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084 下らない事ばっか言ってんなよ、用意出来たなら、行くぞ!

 翌日の午前九時頃、二百メートル四方程の広さがある、土に覆われた広場には、千人を超える冒険者達が集まっていた。

 色とりどりの戦闘服姿の者達が多いが、軽装の鎧やローブ姿の者達も混ざっている。


 店が多いので、市場のようにも見えるが、そうではない。

 ここはキュレーター島を象徴する最大のダンジョン、キュレーター・ダンジョンのゲート前広場……ドラゴンヘッド・スクエアである。


 これからダンジョンに入る者達や、ダンジョンから出て来た者達で溢れ返るゲート前広場は、太陽が出ている時間帯は大抵、祭りのように賑わっている。

 広場の周囲には、多数の店が並んでいて、ダンジョンに入る者達には装備などを、出て来た者達には、消耗した身体を癒す、食べ物や飲み物を売っている。


 広場の北側には、この世界には珍しい、巨大な建造物の一つがある。

 キュレーター・ダンジョンの出入口である、ドラゴンヘッドだ。


 広場に向けて口を開けた、巨大なドラゴンの頭のような、灰色の建造物であり、胴体部分は存在しない。

 巨大なドラゴンが、地中から顔を出している感じのデザインなのである。


 高さも幅も五十メートル以上はあるだろう、巨大な口が出入口であり、ゲートとしても機能している。

 ごく希にであるが、ゲートでもある口は、閉じる事があるのだ。


 口の中に入ると、その先にはドラゴンの食道であるかのように、長い下り坂のトンネルが、下に向かって伸びている。

 下りのトンネルを三百メートルも進めば、巨大な地下空洞である、ダンジョンの第一層に辿り着くのである。


 これからダンジョンに入る冒険者達は、ドラゴンヘッド・スクエアのあちこちに、大抵はパーティ単位でたむろっている。

 パーティを組まない、ソロの冒険者達も、ここでは友人や知人達と、共にいる場合が多い。


 今日はソロでは無く、雑魚専仲間のロッドと共に、ダンジョンに入る事にしていた果敢も、ドラゴンヘッドの近くにいた。

 昨夜、果敢は東洋広場でロッドと会った際、今日は一緒にダンジョンに入ろうという話になったのである。


 既にロッドも、ドラゴンヘッド・スクエアに来ている。

 だが、ダンジョンに入る前の、装備の最終確認の際、回復薬を補充し忘れていたのに気付き、周囲にある売店に買いに行ったのだ。


 果敢は黒い戦闘服の一揃いという、冒険者としての普段通りの格好をしている。

 メインの武器は、ベストの背中にセットしてある、鞘に収めた剣だ。


 アウラ・ブレードはアウラ・アーツの中では、かなりレベルが高い技なので、雑魚専の冒険者が使うのは不自然。

 故に、冒険者として活動する時、果敢は普通の剣を使っているのである。


 ちなみに、雑魚専といえど、刀剣などの近接戦闘用の武器にアウラを纏わせ、攻撃力を引き上げる程度の、初歩的なアウラ・アーツは、大抵は使える。

 普通の魔石獣相手であれば、それで戦えるのだ。


 ロッドを待つ果敢の近くを、オリーブ色の戦闘服を着た、大型の黒い銃器を手にした冒険者が、パーティの仲間達と共に、通り過ぎて行く。


「銃使いだ、珍しいな」


 銃器を手にした、女性冒険者を目で追いつつ、果敢は呟く。

 この世界にも、銃器の類の武器は、一応は存在している。


 銃器の類の武器は、魔力やアウラの能力が無くても使えるのだが、アウラや魔力を使った攻撃に比べると、威力が低過ぎる。

 魔族は当然、魔石獣を相手にする場合でも、浅い階層に出現する魔石獣相手にしか、通用しない。


 しかも、銃弾という消耗品を、大量に持ち歩かなければ、まともに戦い続ける事も出来ない。

 時間が過ぎれば回復する、魔力やアウラを使う攻撃に比べると、そういう意味でも不利な為、軍人や冒険者は、殆ど銃器を使わないのである。


