ティルフィーネ・エヴァ・バケンティアの奮闘記 3
キュリエ・クリステッド嬢は南の辺境地フェニシオラを治めるクリステッド辺境伯の9番目の子供だった。
歳はティルフィーネと同じ17歳。現在の辺境伯爵は婿入りで、南大陸からの侵略戦争の際に数々の功績を残した結果、キュリエの母である辺境伯令嬢を娶り、フェニシオラを建て直したという王家からも一目置かれた偉大な人らしい。
一族の殆どを戦争で失った為、血筋を増やすために尽力した結果、生まれた子供は13人。ドン引きしないでほしいのだが、愛人だとか妾だとかに産ませた子ではない。全員辺境伯夫妻のお子である。
その9番目に生まれたキュリエ嬢は、父親譲りの白金の髪に、紫水晶の瞳を持った、物語に出てくるような正統派美少女だった。
柔らかな微笑、控えめでお淑やかな性格。未来の王子妃にふさわしい知性と社交術。
クラウスと並ぶと美しすぎて目が潰れると評判で、その様子を目の当たりにしたティルフィーネが、学院の裏庭で嘆いても仕方なかった。
「クラウス様に婚約者がいるだなんて聞いてないですわぁああああああ!」
だってティルフィーネは、この初恋を叶えるために今まで頑張ってきたのだから。
苦しい治療、投薬。家族と離れて暮らす孤独も、いつか愛しいクラウスの隣に立つためだと思えばこそである。その目標が無ければとても耐えられなかった。
まさか知らない間に、クラウスに婚約者ができているなんて思わない。
ティルフィーネに寄り添う者であるなら、口をそろえて言うだろう。クラウスは有罪である。
なお、彼女の両親や兄姉達は無罪である。
幼い頃にクラウスに恋心を抱いていたのは把握していても、虚弱だったティルフィーネがクラウスに思いを寄せていて、王子妃になりたいと夢見ていたとは思わなかったのだ。
一緒に暮らしていれば察せたかもしれないが、それにしては離れて暮らすのが長すぎた。
「いや、まだ分からない。分からないですわ。だって幼い頃、結婚の約束をクラウス様はしてくださいましたもの」
ティルフィーネは涙を拭きながらそう言った。まだ悪あがきをしたかった。
彼女の名誉のために補足するが、ティルフィーネは婚約者のいる男性に不用意に近づく尻軽馬鹿娘でも、浅ましい恥知らずでもない。
ただ、10年拗らせた初恋を叶えたいという純粋な想い(という名の意地)が引っ込まない、うら若き乙女である。
それに、果たしてキュリエは王子妃にふさわしい人物なのだろうかという想いもある。
もしも、王子妃として不適格な令嬢であるなら、今からでもティルフィーネが有能であると見せつければ、ワンチャンあるかもしれないと思うのは若さ故であると許していただきたい。
だって17歳だもん。
そんな折、ティルフィーネ嬢のもとにお茶会の招待状が届いた。
差出人は12公爵家が一つ、泉の精霊鳥を始祖にもつハーヴェント公爵家のご令嬢アヴェリナ・ハーヴェントだった。




