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6、最純の少年

 戦場を離れると、視線を感じなくなった。気のせいだったか?



 男爵の屋敷には何事もなく着いた。男爵は研究室と呼ばれている部屋に運ばれていく。くっついて行こうとすると、扉の前で断られ、屋敷の周りを警戒して下さいと言われる。では、部屋の前で警戒するのはと食い下がるが、男爵が特殊な魔法を使うので側にいられると困りますと、これまたはっきり言われる。


 当然、そこまで言われると部屋の前で様子をうかがう事は出来ない。だが魔力=生命力を回復させるに違いない。そこが一番知りたいところなので、どうすればいいかを考える。

 屋敷を出て、研究室の窓を確認。ヒカリが登ればバレそうだが、猫の僕ならいけるだろう。


「ヒカリ、僕が合図したら乗り込んで。とりあえず僕が様子見るから」


「そこはクロに任せる。中に入ってた方がいい? 」


 念話テレパシーは相手を視認できるくらいでないと使えない為、中に入るのは却下だ。


「外で。とにかく合図を確認したら急いで」


 そう言うと、壁の凹凸を利用して、研究室の窓まで登っていく。ヒカリはすぐ中に入れるように通用口の前に移動している。窓の側からヒカリに念話テレパシーを使ってみる。


『聞こえるね? 』


『感度良好! 』


 念話テレパシーにも声の大小・調子みたいなのがある。口は使ってないし、耳も使ってないが、どんな風に話してるかは、会話する以上に伝わってくる。ヒカリのそれは明るく緊張感がない。



 窓から中を覗く。座れる程に回復したらしいフィート男爵は魔術的な意匠が凝らされたナイフを手にしている。疲れた表情に鋭い眼光、視線の先には赤地に金糸で刺繍が施された絨毯がある。描かれているのは、帝国旗と違い炎ではなく、図形が描かれている。ただ既存のよく見るような魔方陣には見えない。円が描かれておらず、上下左右非対称。だが、ただの模様には思えない。これが男爵が新しく発見した魔法、いや、錬金術か?


 あくまでも僕の研究・理論からになるが、魔方陣そのものに何か力があるわけではない。何故なら、ひとつの同じ魔方陣を使っても、魔法を行使した人が違えば現れる結果が違うからだ。それは威力が違うとかのレベルではない。

 例えば、ある人は火の壁ができる、ある人は火の玉ができる、ある人は回復魔法ができると言った具合。そもそも同じ魔方陣を使えない事も多い。

 では魔方陣とは何か? それは魔法のイメージを簡単にする為のもの。魔法の結果のイメージではなく魔法を脳内で作り上げていく時のイメージだ。そしてその脳内イメージは人によって違うので、正しい魔方陣なんてないのだ。



「皆さん、大変申し訳ないです。皆さんには民衆の為に、正義の為に、働いていただきたい」


 フィート男爵の声が響いてくる。


「働く、真面目に働く! 」


「オレの方が働くよ、だから外してくれ! 」


「何するの? 縄ほどいて」


 子供達の必死な叫びと泣き声が聞こえて来る。二人の衛兵が少年達をつなぐ縄をしっかり握っている。


「揃いましたね。――皆さんは選ばれたのです。この街を、この世界を救う為に」


「がんばるよ」


「働きます」


 男爵は微笑んで頷く。


「私と一緒に戦ってくれますか? 」


「たたかう」


「戦います」


「はい! 」


 男爵は立ち上がり、絨毯の中央まで進んだ。


「皆さんのおかげでこの街は救われます。私は皆さんを忘れない」


 男爵の身体が淡く光る。何か魔法を唱え初める。



「唯一にして絶対である神ウーヌス様、この者達と契約しました。我々のちからとして、我々の炎として、ウーヌス様と共にあると」


 唱え終わると、男爵は縛られた少年をひとり、左手で正面に引き寄せる、そして右手のナイフを頭上に掲げる。


「ひっ、何でもするよ、な、何でも……」


「ありがとう。君の命は大切な炎に、神の炎になるんだ」


 男爵は疲れた顔のまま、笑顔を見せ、右手のナイフをしっかりと握る。


「待って! か、神の炎になるんなら、わ、私がなる」


 茶髪の男の子だった。あの時、助けてと言っていたあの男の子だった。彼は手を握り震わせながら声をあげた。顔は蒼白で、でも瞳にはちからがあった。

 男爵はナイフを下ろし、先程引き寄せた少年を後ろへ押す。押された少年は数歩下がったところで尻餅をつく。


「私も待っていたよ、真の炎になる存在を。君がいればきっと神の炎は間違いなくその姿をそのままに顕現される事だろう」


「死にたくなかった。でも、とうちゃんとかあちゃんが死んだのはアイツらゴブリン達のせい。だから……」


 茶髪の男の子は途中から涙を滲ませながら、覚悟を告げる。その姿には馬車の時に口をパクパクさせていた印象は感じられない。彼は命をかけてゴブリンへの復讐をするのだ。



『ヒカリ、急いで! ヒカリ? 』


 僕の念話テレパシーに返答がない。通用口にヒカリがいない。






 

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