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バケモノ×ケンゲキ  作者: 伏見 七尾
参.犬神欠点
27/89

その十四.破魔の力を嘲笑う

 どこからか遠吠えが響き渡った。

 同時に広場の暗がりのあちこちから、獣の影が現れ出てきた。獣の影は低い唸り声を上げながら、ゆっくりと吹雪を中心に円を描くように動く。

 その姿に、サチは目を見開いたまま緩く首を振った。


「だめ……やめてよ、そんな……そんな事したら、わたし――!」

「悪いけれどもサチ。少しの間、眠っていて。指揮系統が乱れてしまう」


 抑揚のない言葉とともに、ほんの一瞬林檎の体がサチから離れた。しかし直後その首筋に手刀が叩き込まれ、サチは林檎の腕の中に崩れ落ちる。


「う、くっ――!」

「ワンコさん!」

「白い娘、オマエはワタシ達を犬だと言ったわね」


 思わず駆け寄ろうとした吹雪に背を向けて、昏倒したサチの体を地面に横たえる。

 周囲の唸り声がいっそう高くなった。

 吹雪は左右に素早く視線を動かし、包囲の切れ目を探る。

 脱出自体はどうにかできるだろう。

 だが――吹雪の眼は、最後に地面にぐったりと横たわるサチを見る。このまま彼女を残して逃げるわけには――。


「ワタシ達は大神オオカミ。西洋の悪魔、東洋の神」


 林檎がゆるりと振り返る。

 金の瞳を冷ややかに細め、林檎は抑揚のない声で言い放った。


「血とサガによって、オマエを殺す」


 かつんと林檎が靴の踵を鳴らす。

 直後、吹雪の全方位からオオカミが躍りかかってきた。


「雪一片、百鬼を殺す!」


 吹雪は即座に絶句兼若を起動。

 その切っ先が地面に触れた瞬間、吹雪の周囲に氷の壁が立ち上がる。何匹かのオオカミが弾き飛ばされ、残るオオカミがすんでの所で踏み止まった。


「せぇ――!」


 渾身の力で氷壁を薙ぎ払う。

 一気に壁が砕け散り、無数の氷塊がオオカミめがけて飛んだ。

 獣達が怯んだ。そのわずかな隙に吹雪は呼吸を整え、四肢に力を込めた。

 それは時久との最初の邂逅でも見せた――天外化生流の歩法【無間むげん】。呼吸によって身体を整え、一瞬で爆発的に加速する。


「ふっ――!」


 一歩目で構えを刃を水平に寝かせた平正眼の状態に整える。

 二歩目で完全にオオカミの包囲を抜けた。

 そして三歩目で林檎の眼前に。

 加速の勢いを十分に載せた九の太刀『雨垂れ』。

 絶句兼若が閃光と化し、林檎の胸部へと吸い込まれていく。


「――あぁ、これなら」


 どこか呆れたような言葉が聞こえた気がした。

 その意味を理解するよりも早く、吹雪の手に鈍い感触が伝わってくる。

 絶句兼若は確かに林檎の胸を貫いた。


「避けなくとも大丈夫」

「何――?」


 吹雪は目を見開く。

 その視線の先で、心臓を貫かれたまま林檎は目を細めた。


「『心臓を貫いたのに死んでない』……あるいは『私には破魔の力があったはずなのに』なんて考えている顔をしているわね」

「くっ……!」

「残念。ワタシは生きても死んでもいないものだから」


 絶句兼若に林檎の白い指先が伸びる。

 刀身を掴まれる前に吹雪はとっさに後退。血に濡れた絶句兼若を引き抜いた。

 体勢を整えるよりも早く林檎が距離を積めてくる。

 ミシッと音を立て、林檎の腕が赤黒く染まった。異様な形へと変貌しつつ迫り来る腕を見て、吹雪は反射的に絶句兼若で防御をはかる。

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