 銃器は基本的には、一般人が護身の為に、使う為の武器となっている。

 ただ、中には例外的な、銃器を武器とする軍人や冒険者も、存在している。


 魔術で強力な攻撃力などの効果を付与した、魔弾と呼ばれる銃弾を使う、銃使いがいるのである。

 そういった魔弾を使う銃使いは、遠距離から正確に、敵の弱点に強力な攻撃を叩き込める為、後衛としての能力が高いのだ。


 ただ、魔弾を使う銃使いは少ないので、冒険者としても珍しい存在といえる。

 故に、つい果敢は銃使いを、目で追ってしまったのである。


 そして、銃使いを目で追った先……ドラゴンヘッドの方に、見知った者達がいるのに、果敢は気付いた。

 ダンジョンでの冒険を終えた、三人の女性冒険者達が、ドラゴンヘッドから出て来たのだ。


 名の知れた三人組のパーティなので、その姿を目にした、近くにいる冒険者達が騒めき、パーティの名を口にする。


「シロッコだ」


 ダンジョンから出て来たのは、シロッコの三人だったのだ。

 三人揃って背が高いが、黒髪の女性だけ、他の二人より少しだけ低い。


 数日間、ダンジョンに潜りっ放しになるので、三人は大きいリュックを背負っている。

 ちなみに、戦闘時は邪魔なリュックは放り投げ、戦う場合が多い。


「クルトじゃないか!」


 果敢の存在に気付き、ジュリアが声をかけて来た。

 ジュリアは黒い戦闘服を好み、リュックも黒い。


 リュックには鞘が装着されていて、剣が収められている。

 ジュリアはアウラ・ブレードを使えるのだが、アウラの消耗を防ぐ為、本物の剣も併用しているのである。


「これからダンジョンかい? まだキャンプ中だと思ってたんだけど」


 ジュリアの問いに、果敢は答を返す。


「そのつもりだったんだけど、少し早目に切り上げる羽目になったから、ダンジョンに入る事にしたんだ」


「私等は三日振りの地上だから、まだ目が慣れないよ」


 眩げな目で、そう言ったのは、黒装束姿の東洋人の女性……カザハナ・サクヤ。

 長い黒髪を後頭部で結っている、ポニーテール風の髪型で、冷たく整った感じの顔立ちをしている。


 背中のリュックの両側には、二本の黒くて短い刀が、鞘に収められた状態で、装着されている。

 日本人の果敢からすると、いわゆる忍者のような格好をしているように見える、この女性の戦闘職業は、実際にニンジャなのだ。


 忍者風のニンジャは、ユウキと同じ国の戦闘職業であり、キュレーター島には数人しか存在しない。

 しかも、このサクヤは魔眼という、レアスキルまで持っていて、猫仮面の正体が果敢である事を、見抜いてしまったりもしていた。


「ホントはアイナ達もぉ、昨日の夕方にはぁ、地上に出る予定だったんだけどお、途中で迷っちゃってぇー、今朝になったんだー」


 間延びした喋り方をするのは、アイナ・セヴァリー。

 白い戦闘服の上に、白いケープを羽織っている、シロッコの聖魔術師だ。


 日に焼けた風な色の肌に、セミロングの金髪、艶っぽく整った顔立ちに、豊かな胸。

 果敢が初めて見た時、「何この黒ギャル?」などと思った感じの、見た目をしている。


 この世界でも、かなり緩そうな感じに思われがちな、外見と喋り方なのだが、性格はいたって真面目である。

 見た目と喋り方のせいで舐められ易いが、聖魔術師としての実力は高く、後衛でありながら、武術の能力も低くはない、戦闘服を着ているタイプの聖魔術師だ。


 武術と魔術に優れ、遠近距離の攻撃が可能なジュリアと、接近戦と攪乱、情報収集や探知能力に優れるサクヤが前衛、回復や防御などのサポートに優れるアイナが後衛。

 ニンジャがいたり、魔術を専門とする魔術師がいなかったりと、シロッコは変わった編成のパーティといえる。


(昨日の夕方に戻れなくて、良かったよ)


