6、嘆きの正義
初代皇帝。僕達を騙した男。僕達を裏切った男。あの男。
プリム族の族長をしていて、僕達に必死に助けを求めてきた。頭を下げるその姿に、自分達を利用し、力を奪おうとしているとは思えなかった。
プリム族は農耕民族で当時から赤い鎧の精鋭部隊を持っていた。一般的には強い部隊だったかも知れない。豊かな田畑を持ち兵力は多かったし、その中の精鋭なわけだから。
ただこの地域には草原の覇者がいた。圧倒的な強さを持ち、何者にも縛られず、人間にちょっかいをかけてくる魔族は打ち倒し、支配しようとする国は薙ぎ倒す、赤い髪を馬上でなびかせ、紅い弓を使い敵を仕留める、自由な民、アータル。
赤い鎧の精鋭部隊を持ってしても敵わない魔族達、その主であるデーモンに襲われている助けてくれ、とその男は訴えた。
私達には力がない、このままでは戦いに赴く男達だけでなく、女子供まで皆殺しにあうと。
特に今までプリム族と争っていたわけではない。違う宗教ではあるが、火を神聖視してるのも同じでもあった。そこで、仲間として助けに向かった。
魔族達は信じられない数がいた。普段50もいれば多いと言える。それが約10倍はいた。さらにそれをまとめ挙げていたデーモンも過去に出くわしたデーモンの中でも一番強かった。
アールマティと僕、アータル族、仲間のゴブリン一族であった深碧の銛ナパート族、そして助けを求めてきたプリム族。この連合軍で魔族達と激戦を繰り返し、追い詰めていった。
もちろん、有利には進めて行ったが、プリム人だけでなく、僕達にも死者はかなり出た。
それでも最後の決戦、アータルの勇者達と僕、そしてアールマティで死闘を繰り広げ、何とかデーモンを殺した。
デーモンの脇にいた魔族が告げた。傷を負い、主たるデーモンを失った瀕死の魔族が告げた。
「人間とはいかに残忍で、狡猾で、憐れな生き物か……そして黒き獣よ、お前は阿呆だ」
そんな言葉を告げた、黒き羽根を背に持ち、長い二つの角を持った魔族にアールマティが三叉槍で止めを刺そうとした時に後方から悲鳴と怒声が響いてきた。
本陣からは炎と煙りが見える。
「まだ味方がいたの? 」
「俺達の敵がいて、お前達は全てを失うだけさ。俺達と同じようにな」
アールマティには何がなんだかわからなかった。僕にもわからなかった。
ただ本陣に敵がいる事だけは間違いない。アールマティは僕の頭を一撫ですると周りの戦士に声をかける。
「すぐ戻るぞ! 」
アールマティは力強い眼差しを周りに届けると、僕に優しい声をかける。
「エンドウは待ってて、私達に任せて」
僕は頷くしかなかった。傷を負い、強力な魔法を使い、既にまともには動けなかったのだ。
アールマティは僕の頬に自分の頬をあわせ、それから微笑み、去っていった。
そして、二度と戻らなかった。
アータル族の強さは、紅の弓と呼ばれる複合弓と、アータル族の特殊能力『動物との意思疎通』にある。彼等は馬と会話が出来る。人馬一体になれる事にあるのだ。騎馬で自由自在に動き回り、相手より遠い位置から、馬で駆けながら弓を放てる事が草原の覇者たる理由なのだ。
だが、本陣で馬から降り、傍にいた仲間から近接戦闘を一気に仕掛けられたアータル族にその強さはなかった。
僕の目の前で、命が尽きようとしている魔族が語る。
「信じるか、信じないかはお前次第だが、我等があのプリム人を、いや人間を滅ぼそうと決意したのはな、我等の子達を狩っていたからだ」
「魔族も人間を狩るだろう? 」
「人間も動物を狩るだろう? 同じさ。我等もエサとして人間を狩る。エサとしてな。だが、彼等は食べる為でも、生き残る為でもなく、我等の子を殺す。ただ殺す為にな? 許せるか? 」
この時はまだわかっていなかった。
あの男はこの世界の真理に気付いていたのだ。
僕はまともに動けるようになるまで、身を潜めた。怪我が癒え、魔力がある程度回復してから、戦場に戻る。
結果は分かっていた。アータル族が負けたのは分かっていた。だが、生き残った者がいるかも知れない。アールマティだって……。
もちろん、僕の願いは叶う事はなく、絶望を知るだけだった。
アールマティの生首を見つけた時、僕は復讐を決意した。




