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7、最恐最甘な『正義の味方』

 激しい音が響く。扉を何かでぶち破ろうとしている。扉が打ち付けられる度に破損していく。

 部屋に居た二人の衛兵が身構える中、扉が壊される。ゴトンとハンマーを落としただろう音がして、ヒカリが現れる。彼女はいつもどこからかハンマーを用意するな。


「入ってきてもらっては困るね。今から特殊な魔法を使うんだ」


 ヒカリは何も答えず、刀を手にゆっくり進む。槍を突き出し止めようとする衛兵達。その二人の槍を握る手をそれぞれ切りつける。切りつけた後、すぐさま蹴りつけ二人を転がす。


「待て! ゴブリンどもを止め……」


 フィート男爵は最後まで話せなかった。ヒカリは男爵の言葉を聞く気がなかったのだ。

 頸動脈を切り、返す刀で口を切り裂く。何か話そうとするも言葉にならず、止めに喉に刀を突き刺す。


「ごめんね。あたし、正義の味方なの」


 ヒカリは少しだけ微笑むと、茶髪の男の子に話しかける。


「名前は? 」


「グラス」


 返事を聞きながら、ヒカリは刀を引き抜き、引き抜くと同時に何が何だかわからず呆然としている衛兵二人の首を狙う。一人目の首を刺し、二人目の逃げ出す後ろ姿の膝裏を刺し、さらに首を掻き切る。

 ヒカリはグラスに背を向けたまま話始める。


「グラス、君が死ぬのは勝手だよ。ゴブリン殺す為に男爵が殺してきた人達が君と同じ意見ならそれも別にいいさ。でも内緒でこんな事してたのは何でなの? 死にたくない人を殺してきたからじゃないの? 約半年で何十人何百人必要だったのかな? 」


 ヒカリは血の着いた刀を布で拭いている。そして窓へ歩いてくる。振り返りグラスを見つめる。


「……わかんない」


「考えときな、何が正しいのか」


 ヒカリは廊下からの足音に気付いていたようで、窓を開けて身をひるがえす。


 一回転して地面に降り立つ。


「クロ、逃げようか? 」


 笑いながら僕に声をかける。ヒカリには迷いがない。僕にはあそこまで出来ないかも知れない。男爵のやり方は違うと思う。止めに入ったと思う。いや実際、止める為にヒカリに声をかけた。だがブレずに殺せたか? 意見を聞かずに躊躇なくやれたか?


 少年にあんな言葉をかけたか?


 僕の考える『正義の味方』として間違ってない。ただ僕が思い描いていたのは、正義の心を熱く燃やす存在に、正義をなすためには容赦はいらない、どんな方法でもいいから迷いなくやれ、と導いていく……そんな流れだった。


 まるで逆のような気がする。ヒカリに教えられているというか、彼女に見せつけられているというか……。


 僕達は逃走を続けている。まぁ、追っ手は見かけないけど。油断は禁物、いかにヒカリが強いといえど大人数に囲まれたら……てか強くなってる?


「ねぇ、ヒカリ? 」


「なに? 」


「なんか身体の変化とか、ある? 」


 ヒカリは少し走るスピードを落として答える。


「耳が良くなった気がする。さっき通用口で屋敷の中を少しでも知ろうと耳を澄ましたら、男爵の研究室の中の会話が聴こえた」


 なるほど。あのタイミングの良さはそういう事か……。毎回確実に敵を倒して、止めを刺して、命を奪った結果、ヒカリの能力は上がったんだ。能力の上がり方がおかしいのは、この()()()()世界ならではだ。


「今の感じでじっくりとやって行けば、本当に強くなれるよ」


「クロ、こんだけ逃げれは大丈夫じゃない?」


 僕の言葉に対する反応が薄い。いや、いいけどさ。


「夜営場所を探そうか? 警戒しておけば大丈夫だろうから」


 ヒカリは走るのを止めて歩き出す。僕も速度を落とし安全そうな場所を探す。

 少し歩くと、良さそうな場所がある。大きな岩が3つあり身を隠して小休止程度なら問題ないと思われた。


 ヒカリがここまで順調に成長しているのは、僕がこの世界の真理のひとつを教えたからだ。強くならねば、生き残らなければ、命を奪わなければ駄目なんだ。

 正義の味方は、甘ちゃんではやっていけない。


「う~ん、一度カラハタスに戻って報酬をいただくかな? どう言えばいいかな? 」


 ヒカリは座って瞼を閉じていた。眠りにつくのが異常に早い気がする。少しの物音でも目を覚ますから問題ないタイプだけどさ。




 翌朝、静かに目を覚ます。ヒカリは既に起きていて、相変わらず毎朝日課の謎体操を踊っている。


「おはよう、クロ」


「ああ、おはよう」


 まだ寝惚けているな、頭がしっかり働いてない気がする。


「海賊ゴブリン達のねぐらってどこか知ってる? 」


「えっと、コンプリケート諸島だったかな? 港町バトゥラから船でそんなに離れてはいないよ」


「船の見た感じ、現代の地球には遠く及びそうにないもんね」


「そうだね」




「じゃあ、乗り込みますか! 」


「え? 」


「だから行こうか! 」


「何しに? 」


「悪者を懲らしめに」


 ヒカリは笑ってる。

 美しい黒髪を風になびかせ、大きな黒い瞳を輝かせて続ける。



「だって、『正義の味方』、でしょ? 」








数日のお休みをいただきます。

よろしかったら、ご意見ご感想をお願いいたします。

返事は書けませんが、必ず読ませていただきます。

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