2、伝説への助走
タイトルを少し変更しました。
これからもよろしくお願いいたします。
「お久しぶりです。ヒカリさん……でよろしかったですかね、お名前は? 」
「あの時は名乗ってなかったのによくご存知で、クレメンスさん……だったかしら? 」
戸口に立っていたのは、隻眼で暗い朱色の鎧を身につけた大男だった。
そう交易都市カラハタスで出会った『朱殷の鎧』の隊長クレメンス。いや、朱殷の鎧を装ったブラッドムーンの配下。
「クレメンスって言うのは、本物の朱殷の鎧の隊長でして、私は隻眼が一緒なだけのただの傭兵です」
傭兵にしては物凄く上品な佇まいをしながら、偽クレメンスは優雅に一礼する。
「こんなところに来て何の用かしら? 」
「そちらの黒猫さんと御一緒に私の雇い主とお会いしていただきたい」
偽クレメンスの雇い主って事はブラッドムーンって事になるのかな? て言うか、もう僕の事は色んな人にバレバレなのか?
視線を朱殷の鎧の一団の方に向けると、中に一人だけ黒いボロボロの外套を羽織った男がいる。朱殷の鎧を着た男達は少し明るい赤色の綺麗なマントを着ていて、その中にひとりだけいる黒く薄汚れた外套が目立っていた。
ブラッドムーンだ、間違いない。
偽クレメンスは右手の掌を見せて、ブラッドムーンへ向けて差し向ける。
行った事はないし、された事もないが、一流ホテルのコンシェルジュが案内を始めたかのよう。
ヒカリは臆する事なく、案内されるままに近付いていく。
「ヒカリさん、こんにちは。元気にしてたかい? 」
「ブラッドムーンも元気にしてますか? 」
ブラッドムーンは首を振る。
「それは通り名みたいなもんでね。俺の名はメナス」
そう言って手を伸ばし、握手を求めてくる。
「メナスは強そうだし、怖そうだし……」
と言って、ヒカリは笑顔を見せて、握手を拒否する。
「そうかい? 僕の方こそ手を焼きそうだ」
メナスは僕の方に目を向ける。
「ヒカリ達を雇いたいんだが、どうだろう? 」
義賊と呼ばれる帝国一の犯罪者が誘いをかけてくる。こいつは何を考えている? ヒカリを、僕をどうすると言うんだ?
ヒカリを取り込む気に違いない。それ以外考えられない。
「仕事と報酬によるわ 」
「報酬は……そうだなぁ……金貨400枚。前金でもいいよ」
「ふふ、素敵な金額ね」
待て待て、報酬なんかより依頼内容だろ!
「ここにまで、あたしを探しに来たってわけではないでしょ。狙いの場所はコンプリケート諸島ね」
ん? 海賊ゴブリンどもの塒が狙いなのか?
「ヒカリは何しに行くつもりだった? 」
「気に入らない奴等だから、船を燃やすか、食糧を燃やすか、まだ決めてないんだけど」
話過ぎだ、ヒカリ。こいつらの目的なんてわからないんだぞ!
ヒカリ自身を取り込むつもりなんだ、きっとそうだ。
「優しいね、ヒカリは。あの時も何も考えずに行動してたのかな? 」
「あたしは好きか嫌いか、気に入るか気に入らないか、で生きてる、生きてくって決めてるのよね」
メナスは、ほう、と頷く。それからニヤリとして切り出す。
「なら、俺の仕事はぴったりだと思うよ。海賊ゴブリンどもにお灸を据えてやるんだから」
ヒカリも笑顔を崩さず、驚く事もなく、その小さな姿に合わないような妖艶さを見せる。
こいつら二人とも狂っている。
「実は前々から準備を進めていたんだが、海賊ゴブリンの王と交渉する用意が出来てるんだ」
「はっ、交渉? 」
「怒るなよ、ま、聞けよ。王が持ってるお宝を買いに行くんだ」
ヒカリは少しだけ視線を右上に向けた後、
「王はメナスの金だけが欲しい、そしてメナスは王のお宝だけが欲しい、そう言う事? 」
山賊と海賊が商売をする、お互いを騙して自分だけ儲かろうと。そう言う事か……。
「頭のイイ奴は信用できる」
メナスはヒカリに合格点を与えた教師がごとく言葉を置く。
話はわかった。後はその中で僕達が何をするのか、何をして目的を果たすのか、だ。
「王は化け物らしく、普通のゴブリンの二倍はある大きさで、膂力は10倍以上、身体強化の魔力を使うらしい」
メナスは周囲の朱殷の鎧達を見渡して、
「彼等はかなりの腕前の傭兵達だ。だが、敵の本拠地の真ん中で、ゴブリンの精鋭が揃う中で、王を直接殺るのは難しい」
メナスは一息ついて、何故か声を潜めて話す。
「そこで君達の出番ってわけさ」
「君達は王に一撃を与える。俺達は王のお宝を奪う」
「何か策があるのね? 」
「もちろんさ。当然、殺してしまっても構わない」




