48、リノベーション
日本基地の庭、季節は梅雨に入り、曇った空は今にも降り出しそう。
目前にある家庭用ショベルカーは軽油を満タンにしている。
そのユンボを前にして僕はマジックボックスの取っ手を右手でつかみ、手前に持ち上げた
僕はユンボに意識を集中し、手前に差し出すようにしている黒いトランクに収納することを思い浮かべた。
すると、ユンボがボンヤリと光り出して輪郭がおぼろげになり、スーッとマジックボックスに吸い込まれた。
掲げているマジックボックスの重さは変わらない。
それを両手で目の前に持ってきて中に意識を向けると、収納されている物体のイメージが頭に浮かぶ。
やったー、成功だ。日本でもマジックボックスを使うことができたのだ。
魔法関連は異世界だけで、日本においては発動しないかと心配していたが、問題なく使うことができる。
ということは、スザンヌのヒーリング能力やクリスのサーチ能力も日本で使うことができるかもしれない。
*
スザンヌの家に転送し、マジックボックスからユンボを取り出す。
それを使って地面に穴を開けているのを見て、スザンヌ達は目を丸くしていた。
トイレの便器は洋式で水洗式だったが、汚水はそのまま川に流していた。これからは浄化槽を使うことによって排水を処理する。
その配管工事は苦労したが、畑山さんからレクチャーを受けたし、井上から奪った工事スキルもあったので、無事に工事は終了した。
浄化槽は定期点検が必要だが、その方法も畑山さんから教えてもらっている。
僕のアルバイトのシフトは金曜から月曜までの勤務で、火曜から木曜の3日間は休み。
その3日間、リノベーションに注力していた。
給湯器を設置して、お湯の配管を風呂と台所に回す。その燃料である灯油のタンクは二百リットルの大型タイプで。それはコンクリートの土台に置いた。
風呂にはシャワーも追加したので、これからは冬の入浴も快適になるというもの。
電気製品が多くなったので、発電設備も考えないとダメだよね。
タンクに灯油を入れて、台所の蛇口をひねるとお湯が出た。
「うわー! すごいです。トウヤさん」
スザンヌが驚く。
これで冬場の炊事も楽になるはずだ。
給湯器の操作パネルは日本語の説明文なのでスザンヌ達は読むことができない。それで、僕が説明したことをスザンヌが異世界の言葉で紙に書き、パネルの側に貼っておいた。
夕食後、クリス達は風呂に入る。
「このシャワーって言うやつ気持ちいい!」
クリスが嬌声を上げる。
この異世界にはシャワーという設備は存在しないし、給湯器もない。ただ、お金持ちは魔法石で水をお湯に変え、風呂で使用しているという。
お湯の状態を確認するため、風呂場の前に行った。
「おーい! お湯は、きちんと出ている?」
聞くと、ドアが開いて裸のクリスが上半身を乗り出してきた。
「なーに、お兄ちゃん?」
去年よりも胸が膨らんできている。
「クリス! 開けちゃダメ」
スザンヌの黄色い声が風呂場に響く。
慌てて僕は居間に下がった。
「どうして? いつもお姉ちゃんは裸を見せているんじゃないの?」
「見せてません!」
バタンとドアが閉まり、風呂場の会話が小さく聞こえてくる。
「それで……、お湯の方は大丈夫かなあ」
「はい、きちんとお湯が出てますよ、大丈夫ですから、トウヤさん」
スザンヌの焦ったような声。
僕の心臓の鼓動は早くなり、顔からは汗が噴き出していた。
*
いよいよスザンヌの借金を返すことに決めた。
今は六千万ペセタあるので、そのうちから五千万を使っても一千万ペセタが余る。何か問題が発生しても十分に対処できる金額だ。
僕達は3輪バギーで町に行き、リヤカーを引いてギルドに向かう。
商業ギルドのカウンターで多額借金返済の申し込みをすると、応接室に通された。
「しかし、困りますなあ……」
対応に出た老人は苦笑いで言った。
「こんな多額の借金を放置して行方不明になってしまうなど、貸した人間に対する裏切りですよ」
そう言って老人は極度に少なくなった髪をなでる。
「申し訳ありません……」
スザンヌがうつむいて,つぶやくように答えた。
借金を作ったのは両親で、彼女が悪いわけではないのだが、娘として返済しなければならいという義務感がある。
「まあ、とにかく、借入金を返していただきましょうか」
「は、はい……」
スザンヌは金貨が入った布袋をテーブルに置く。そして、僕が持っていた袋をその隣に置いた。
全部で大金貨が500枚だ。大金貨は一オンス金貨で、1枚が10万ペセタになる。合計で5,000万ペセタとなり、これで借金が帳消しになるはずだ。
異世界でも借金には金利が発生する。しかし、日本と違い、金利は定額で、借入期間に応じて増えるというものではない。
老人は袋を開いて金貨を確認する。
