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083 噂話は尾ひれがついて、話が大きくなりがちだから、その類の話じゃないのかな

 バジレーからキュレーター島まで飛んで来た果敢は、森の中に隠れて、レベル2となった呪印を発動させた。

 そして、ルーレットタイムで果敢が引き当てたのが、「変態モモンガ男、露出百人組手」という呪いであった。


 モモンガの仮面を被り、裸の上に仮面と同じ色のコートを着て、女性の前で「モモンガ!」と言いながらコートを開き、己の股間を女性に見せつける……。

 これを百人の女性相手に繰り返せば、成功という呪いである。


 呪いが始まるのと同時に、果敢は変態モモンガ男の格好になり、女性が沢山いる場所……ダンジョンの出入り口付近へと、身体が勝手に移動してしまった。

 そして、実は一定範囲に、特殊な結界が展開されていて、果敢が百人の女性相手に、己の股間を見せつけない限り、誰も結界内から出られない状態になってしまったのだ。


 ダンジョンの出入り口付近にいる人々は、果敢を含めて、全て脱出不可能な結界に、捕らわれてしまったのである。

 果敢は仕方が無く、皆を結界から解放する為、「変態モモンガ男、露出百人組手」を成功させるしか無かったのだった。


 結界の中には、ダンジョンの奥深くから戻ったばかりの、クイスケ・カリタスの者達もいた。

 果敢は心苦しかったのだが、自分を助けようとしてくれたラティーシャにも、「モモンガっ!」と叫びながら、己の股間を見せつける羽目に、なってしまったのである。


 ちなみに、今回の呪いの実行中は、移動用のアウラ・アーツに使用する分には、呪印を満月に近付けないという条件が、設定されていた。

 つまり、アウラ・アクセルやエアリアルを、果敢は自由に使える状態だったのだ。


 幾ら多数の上級冒険者達がいても、そんな果敢を相手にしたら、どうにか出来る訳が無い。

 果敢は易々と、百人の女性冒険者達に、「モモンガっ!」と叫びつつ、コートをモモンガの脚の間にある、膜のように広げながら、股間を見せつけ続けた。


 見事に「変態モモンガ男、露出百人組手」に成功した果敢は、結界が解除されたので、すぐに遠くに逃げ去った。

 冒険者達は追跡を試みたが、誰一人追い着く事は出来なかった。


 こうして呪いは終了し、果敢は精神的なダメージを負いながら、元の姿に戻った上で、自分のアパートに帰ったのだ。

 これが、モモンガ男騒動の、真実である。


 猫仮面もモモンガ男も、果敢なのだから、ジーナの望みが叶う事など、有り得ないのだ。


「猫仮面って言えば、ブレーメン王国に似たような奴が、現れたらしいぜ」


 ジーナの猫仮面に関する話が聞えたのか、近くにいた冒険者達が、そんな話をし始める。


「ブレーメン王国で、馬鹿貴族が特級魔族を召喚して、平等派潰しに利用しようとしたらしいんだが、いきなり現れた、猫の仮面被った女の子に、特級魔族共々、退治されたらしいんだ」


