1、最凶の魔術師
「魔法の使い方教えてよ」
「ヒカリはどうやったって使えないよ? 」
「魔法使いを殺る為に」
物騒な発言をしているヒカリという名の少女。彼女は僕が召喚した。長く美しい黒髪に、大きな黒い瞳を持った少女。年齢は14か15くらいに見える。
まだ此方に来て間もない。当然の質問とも言える。
ふむ。確かに。魔法使いと闘う為には必要だ。だが、難しい。どう教えたらいいんだろう?
「えーっと、自転車に乗る方法みたいな感じかな」
「どういう事?」
「勢いをつけて、バランスを取る……って感じ、わかる? 」
ヒカリは笑いながら答える。
「わからん! 」
「説明が難しいのさ。魔法をイメージして、自分の中の魔力という流れを点として集めたり、面として集めたり、それから放出する。自分の中に魔力を残しながら」
ヒカリは今度は苦笑して訊いてくる。
「自転車漕ぐのが魔力量、イメージがバランスの取り方……そんな感じ? 」
「うーん、そんな感じかな、上手く説明できん」
ヒカリは諦めた表情でさらに尋ねる。
「じゃあ、隙はどこにある? 呪文唱えたり、手で印を結んだり」
「上手い奴じゃないと、発動に時間がかかる。でも特には呪文とかいらないよ。使わないと集中出来なかったり、イメージできない人もいるけど」
「上手い奴の隙は? 」
「魔力切れ」
「他はないの? 」
「魔力が強い奴にありがちなのは……」
「ありがちなのは? 」
「魔力量のコントロール。力をぶっぱなすのは誰でも出来るけど、弱い出力をコントロールするのは技術がいるね」
数値化出来れば、説明は簡単。例えば、魔力量3の人が3の魔法を使うのは簡単で、魔力量100の人が3の魔法を使うのは難しい。加減するのが難しいのだ。
ゲームのように数字で表記されるわけじゃない。これを感覚的に行わないといけないのだ。
昔の僕は、偉大な霊獣であった頃の僕は、有り余る力を制御するのに本当に苦労した。
「やっぱり後ろから刺すのが一番みたいね」
ヒカリは笑顔で結論を出した。
僕達はカラハタスから南へ街道を下っている。依頼を受けたのだ。かなりの額をいただいた。前金で金貨50枚。鳶色の瞳に、金色の髪を持つグレゴリウスが今回の依頼の口利きだ。彼は前回のカイン伯の事件の時に、ヒカリのヒントを元にして角砂糖を買い込み、かなりの利益を出せたらしい。カイン伯に取り次いでくれた事のお礼をしに雨夜亭に行ったら、逆に歓迎された。
依頼の内容は、プリームス帝国の南部、港町バトゥラにいる最凶の魔術師を調べてくること。
帝国南部では、海賊行為を繰り返すゴブリンの一族が脅威となっていた。そのゴブリンとの争いは長く、帝国建立より続いている。ところが今年に入り、帝国側が連戦連勝していて、その中心にいるのがフィート男爵だ。彼の二つ名が最凶の魔術師。
もちろん帝国としては、ゴブリンを蹴散らしてくれるのは嬉しい。だが彼の余りの魔法の腕前に、魔族が彼に入れ代わっているのではという噂が出てきたのだ。
調べてくるだけで依頼はOK。この話をヒカリは雨夜亭で聞いたわけだが、グレゴリウスの使いで来たパックはこう言った。
「ヒカリさんはいい仕事をしてくれるって言ってましたよ」
「そう? ブラッドムーンは取り逃がしたよ? 」
「報償金より儲けが出ましたから」
ヒカリは角砂糖を摘まみながら話を聞いている。もちろん店の、グレゴリウスの奢りだ。
「グレゴリウスさんの話では、もし魔族なら殺してもいい。その場合は追加の報酬もあるそうです」
ヒカリはサルカラをさらにひとつ口にしながら、その話を聞いていた。そして僕に相談せず、笑顔で依頼を受けてしまった。
ヒカリは後で僕にこう言った。
「おもしろそうじゃない? 」
もうすぐ港町バトゥラに着くという辺りまで来ている。
「魔族だと思う? 」
「違うと思うよ」
「なんで? 」
「姿を一時的に変える事は魔法で出来るかも知れないけど、人間の振りを続けるのはまず無理だ」
そんな会話をしていると、道の先を馬車が走っている。馬車の中には子供達が詰め込まれるように乗っていた。
馬車の一番後ろに座っていた茶髪の男の子がこちらを見ている。どこか寂しげで、馬に乗って旅をしているヒカリを羨ましそうにもしている。
「あの子達は何かな? 」
「奴隷かな? 」
「赤髪じゃないよ? 」
「アータル族だけじゃないさ。帝国はいくつもの国を滅ぼしてるし、貧しくて売りに出されるって事もある。この子達は違うだろうけど、犯罪人も奴隷にされる事がある」
近付く僕達に、茶髪の男の子が声は出さないように、口だけを動かして何かを伝えてくる。
「クロ、あの子が何て言ってるかわかる? 」
僕は少し考えてから、
「わからない」
と答える。
ヒカリは僕を睨みながら言った。
「たすけて、死にたくないって、言ってるんだよ」
わかってるでしょ? という口調だ。確かにわかってたけどね。わかってたから言いたくなかったんだ。僕が答えずにいると、ヒカリは笑顔で、今度は僕を困らせるように言った。
「助ける事にしよう! 」
あ~、そんなの『正義の味方』じゃないよ。
最近、僕とヒカリの関係性というか、僕自身のキャラがぶれているというか、――もう少ししっかり教え育てていく師匠というか、頼られる先輩というか、そんな風に成りたかったのに……。




