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3、伝説の敵役

 玉座は大きく、黄金で飾り付けられている。その大きな玉座を窮屈に感じさせる、今まで見たことないような巨体のゴブリンが座っている。両脇には、装飾されてはいるが実用的で破壊力は抜群だと一目でわかる大きなメイスを持っているゴブリンと、シャーマンだろうか骸骨の飾りがほどこされている杖を持ったゴブリンが控えている。


「よく来たブラッドムーン。臆病者ではなかったな」


 玉座からよく響いた低い声が届く。横に並んでいるゴブリン達は槍を右手に、魔物が叫んでいる時の顔が描かれた盾を左手に持ち、整然としている。立ち並ぶゴブリン達の牙が剥き出ているのはネフタン族の特徴だ。


 そして身体だけでなく、鋭く大きい牙を持つ王は、でかい口を開けて、大声で話す。

 見た目だけではない。教えてもらったところによると、100年程前から頭角を表し、バラバラだったネフタン族を独りでまとめ上げたそうだ。長老達は皆殺し、ライバルも皆殺し、殺しまくって今の地位に、今の姿になったという。




「金は確認できた。金貨2000枚、よく稼いだな! 」



 そんな量の金貨を持ち運ぶのは容易ではない。ブラッドムーン――メナスは先に船から金貨を降ろすと同時に海賊どもに渡していた。

 渡していても交渉が続けられるように、もうひとつの品を用意している。それと海賊ゴブリンが持つお宝を交換しようと云うわけだ。



「俺の嫌いな奴等は金儲けが好きらしくてね」



 メナスの声もよく通る。僕達の位置から玉座まで約20メートル以上といったところで、玉座の間自体はもっと広いわけだが、大声を出してるわけじゃないのに大広間にいるゴブリン達全員にその声は届いた。



「わしが嫌いな奴等も金持ちが多いが、お前程持ってる奴はそんなにいない」



 メナスは首を回して、肩を回して、のんびりと答える。



「大物を狙わないからさ」



 王は身体の大きさに比例して、大きな、そして血走った眼にちからを入れて返す。


「人間はみんな小物さ。小物の中で少しマシだからと言って、調子に乗るな」




 笑って、時間をたっぷり溜めてから、メナスは吐くように答える。



「小物同士、商売の話をしよう。王よ」



「ああ、早く寄越せ! 」



「まず『海神の紅い実』を見せろ」



 沈黙が流れる。こういう交渉事は慣れてない。霊獣であった頃は相手と対等だった事がないのだ。いつも自分が圧倒的に上の立場だった。緊張を感じる必要性がなかったのだ。



「俺が持って来ている物のひとつは既に渡した」


 そして、こちらを向いて、ヒカリの手を持ち上げて続ける。



「もうひとつもここにある」





 そう今回、メナスが持ってきたふだがヒカリだ。


 海賊ゴブリン達は、フィート男爵によって苦しい立場に追い込められていた。彼等の生命線は海賊行為だ。その狩りを行おうとして逆に、ことごとく失敗したのだ。

 獲物を得る処か、味方と船を次々に失った。


 ゴブリンの王も間違いなく強いだろう。あの大きさ、あの筋肉、あのメイス。ぶっ叩かれたら、鎧の上からだろうが、盾の上からだろうが、生命いのちは持ってかれる。

 しかし、フィート男爵なら遠くから魔法を放てばそれで終わり。それこそ王の生命が持ってかれる。



 彼等はまだフィート男爵が死んだ事を知らない。だからフィート男爵の致命的な弱点を是が非でも欲しいのだ。

 そしてその弱点として、ゴブリン達に示されたのがヒカリなのだった。



「その女が、例の女か? 」


「決まってるだろ? 俺は女を縛る趣味はないんだよ」



 王は改めて視線をヒカリに移す。じっと見つめてくる。



「なるほど特殊だ。これは見たことないな」



 王は多分ヒカリのオーラを見ることが出来たんだ。勿論、僕と同じ見え方をしているとは限らない。だがそれで充分わかったのだ。



「イイだろう。持って来いっ! 」



 玉座の横に控えていたゴブリンシャーマンが一旦下がる。



「でだ、その女の使い方を詳しく教えろ」



「フィート男爵が急にあんたらに連戦連勝、これは何かあると思ってすぐ調べた。何か強力な魔法具でも手に入れたのか、とね」


 メナスは一息つく。


「すると勝ち始める一月ひとつき前にある奴隷を買っていた。奴隷を使うのが嫌いなひ弱な錬金術師様がな」



 ゴブリンシャーマンはまだ出て来ない。



「手に入れた奴隷というのが、わざわざ北の方から取り寄せた、それもかなりの額で。奴隷商を探し出し、北の地の噂話を確めた」


「うむ」


「まだなのかい? 『海神の紅い実』は」


 王はニヤリとして答える。


「わしらの国の宝なんじゃ、大事に扱ってるからな」



 メナスは沈黙で返す。


「取りに行かせたのは本当だ! 」



「まあ、いい」


 メナスは話を再開する。


「ヴァンパイアに襲われた修道女が、教会を騙して、逃げた先で産んだ子供がいる。いわゆるヴァンパイアハーフで、強力な魔力を内に秘めた子供で、襲ったヴァンパイアが貴族クラスの強力な魔人であった事と、修道女も魔力の素質があったのかも知れん」



 メナスは再度ヒカリを軽く前に押す。後ろ手に縄で縛られているヒカリはよろめいて膝をつく。




「ひ弱な錬金術師様は、この女の、この処女の生き血を自分の錬金術に組み込んだんだ」









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