「特級魔族を、女の子が? そんなバカな!」


「マジだって! グリム大陸から、飛行機で戻って来た奴が見せてくれた、あっちで買った新聞見せてくれたんだよ」


 キュレーター島で発行されている新聞には、まだ果敢がブレーメン王国で引き起こした騒ぎは、掲載されていない。

 グリム大陸で起こった事件に関しては、グリム大陸よりも報道されるのが遅いのだ。


「娼婦が着ているみたいな、ミニスカートのディアンドル着た女の子が、大きな湖を吹き飛ばすような、ド派手な戦いやらかして、特級魔族を一人で倒したんだと」


「そんな事がある訳ないだろ! だいたい、特級魔族を一人で倒せる人間なんて、元英雄の他にいる訳がないじゃないか」


 噂話に興じている、この男性冒険者は、ある意味……真実を言い当ててしまっていた。


「全くの嘘、もしくは……話が大袈裟に伝わってるだけだって」


「まぁ、確かに……有り得ない話か」


 そんな会話が耳に入り、ジーナが同じ話題について、小声で話し始める。

 他の人には聞こえないように、果敢に身を寄せて、囁くように。


「実は……ブラックハウスにも、ブレーメンで特級魔族を倒した、猫仮面の少女の話は、入って来てるんだ」


 ブラックハウスに限らず、ギルドにはグリム大陸の情報は、一般の冒険者達よりも早目に入る。

 グリム大陸の業者を相手に、魔石などの貿易を、日常的に業務として行っているので。


「信じ難い話なんだけど、実際……そういう情報が、グリム大陸には広まってるらしいんだよね」


「そうなんだ……でも、さすがに有り得ない話でしょ。女の子が特級魔族を、一人で倒すとか」


 しらばっくれて、果敢は言葉を続ける。


「噂話は尾ひれがついて、話が大きくなりがちだから、その類の話じゃないのかな」


「その可能性が高いけど、猫仮面といいモモンガ男といい、上級の連中を圧倒するような実力者が、世の中にはいるんだから……」


 ジーナは真顔で、言い添える。


「案外……特級魔族を倒せる猫仮面の少女も、実在するのかも知れないよ」


 無論、猫仮面とモモンガ男、猫仮面の少女の三者が、全て同一人物であり、その正体が左隣に座っている果敢である事など、ジーナには気付きようが無い。

 ジーナにとって、果敢はクルトという名の、世話の焼ける年下の下級冒険者なのだから。


 そんな果敢とジーナの姿を、二十メートル程離れた場所から、眼鏡越しに見ている者がいた。

 フードスタンドの中で、焼き鳥を焼きながら、ユウキは二人の様子を、チラ見していたのだ。


「客商売の目じゃ、無くなってるぞー」


 フードスタンドの前にいる客の一人に、ユウキは声をかけられる。

 声をかけて来た客に、ユウキは目線を移動させる。


「何だ、ロッドと……モルガンか」


 声をかけたのは、ロッドであった。

 ジェヌカにブラウンのシャツという出で立ちで、仕事ともアウトドアとも無縁の、普段着姿だ。


 隣にいるのは、ジェヌカに白いブラウスという格好の、大人っぽい女性。

 ベリーショートの銀髪が似合う、鋭い目付きの色白の女性であり、歳の頃はロッドと似た感じの、モルガン・ギルマンである。


 モルガンはロッドの彼女であり、元冒険者なのだが、今は商人をやっている。

 釣りが趣味であり、同じ趣味のロッドと知り合い、交際に至ったのだ。


 ロッドとモルガンは、友人であるユウキのフードスタンドを訪れた。

 だが、ユウキは二人が現れた事にすら、すぐには気付かなかったのである。


「仕事中に男の事を、気にし過ぎるもんじゃないよ」


 ユウキが果敢達に気を取られているのに、ロッド同様に気付いてたモルガンも、ユウキを窘める。


「別に、気にしてないけど……」


 ユウキは平静を装い、作業に専念する。

 ロッドからセット二つの注文を受け、焼きたての焼き鳥を、パックに詰め始める。


「しかし、クルトとジーナかぁ……何時の間に」


 さり気なく果敢達の方を見ながら、ロッドは小声で続ける。


「まぁ、あいつは年上殺しだから、有り得ない訳じゃなかったか」


 独り言のような小声だったのだが、しっかりと聞いていたユウキは、ロッドに問いかける。


「何それ、年上殺しって?」


「え? 何の事?」


 つい口に出してしまった事を、ロッドは後悔しつつ、すっ惚けてみせる。


「今更惚けても遅いから、ちゃんと聞こえてたし」


 強い目と口調のユウキに、ロッドは誤魔化すのを諦める。


「あいつ……結構色んな女と、噂になってるけど、大抵は年上の女なんで、年上殺しって言われてるのさ」


 フォローのつもりで、ロッドは付け加える。


「まぁ、ただの噂だから、気にするなって」


「噂って、誰と? まさか、シロッコの人?」


 ユウキが思い付いたのは、果敢を積極的に勧誘し続けている、シロッコの面々だけだったのだ。


「噂になってるのは、ブラックハウスで指導教官やってる、上級冒険者とか、アマソナス海運の連中とか、キャンパーの女連中だよ」


 モルガンがロッドに、問いかける。


「前に夜釣りに行った帰りに、クルトと一緒にいたの……誰だっけ? かなり親し気だったけど」


「クルトの指導教官だった、アンヘラって人。クルトの奴、飲み屋で良く捕まって、酒を付き合わされるらしい」


 ロッドとモルガンは、泥酔したアンヘラを、家まで送っている時の果敢に、偶然に出会った事があったのだ。

 モルガンが「かなり親し気」と表現したのは、酔っ払ったアンヘラが、殆ど果敢に、抱き着いているも同然の状態だったからである。


「ギルドの指導教官や、キャンパー連中はともかく、何でアマソナス海運の連中まで?」


 ユウキは不思議そうに、疑問を口にする。

 アマソナス海運というのは、アマソナスという変わった女性集団の者達で構成される、海運会社だ。


 既に滅んだ国々にルーツを持つ女性達が集まった、特定の国に属さない女性達で構成される、戦闘集団がアマソナスである。

 高い戦闘能力を生かし、冒険者や軍人となる者達も多いが、海運会社を営んでいる者達もいるのだ。


「あいつ、前に手違いで、アマソナス海運の船に乗る羽目になって、その時に仲良くなったんだと」


 アマソナス海運の船は、男子禁制になっている。

 普通は男性は乗らないのだが、ロッドの言う通り、果敢は手違いでアマソナス海運の輸送船に乗せられてしまい、アマソナス海運の船員達と、海の上で一週間を過ごす事になった。


 その時に、一部の船員達と親しくなり、船がキュレーター島に寄港した時は、飲食を共にするのが通例になっている。


「噂は多いけど、今のところは、誰かと付き合ってる訳じゃないから、そんなに気にするなって」


 ロッドに続き、モルガンが助言をする。


「でも、多少は焦らないと、拙いかもよ。競争相手……多そうだから」


 このタイミングで、注文のセットのパック詰めが終わったので、ユウキはロッドに、二つのパックを手渡し、代金を受け取る。


「まぁ、余計な事は気にしないで、仕事頑張んな!」


 そう言い残し、ロッドはモルガンと共に、焼き鳥のフードスタンドから遠ざかって行く。

 他のフードスタンドを、二人は回り始めたのだ。


「余計な事って……」


 遠ざかる二人から、ジーナと親し気に話し続けている果敢に、目線を移し、ユウキは半目で呟く。

 直後、中年の男女のグループ客が、フードスタンドの前に現れる。


 大量の焼き鳥の注文が入った為、ユウキは焼き鳥を焼く作業で、急に忙しくなる。

 ジーナと親し気にしている果敢の事が、気になりながらも、ユウキは仕事に専念する。


 そんなユウキの状況になど、全く気付きもせず、果敢はジーナ相手に、飲食と会話を楽しみ続ける。

 本当は自分が正体である、様々な人物に関する話題が出て来る度に、焦ったりしながら……。



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