行動開始
「と、泊まるって?」
真っ赤になった宮野さんがおろおろしながら聞き返してきた。
「あ、いや、別に変な意味はなくて、俺は、また宮野さんが自暴自棄になって昨日みたいな事にならないか心配なんだ。
ここに居れば、ひとまずその問題はないかなっと思って……」
「いや、でもそれって、新しい問題が浮上してない?
うら若い男女が一つ屋根の下で生活するなんて」
「い、嫌ならいいんだ。俺は宮野さんの気持ちを尊重するよ」
「嫌って訳じゃないよ。その、助かります。
お父さんの所から取ってきたお金ももう残ってないし、これからどうしようって悩んでました」
宮野さんはそう言うと、黙って俯いてしまい、ズズッと豚骨ラーメンを啜った。
その照れ隠しする様子さえ可愛いと思ってしまうのは、病気だろうか?いや、そんな事はない。
宮野さんは、例えるなら子猫なのだ。小さくて愛らしくて、何をしても可愛く見えてしまう子猫なのだ。
だから、俺が宮野さんを可愛いと思い、助けたいと思うのは当然のことなのだ。
と、言うわけで、俺の家に俺が片想いしている女の子が泊まるわけになったのだが、俺は別に下心でこんな提案をしたわけではないことをここに宣言しておく。
なぜなら、
「ほぉ~、叶もやるな。これでお前も立派な男の仲間入りっちゅう訳や」
「ちょ、叶さん!あなた方はまだ高校生なんですよ。節度をわきまえて下さい!」
「私の見込みが甘かったわ……叶君はもっと奥手だと思ってたのに」
外野の幽霊達がうるさくて仕方がないから!
俺が宮野さんを泊める目的はもっと他にある。俺は
後で勝手に騒ぐ幽霊達の声を聞き流しながら、俺は少し延びかけた麺を啜った。
ラーメンで空腹を満たした俺は宮野さんに茶封筒を渡した。これは、巫が俺の生活費として出してくれていたものだ。
「えっ?これは?」
「ここに泊まるなら、いろいろ必要でしょ?
見たところ、宮野さんホントに何も持ってないようだから、これで最低限必要なものを買ってきたらいいよ」
「そ、そんな事できないよ。泊めてもらうだけでありがたいのに」
宮野さんは慌てて首を振って、茶封筒を押し返してきた。
俺はその茶封筒を、もう一度宮野さんの前に突き出した。
「もちろん、返してもらうよ。
これはあげるお金じゃなくて、貸すお金だから。いつか、絶対に返してもらう。
だから、なんの遠慮もしないで使ってくれればいい」
「でも……」
宮野さんは何か言いたげだったが、俺は有無を言わさずそれを宮野さんの手に握らせた。
「あとコレも」
戸惑う宮野さんに続けて渡したのは、この部屋のスペアキーだ。
宮野さんが、スペアキーと茶封筒を握ったのを確認すると、俺はこたつから抜け出た。
「俺はこれから行かなきゃならないところがあるんだ。だから、買い物は一人で行ってくれ。
その中に入ってるお金は自由に使っていいから」
俺は、それだけ言って部屋を出た。
この時、俺の頭の中には一つの計画があったのだ。
俺は天獄荘の敷地から出ると、その計画を実行するためにスマートフォンを取り出してある場所に電話を掛けた。
「はい、こちらは宮野法律事務所です」
受付担当だと思われるその女性と三言二言交わすと電話の相手が切り替わった。
「お電話代わりました。宮野信雄です。
それで、私になんの用件でしょうか?」
「急にこんな事を言うのは失礼かもしれませんが、お嬢さんのことで話があります。
できればどこかで会えないでしょうか?」
これでもう、引き返すことは出来ない。
俺は、自分の手がガタガタと震えている事に気が付いた。
♦♦♦♦♦
一時間後、俺は指定された喫茶店に居た。
周りにいるのはスーツ姿の男性ばかりで、俺一人だけが浮いていた。
なんで俺がわざわざこんなところでお茶しているのかというと、それは宮野さんの父親である宮野信雄氏に会うためである。
ネットで事務所の電話番号を調べ何とか連絡がとれたのだった。
俺は、今から宮野信雄氏に話を聞こうと考えていた。
別に宮野さんの話を信用していないとかそう言うことではなくて、ただ単に知りたいことがあったからだ。
宮野さんの話だけでは、分からないことがまだいくか残っているままだ。
こんな状況じゃ、宮野さんを助けるにしてもどうしたらいいのか分からない。
もちろん、こんな誰だか分からないような高校生に真実を話してくれるとは思っていない。
だが、今の俺は必殺のカードを一枚持っている。
宮野家が十年以上に渡って隠し続けてきた秘密を俺は知っている。
俺はこのたった一つの、だけど使いどころさえ間違えなければ最強のカードを使って現役の弁護士と交渉をしようとしていたのだ。
この店に入って、すでに三回もトイレに立っているのは紅茶の飲み過ぎだけのせいではないだろう。
俺は極度の緊張の中で、宮野信雄氏が来るのを待っていた。
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すぐに再会しますので、少しの間お待ち下さい。