 アイナの話を聞いて、果敢は心の中で、胸を撫でおろす。

 もしもシロッコが、昨日の夕方にダンジョンから戻って来ていたら、モモンガ男の騒ぎの場に、シロッコが居合わせる羽目になった可能性がある。


 その場合、サクヤは魔眼の気紋識を使い、モモンガ男の正体が、果敢である事を見抜けただろう。

 だから、シロッコが昨日の夕方に、ダンジョンから戻れなかった事を聞いて、果敢は安堵したのだ。


「待たせたな……って、シロッコの皆さんじゃないの」


 購入した回復薬を、ベストのポケットに仕舞いながら戻って来た、ダークグレイの戦闘服姿のロッドが、シロッコの存在に気付いて、声をかける。


「またクルトの奴を、誘ってんの?」


「いや、今は……ただの挨拶だけさ。ダンジョンから戻って来たばかりだからね」


 ジュリアはロッドに答えてから、果敢に語り掛ける。


「誘うのは、クルトがダンジョンから戻った後にするよ。今夜も、ディエゴの図書館にいるんだろう?」


「あ、いや……今夜はフードスタンド・フェスティバルに行くから、ディエゴの図書館には、行かないと思うよ」


「あ! そう言えば、昨夜からだったね、フードスタンド・フェスティバル!」


 東洋出身であり、東洋街路にも通っているサクヤは、フードスタンド・フェスティバルを知っていたのだ。


「だったら、今夜は私達も、フードスタンド・フェスティバルに行こうよ。私は元から、行くつもりだったし」


 サクヤの言葉に、ジュリアとアイナが頷く。


「そういう事だから、また今夜ね!」


 仲間での話はまとまったので、果敢に声をかけてから、ジュリアは手を振りつつ歩き出す。


「フードスタンド・フェスティバルで、美味い東洋の食べ物を、紹介してやるから、楽しみにしていろよ!」


「クルトっち、まーたねー!」


 サクヤとアイナも、手を振って歩き去る。


「いや、あの……誘っても無駄だよ! 俺……パーティとか入る気無いから!」


 三人の背中に、果敢は言い放つ。

 でも、三人は聞こえているのだが、聞こえない振りをして、反応を示さないで歩き去る。


「相変わらず、年上の女にモテまくりですなぁ、さすがは年上殺し」


 からかうロッドに、果敢は半目で言い返す。


「モテてもいないし、年上殺しでもねぇよ」


「いやいや、昨日の夜だって、ジーナとデートしてたじゃないの」


「フードスタンド・フェスティバルに行く途中に、偶然会って話したら、一緒に行く事になっただけで、デートでも何でもないって言っただろ」


 昨夜のフードスタンド・フェスティバルでも、デートではないかと、ロッドにからかわれたので、果敢は否定していたのである。


「他にも色々、思い当たる節、有るでしょうが?」


「下らない事ばっか言ってんなよ、用意出来たなら、行くぞ!」


 思い当たる節が無い訳ではなかったので、気まずい思いを誤魔化すかのように、果敢は足早に歩きだす。

 口を大きく開けている、灰色の巨大なドラゴンヘッドを目指して。


 雑魚専の下級冒険者として、小銭を稼いでは、趣味のキャンプを楽しむという、気ままで気楽な潜伏生活の日々に、果敢は戻ったのだ。

 もっとも、毎度の事なのだが、気楽な日々は長くは続かない。


 そう遠くない内に、また誰かに厄介事を押し付けられてしまい、果敢の気楽な日々は、終わってしまうのだが、それはまた別の話である。











終わりです、最後までお読みいただき有難うございました。




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