1、それぞれの正義
姿が自分達と違う。それだけで人間はどんな事でもしてしまえる。それは元いた地球でも、そしてこの異世界でも変わらない。
「今回は素敵な商品をご用意しております」
商売上の腰の低さから曲がったのだろうか? 痩せていて、身なりは上品なのに卑屈さが滲み出る男が客に対して話をする。
「亜人でウサギの血が混じっているようでございます。耳はウサギそのもの。身体は一級品のバランスで、その妖しさは美しさも感じられます」
手に持つ燭台を亜人の身体に近付け、客によく見えるようにしている。灯りが近付くと、ウサギの亜人の顔がよくわかった。
美しい女性の顔に酷い痣がはっきりと見てとれる。人間の女性との違いは可愛らしい耳と尻尾。そしてその扱われ方だけ。
彼女の罪は美しく、それでいて人間でない事。元々この山に住む神の遣いと呼ばれていた亜人達のひとり。神と呼ばれていた魔人が帝国の手にかかり、その下僕であった亜人達は殺された。
美しい彼女だけが生かされたのは幸か不幸か……。
カラハタスという大きな都市の外れにある小さな街の暗い地下室。カラハタスから馬車で1日程離れているだけで平凡な街の暗部。プリームス帝国はプリム人第一主義であり人間でさえランク付けをする。人間以外のエルフやドワーフでさえ認めない、人間の出来損ない扱い、ましてや亜人なんて動物以下の扱いだ。
勿論、おおっぴらには人外を奴隷として認めていない。エルフやドワーフは交易相手ではあるし、亜人は魔物魔人と同じで討伐対象だからだ。
裏ではこうやって、特異で耽美な貴人や金持ちの玩具として売買されている。
そろそろ良いだろう、見てられない。
燭台の蝋燭が半分消え、灯りがなくなる。奴隷商は曲げた腰から腹にかけて刀が通り過ぎ、その前に身を屈めていた客の両目も切り裂く。僕は客の首筋に牙を突き立て、止めを刺す。
静かな夜だが、ほぼ外には音が漏れない地下室だ。誰にも気付かれる事はないだろう。
まだ僕達は目立ちたくない。
刀を振り、血を落としてから布で拭く、長い黒髪の少女はウサギ耳の女性に声をかける。
「ごめんなさい。殺してしまって。生かしたままにも出来たんだけど、騒がれるの嫌だし、万が一にもあなたに怪我を負わせたくなかったの」
まだ震えたままの彼女にヒカリは続ける。
「一角の魔人に頼まれたの」
彼女はこちらを睨み付け答える。
「父は死んだわ」
ヒカリは首を振り、答える。
「そうね、あなたの造物主は殺された。でも、その友人に会ったの」
カラハタスを目指し、あと少しというところで、その魔人とあった。
一角の魔人、日本的に言うなら、つまり鬼だ。
怒りに身を任し、魔力も隠さず、大きな金棒を持ち、ゆっくりと街を目指す魔人がいた。はっきりと遠くからでもわかる、その異常な生命力の禍々しさに僕は驚いていた。
魔人と呼ばれる、異能で知能が高い魔物達。勿論、好戦的で人間を食い物にするデーモンなんて呼ばれる奴等もいるが、大抵は人間になんか無関心であったり、気紛れでイタズラをしたり、人助けをしたりという魔人が多い。
それがはっきりと街を襲う姿勢を見せている。
黒豹の姿に戻り、背にヒカリを乗せ、鬼を追った。鬼は歩いていたのですぐに追い付けた。後は、声をかけるタイミングだ……。
「鬼よ、話を聞け! 」
返事として金棒が迫る。
ヒカリは僕の背から飛び降り、僕はそれこそ身を捩ってギリギリで躱した。
ヒカリの無神経で遠慮の無い声かけが僕の生命を消すところだった。
「魔獣遣いか? なら聞く必要はない」
鬼はさらに怒りを増したように見えた。
「待て待て、魔獣遣いじゃない! 飼われてない! 急いで貴方に追いつくために背に乗せたんだ。初めて乗せたんだ」
鬼は足を止め、僕を値踏みする。こうなったら少し魔力を見せないと信じてもらえない。僕は抑えていた魔力を一瞬だけ開放する。
「確かに飼われる事はなさそうだな」
ヒカリは魔力を隠してないので、鬼はヒカリと僕との魔力を比べ、一方的に支配されているような関係でない事を見て取ったのだろう。
そこからは僕が主に交渉した。
鬼の目的を聞き、それが友人の敵討ちであり、何より友人の産み出した亜人を救う為である事がわかった。そこで鬼が街を襲えば、亜人が人質にされ、殺される可能性が高い事。近くの都市には軍隊がいて、それとまともに闘えば流石に鬼がいくら強く、人間を多数殺せようとも命がないことを伝えた。
そして、僕達が亜人を救いだす事、さらに僕達も帝国に強い怨みを持っている事、復讐の際には力になって欲しい事を伝えた。
正義の味方が、人間の味方だとは決まってないだろう?




