが少ない気がする。
僕の目的には元々喜びが生まれる事などなかったからだ。
復讐を果たして、願いが叶って、でも、何も僕には残らない。僕が残らない。
ヒカリはどうだろう。きっと楽しんでいる。このお芝居を一番楽しんでいる演者であり。観客だ。それでいいのかも知れない。それでなければいけないと思ってる。
喉が渇く。緊張だろうか? ストレスだろうか?
僕の唇を紅く染める事ができるまで、本当に残り僅か。
台本通りに進んでいる。僕と違って、彼はこんな大舞台でアドリブを入れながら話しているのに、上手く進んでいる。
大きな拍手が沸き起こる。台車が動き出す。アスファルトで舗装してるわけではないので、ガタガタだ。乗り心地は最悪だ。
すぐに台車は止まる。
薄く白い絹布を通しても、紅い月の輝きははっきりわかる。
そして、あの男が立つ前で、絹布の下から恐怖が生まれてくる。




