7、未知の正義
僕はチートな人外だ。強大な魔力を持ち、絶大な威力のある魔法を使える。復讐を思い留まる理由なんてなかった。
プリム人の本拠地に、これまでの歴史にないような強力な魔法で攻撃をした。燃え盛る炎の記憶、灼熱の地獄、容赦ない死への宣告。消える都市、そこから生きて出てくる赤い鎧達。
あの時、知った。何がチートだ。何が霊獣だ。殺せないじゃないか。火に耐性があって本当に力ある者達には、全身全霊の魔法でも一発で消し尽くす事ができないじゃないか。
この魔法を使った事で、僕の力はかなり消えた。身体も小さくなった。今まで感覚的にセーブして使っていた魔力量を、大幅に越えた魔力量を魔法で使い、生命力が一気に減ったせいだ。
都市ひとつ消えても生き残るプリム人の精鋭を、すでにある程度の領土を持っていて本拠地が滅ぼうが広がっていた他のプリム人達をどうする事も出来なかった。
僕が基本的に使える魔法は火の魔法。それに耐性があり鍛えられた一部の
プリム人を滅するには、あの男を殺すには、自分の力では難しい。
魔法の研究を、この世界の研究を始める。そして、あの男が魔族の子供を狙ったかがわかる。さらに親とはまだ正面から戦えないと、僕達を誘い込む。
生命力を奪い、目の上のたんこぶを叩く。敵になる可能性がある霊獣も赤魔法使うタイプだから怖くない――全部計算ずくだろう。
あー、そうさ。この時から真正面から戦うなんてくそ食らえと思ったよ。
「おいおい、君達、聞いてるか? 」
メナスが僕達に笑いながら呆れたように声をかける。
「現皇帝でなく、初代皇帝なの? ――あたしはよくわからないけど? 」
ヒカリの質問だけ、浮いている、とメナスとヒカリの二人以外は感じていた。
公爵相手で、充分に危ない橋を渡るんだと思ってる中だからだ。
「あぁ、現皇帝では影響力がない。それにこれは思い付きで話してるワケではないんだよ」
「現実と理想と、どちらからの理由があるのかな? 」
ヒカリは楽しんで会話している。普段、僕と話す時や、飲み屋で街の人々する時とは違う。
「どちらから聞きたい? 」
ヒカリはみんなを見回す。それにグレゴリウスが反応して組織のトップとして当然の事を口にする。
「現実的な方で」
ヒカリはそれを聞いて、メナスに言う。
「理想から」
メナスはグレゴリウスとヒカリを二人見比べてから、答える。
「どちらも話すよ。ただ順番は理想から行こう」
メナスは仕草で座る許可をもらい、皆にも座るように促す。もちろん部下の偽クレメンスには距離を取らせている。
「現在の実際の政治を行っているのは現皇帝だ。初代皇帝は重要案件だけかかわる、それも方向性を決めるだけ。だが帝国の精神的支柱は初代皇帝だし、国の方向性そのものを変えようと思うなら初代皇帝を殺るしかない」
ニヤリと笑って続ける。
「現皇帝は優秀だが、胆の小さい奴だ。敵の親玉にするのは物足りない」
皇帝暗殺を軽い事のように言う。義賊の大物と言うのはこういうもの何だろう。僕はそんなふうに考えていた。自分達は皇帝の子とはいえ公爵を狙うのに慎重に話をしていたのに。
「ちなみに今回はお膳立てをしてもらえる」
なるほど。当然ながら初代皇帝を一か八かで取りにいくわけではないのだ。ちゃんと準備できていて、その上で僕らにお声かけと言うわけね。
「で、勝ちを確実なものにしたいからヒカリとエンダラ様に声かけたのさ。ヒカリの実力は前回でわかって、エンダラ様がプラスアルファで乗る。かなり楽じゃないか? 」
「伝説は伝説だ。さらに言うとその時の力はもう持ってない」
「わかりました。大きな黒豹の姿から今の黒猫の姿って言うのも関係してるんですかね? とりあえず喉が渇いたからお酒もらえる? 」
マスターは緊張してるのか、義賊に憧れや恐れを抱いたのか、動きが固い。酒を待っている少しの時間が何とも言えない雰囲気になっている。
事情が一番飲み込めてないツキヨミが小さい声で話しかけてくる。
「味方何ですか? 敵何ですか? 」
僕はツキヨミの膝の上に飛び移る。視線が痛い気がしたが、膝の上から彼女に答える。
「敵の一番の親玉が初代皇帝ってのは間違いないよ。この義賊様が敵か味方かわからないけど」
「義賊? 」
「ブラッドムーンって言うんだ、貧しい者に優しいってのは間違いない」
ツキヨミは不思議な顔をする。そこが僕には不思議だった。
「何でそんな不吉な名前をつけたの? 」
僕はメナスに尋ねる。
「ブラッドムーンって自称なの? 」
メナスはやっと着た酒のグラスに口をつけて答える。
「自称だよ」
ツキヨミが話す。
「ブラッドムーンって、皆既月食の事でしょ? 生け贄と再生の女神を表す」