そんなに大量の金貨を見たことは少ないのだろう。丸い顔が少し歪んでいた。
「ちょっと確認してもよろしいですか」
「はい」
老人は二つの袋を重そうに持って、奥の部屋に入っていく。
大丈夫かなあ。金額が金額だから持ち逃げしたりして……。
僕の心配をよそに老人は1枚の紙を持って戻ってきた。
「はい、金貨を確認しました。全部で5,000万ペセタあったので借金の返済に充てました」
老人は証書らしき紙をスザンヌの前に差し出す。
スザンヌは震える手で証書を持った。
「ありがとうございます」
横から覗くと、それには、きちんと借金を返済したという旨が書いてある。
「あなたの両親の指名手配書がギルドに回っていましたが、それも抹消されました」
「ありがとうございます」
スザンヌの声が震えていた。
それを知れば彼女の両親も帰ってくるだろう。
全国に散らばるギルドでは、遠感の魔法石という通信用の魔石を使って為替処理をしていた。遠くの商業ギルドに登録された借金の情報をこちらのギルドで支払うことにより決済処理することができるらしい。
僕達は部屋を出て、イスが並んでいる休憩室に入った。
その片隅に座る。
スザンヌは肩をふるわせて、涙を流していた。それほど借金のことを重荷に感じていたのだろう。
「良かったね、スザンヌ……」
「はい、全部、トウヤさんのおかげです」
彼女は僕に寄りかかってきた。肩に掛けている革製のバッグには証書が入っている。
「ありがとうございます。トウヤさん……」
スザンヌは僕の右腕を抱きしめた。彼女の豊満な胸が、これでもか、というくらいに押しつけられている。
女の子に心から感謝されるというのも、悪いものではないな。これが男冥利に尽きるというものなのか。女を喜ばせ、それを見て男が喜ぶ。これが男と女の真の関係なのかもしれない。
*
スザンヌの家に帰り、僕は自室でベッドに座って本を読んでいた。
「トウヤさん」
ノックと共にスザンヌの声がした。
「どうぞ」
僕が言うと、ドアが開いてスザンヌが入ってきた。白いバスローブ姿だった。
「お邪魔しますね」
いたずらっぽく笑いながら彼女は、僕の前に立つ。
僕は本をサイドテーブルの上に置いて彼女に視線を固定した。
「トウヤさん。今日は、いつもお世話になっているトウヤさんに、おもてなしの第二弾ですよ」
そう言ってバスローブを開く。
桃色の肢体が僕の目の前に現れた。全裸なの? と思ったが、赤いビキニ姿だった。
それはマイクロビキニで、前にクリスが着て、はしゃいでいた物。
私は女性の大事な部分を隠すという仕事を必死にやっていますが、私にできることはこれが限界です、というビキニの声が聞こえてくるような、目のやり場に困る、布面積が小さい真っ赤な水着だった。
「トウヤさん、前にクリスがこの水着を着ていた姿をじっと見ていたでしょう」
「そうだったかな……」
確かに見ていた。その水着は成熟した豊満なボディを持つ女性が着るのが定番だが、クリスのように未発達な女の子が着ると新鮮な興奮があった。
「トウヤさんがクリスに浮気しないように、しっかりと私を目に焼き付けてください」
彼女はグイッと近づいてきた。
まさに豊満と言うべき体。トップが胸に食い込んでいる。
ここはどこで僕は誰? 何なの、この状況? 僕のアイデンティティが崩壊してきた。
「どうですか?」
バスローブが床に落ちる。意地悪そうな笑顔。前屈みになったので胸の大きさが強調されていた。
「ああ、ああ、えーと……」
「もう、トウヤさん。しっかりと見てくださーい」
そう言って胸を挟むように両腕を前に出す。
「ああ、はい、分かりました」
僕は音声命令に従うロボットのように機械的な返事をして、彼女を見ながら後ろに回った。
ボトムはTバックだったので、お尻が丸見え。
「キャー! 後ろは見ないでぇ」
手を後ろに回して彼女が僕に向き直る。
「もうー、トウヤさんのエッチ」
「そう言われましても……」
今、僕は何をしているのか分からない。
「ところで、クリスはどこにいるの?」
こんな時は、いつもクリスが出現するのが定番なのだが
「大丈夫ですよ、トウヤさん。クリスは薬草を取りに行かせてます」
そう言ってウィンクする。
「じゃあ、おもてなしのラストです」
首の後ろに手が回り、僕の顔面はぐいーっと胸の谷間に押しつけられた。
フニョンとした感触に頭が挟み込まれた。口に水着のヒモが食い込み、トップに僕が食いついている状態になる。
「ちょっと、ちょっと、スザンヌ」
柔らかい体を押しのけると、水着が外れて上半身があらわになった。
「イヤー!」
両腕を組んで胸を隠す。
それを僕は口にブラをくわえたままで見ているという構図。
ここは天国だったのか。いつ僕は死んだのだろう。
まあ、いいか。




