20,資本主義
「商売してはいけないというのは、どういうことでしょう?」
スザンヌが女職員に聞く。
「あ、いえ、商売をしてはダメということではないんですよ。ただ、あなたは砂糖を売っていますよね。それをやめて欲しいのです」
職員が苦笑いを浮かべて言った。
「は、はい……」
「スザンヌさんの砂糖は破格な値段で売られています。それを買い占めて転売する人がいるんですよ。商売は自由ですが、サヤ取りのような方法をギルドは嫌うのです」
そうか、異世界にも転売ヤーがいるのか。異世界人でも日本人でも考えることは一緒だな。
「ですから、そちらの砂糖はギルドで全て買い取らせて頂きます。一ビンが1万ペセタでしたよね。これから、砂糖は当方に全て納入していただけますか」
スザンヌは困ったように僕を見た。
「うーん、ギルドでも民間でも、こちらの値段で買ってくれれば問題ないかな……」
僕が言うとスザンヌは小さくうなずく。
一括で納入した方が露店で販売するよりも手間が減る。その方が合理的だ。
「分かりました。これからは僕の砂糖をギルドに納めることにします」
「ありがとうございます」
そう言って職員は頭を下げた。
「でも、納めた砂糖をギルドではどうするんですか」
僕としては当然の疑問。
「はい、それは配給制にします。身分証明書を見せてもらって必要十分な量だけを売るのです」
「はあ、なるほど……」
ギルドも色々と考えているんだなあ。
「ところで、スザンヌさん。この砂糖はどこで仕入れたんでしょうか」
「えーと、それは、商売上の秘密で……」
スザンヌがチラリと僕を見る。
「砂糖の噂が広がっていて、政府が動き出す可能性もあります。そういった意味でもギルドに任せた方が良いと思うんですよ。これからも貴重な物を販売するときは、ギルドを通した方が得策だと思います」
「そうですね……」
スザンヌが小さくうなずく。
そうか、この世界にも政府というものがあったんだな。立憲君主制の国だと聞いていたが、きちんと政治制度は機能しているらしい。
僕の転送能力を政府に探られたらまずいよな。
僕たちはリヤカーを引いてギルドに砂糖を納入した。まあ、これで砂糖販売の手間が少なくなる。
それから、僕たちはギルドの中にある、エナジー買い取りの部屋に行く。
後藤から吸い取ったスキルを売るためだ。
音楽の才能を持っていたままでも良いかもしれない。人前でギターを演奏するのはかっこいいよな。
でも、それは僕が苦労して獲得したスキルではない。体力を吸い取って自分のケガの治療に使うくらいなら良いが、音楽スキルなどを盗んで得意げに自分が演奏するのは気が引ける。
「いらっしゃいませ」
前回と同じ女性職員が、カウンターに進み出た。
エナジーを売りたいと言うと、例の水晶玉を取り出して、カウンターテーブルに置く。
僕は水晶玉の上に手をかざし、後藤のエナジーを玉に移した。
「ああ、これも珍しいスキルですね。今まで見たことがないものです」
水晶玉に手をかざしていた若い女性職員が感嘆の声を漏らす。
「鑑定結果は500万ペセタです。それでどうでしょう」
前と全く同じ値段。それに違和感を覚えた。内容が違うのに金額が同じというのはおかしい。
もしかしたら、これは低めの金額を提示して、それから交渉することによって値段を上げていくというやり方なのかな
「あのう……600万ではどうですか」
おずおずと聞いた。今まで値段交渉などはやったことがない。
相手の職員は眉をひそめる。
「では、550万ということでは?」
「いえ、700万にしたいと思うんですが」
後ろにいたスザンヌが突っ張った。彼女も僕と同じ事を感じていたのか。
「では、600万で手を打ちましょう」
「分かりました、それで売ります」
そう言って振り返るとスザンヌは、少し不満そうな顔。でも、あまり面倒なことをしたくないんだよなあ。
金貨を受け取ってギルドを出る。
こんなに簡単にお金を手に入れて良いものだろうか。でも、日本でも楽をして資産を築いている人もいるよな。資本主義社会では立ち位置によってマネーを得る効率が違ってくるようだ。
酒場兼食堂で夕食を済ませてから町を出る。
町外れに隠してあった3輪バギーにリヤカーを繋いで、スザンヌの家を目指した。
日は沈んでいて、東の空に二つの月が薄く光っている。
帰宅して、自分の部屋に入る。
自分の部屋と呼んでいるが、実際にはスザンヌの個室だ。僕が来るときだけ彼女はクリスの部屋に移ることにしていた。
小さな家なので、部屋数も少ない。何とかしないとなあ。
スザンヌ達が風呂に入るというので、僕は外に出て小川で体を洗う。
風呂といっても、タライにお湯を入れて体を拭くという感じ。僕は川に入り、タオルで汗を流す。今はまだ暑いから良いが、涼しくなったら外で水につかるのは厳しいだろうな。
ゆっくりと体を流し。寝間着を着て家の中に入る。
スザンヌ達はテーブルに着いていた。
「あのさあ、スザンヌ。この家を増築することはできないかなあ」
「増築ですか?」
「うん、今は何かと手狭だから、もう二部屋くらいはあっても良いかなと思うんだけど」
「そうですね……、でも、それだと500万ペセタくらいはかかりますよ。そんなに無理をしなくても……」
「でも、湯船とかもあった方がいいと思うんだ。川の水で体を洗うのも、寒くなってきたらキツいかな」
「では、トウヤさんも家の中で体を洗ったらどうですか?」
「そうだよ、お兄ちゃん。一緒に洗いっこしようよ」
クリスが無邪気に言う。
「あ、いやあ、いくらなんでも、それは……」
「お金は大切にした方がいいと思うんですけど……」
スザンヌの顔が曇っている。そんなにお金を使いたくないのか。まあ、今まで生活に余裕がある方ではなかったからな。
「でも、僕の預金が2000万ペセタくらいになったから、半分くらいは使ってもいいと思うんだよね」
エナジーは想像を超えて高く売れたから。
「まあ、それは、トウヤさんのお金ですから、自由に使っても……」
スザンヌはしぶしぶ承知した。
今度、町の大工さんに頼んで、増築を依頼することに決まった。
スローライフには衣食住を充実させることが必要だよね。




