12、赤地金炎、緑腕勝鬨
革袋それぞれに入っていた金貨に角砂糖の数は、50ずつ。かなりの額になる。帝国の庶民の年収が稼げる奴で金貨20枚だし。
いやいや、そんな問題じゃない。
「『朱殷の鎧』は馬車で来てた奴らか? 」
「そ、そうだよ。え、聞いてないの? 」
ツヴァイは困惑気味だが、僕の方が困惑している。
「隻眼の大男が革袋を持ってきた。笑いながら『朱殷の鎧』に化けて盗ってきたって。ブラッドムーンは皆さんの味方だって」
「味方? 」
ブラッドムーンの予告状を利用して、ナパート族の力を借りて、ヒカリと一緒にカイン伯爵とベルナルドゥスを討ち取って、やっとやっと緑夜空石を手にしたのに……。
「利用したつもりが、利用されたって、くっ、くくっ」
「笑うな」
ヒカリは気にならないらしい。
「ブラッドムーンて盗賊団なの? 」
「わからん。でも、隻眼なんて噂は聞いた事ないし、イーヤムで出会ったあの男が持っていた剣とその腕前はブラッドムーンの噂と重なるから……」
「まあ、いいじゃない。目標は二つとも達成出来たんだから、胸を張りなよ」
そうだ、早く渡してあげなくては。
「ツヴァイ! 」
「あいっ! 」
「ナパート族の代表として、緑夜空石を受け取ってくれ」
ヒカリが革袋から緑夜空石を出して、みんなに見えるよう上に高く掲げてから渡す。
それは彼らにとって紛れもなく、神の第三の眼。ナパート族の始祖、始まりのゴブリン、と彼らの中で言い伝えられている『シィヴァ』の額にあった眼だ。
すすり泣きの声が聴こえてくる。僕にはわからないが、死んだ仲間の持ち物、それも大切にしていた物が出てきたなら、やっぱり泣くだろうか。
みんなの喜ぶ姿を見たら、ブラッドムーンに踊らされた事もどうでも良くなる。大事な宝石は取り戻せたし、奴隷を虫けらとして扱うカイン伯を血祭りにあげれた。
ブラッドムーンが運び出したお金と砂糖は大量だろう。もちろん、これでプリームス帝国が崩れさる何て事はない。ただカイン伯程、業突く張りな貴族はそういない。今日のところはこれでよし……としよう。
ツヴァイがみんなに呼び掛けて、勝鬨を上げる。緑色の拳を掲げて。
僕はヒカリに注意しておく。
「貴族は魔法使えるんだから、気を付けて。カイン伯は弱かったけどさ」
ヒカリは笑顔で返す。
「本当に強い奴は、護衛は置くだろうけど、用心棒を金で雇ったりしないよ。それより……」
「なに?」
「サルカラ食べたい」
◯ ◯ ◯
カラハタスの城壁には、変わらず、赤地に金糸で炎が刺繍された旗がたなびいている。
カイン伯爵家は、国宝扱いの緑夜空石を盗まれた件、ゴブリンの襲撃を許した件、不正蓄財をしていた件等々の罪により、御取り潰しとなる。カイン伯爵領の大部分はスッチーデント公爵領となり、中心都市カラハタスは、初代皇帝の五男で、現皇帝の王弟であり、スッチーデント公爵マクシムス閣下の領地となった。
カイン伯爵家が所有していた奴隷は全て、マクシムスが引き取った。彼はその年の税を全て免除した。さらに次の年からも今までの三分の一にすると発表した。これは一般人、つまり奴隷でない人とほぼ変わらない税率だった。
奴隷達の生活は飛躍的に良くなった。そして、奴隷達の約3割を占めていて、最も迫害されていた赤髪のアータル族も絶望的な状況から脱する事が出来た。
クロとヒカリは多くの奴隷の命を救った。
救われた多くの奴隷達は感謝した。
プリームス帝国に、スッチーデント公爵に……
彼らを支配するマクシムス・プリームス・スッチーデントに感謝した。
正義の味方って、そんなものだろう?
これが正しい『正義の味方』ってもんだ。
感謝なんかされなくたっていいのさ。
まだ物語は、復讐は、始まったばかりなのだから。




