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5、偽者の正義

 偽クレメンスの声に雨夜亭の中は緊張に支配される。


 ただこの店に来たのではない。ヒカリがいる事を知って来ている。それも実際にエンダラという僕の名を知っているのではないかと話し合っている時に。

 もちろん、話し合っているタイミングというのは偶然だろう。だが言い知れぬ不安は自然と高まる。


 扉が開き、偽クレメンスが現れる。そしてメンバーを確認してからもうひとりが入る為に扉を手で抑えている。

 現れた男はいつも通りの服装だ。薄汚れた黒の外套がいとうを身にまとった、一見するとただの旅人の風体ふうていにしか見えない男。しかし、その緊張感のない、威圧感のない、自然な感じが怖い。

 あのゴブリン王とまともにやりあえる剣士には絶対に見えないのが怖い。



「やあ、皆さん、御揃いで」


 とりあえず僕は今さらだけど、ツキヨミに耳を隠すように合図を送る。本当に今更だ……。

 メナスの明るい声に誰も返答はしなかった。


 静かな部屋でメナスは続ける。


「はじめまして、グレゴリウスとその仲間達。僕達は人呼んで、ブラッドムーン。君達の味方だ」


 メナスの芝居がかった口調に苛立ちを覚える。だが、その口調を楽しむ人もいた。


「いいねー! いつもそんな事やってるの? 」


 ヒカリだ。


「あたしもやろうかな? 」


 ヒカリには笑いかけただけで、グレゴリウス達にメナスは続ける。


「君達のお手伝いをしたいんだ」


「お手伝いとは具体的に何の事かな? 」


 グレゴリウスも冷静に返す。流石だ。


「提案なんだけど、弱者をいじめる奴らの親玉をらないか? 」


 本当に話を聴いていたのかも知れない。そんな提案だ。

 ブラッドムーンは義賊とは呼ばれている。悪徳商人や悪徳貴族からお宝やお金を盗み、貧民達にお金をばらいてはいる。その中で支配階級の者を殺した事はあるかも知れないが、反帝国で有名なんて事はなかったはずだ。

 善政で知られるスッチーデント公爵を殺るのか? やり方は確かに好きではない。だが、あの男の息子と言うのが、私が殺りたい理由の一番だ。メナス達、ブラッドムーンがそれに乗る、いや、けしかけているのが謎だ。


 私達からの反応が出ない。まあ、こんな状況ですぐどうしようかなんて決められない。迷っている僕達にメナスは演説を始める。いや、大声で話してるわけじゃない。現代日本の政治家のやっているようなモノでもない。ただそう感じてしまって――。




「帝国が嫌いってわけじゃない。他の国や部族に比べりゃ凄くマシだね。だから、悪人どもだけ懲らしめて、ちょっとだけお宝を頂いていた。でもさ、変わらないんだよね。悪人がひとりいなくなれば、次の悪人がってね」


 自分も悪人だけどって顔をメナスは見せる。


「プリム人が一番って考え方が根っこにあるからなんじゃないかと思うんだ――エンダラ様も睨むなよ。確かに俺もプリム人、それも貴族の落し胤(おとしだね)さ」


 そうなんだ僕が炎の魔法をかけて逃げた時、彼は火傷なんて言ってたが、驚いてはいたが、ダメージをくらったようには見えなかった。火の魔法を使えるプリム人、つまり貴族は炎に対して耐性があるんだ。それを私の視線に気付いたメナスは自分から告白したわけだ。


「プリム人にも色んな奴がいるわけだ。話を戻すよ。プリム人第一主義を広めた奴にいなくなってもらえればいいかなっとね、思ったわけだ」


 僕が割り込む。


「広めた奴って誰だい? そんな仕事をしてる奴がいるのか? 」


 メナスはゆっくり頷き、みんなを見渡す。


「唯一絶対神ウーヌスに一番最初に付き従ったのがプリム人ってのが神話の元の部分だ。だがウーヌス様は別にプリム人を一番だなんて言ってない」


 僕も此方の世界の宗教には詳しくない。前の世界でも詳しくなかったけど。


「こんな事を言い出して、部族をまとめ、強い一族に仕立て挙げたのさ。ただ火の魔法が使えるっていうだけの農耕民族を一大帝国を治める一族に変えた。もう、わかるだろ? 」


 僕は心を鷲掴みにされた。


 僕は以前程のちからを失った。だから強力な武器を手に入れようと召還魔法を繰り返した。帝国そのものと独りで戦うのが怖かったからだ。無理だと思ってたからだ。だが、この男は違う。

 メナスの声が身体に響いてくる。




「初代皇帝を殺らないか? 」







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