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巫の謎の協力

「あなた、あの宮野って子のこと好きなんでしょ」


 窓の外の後へ流れていく風景をぼーっと眺めていると、藪から棒に巫がそう言ったのが聞こえた。

 俺は慌てて振り返ったが、タイミング悪く丁度その時黒岩がハンドルをきったので俺は体勢を崩してさっきまで眺めていた窓に頭をしたたかと打った。

 俺は今初詣から黒岩の運転する車に乗って帰っている途中だった。


「どどどど、どうしてそれを!?

 もしかして、また巫家の力を使ったのか?」


 小国の国家予算並の財力と情報網、そして政治力を持っている巫グループの力を使えば、こんな一介の冴えない男子高校生の片想いまでもいとも簡単にバレてしまうのだろう。

 恐るべし、知りたいことを何でも知れる女子高生巫美里。


「あなたの頭は年が変わっても空っぽのままなのね。

 私がそんなくだらないことにあんな忌々しい家の力を使うもんですか。

 あなたがあの子に惚れていることくらい、冬眠中の蛙にだって分かるわ」

「そんな、俺の秘密が……」

「ったく、自殺しようとしてた人間が恋してるなんて、滑稽でしかないわ。

 そんな浮ついた感情を持っていて、よく首を吊ろうとしたわね」

「それは、その、あの時は感情が高ぶっててそれどころじゃなかったんだよ。

 それに、もし宮野さんが彼女だったら俺も自殺を思いとどまったと思う。

 だけどさ、現実はただの片想いな訳なんだよ。

 いくらなんでも、片想いじゃ自殺を思いとどまらせちゃくれないんだよ」


 俺と宮野さんとの関係はクラスメイトと言うだけであって、それ以上でもそれ以下でもない。

 何度か話したことはあるが、それはクラス委員長の宮野さんがクラス委員長の仕事として話しかけてきたものばかりで、プライベートな会話は、実はさっきが初めてだった。

 そんな関係で片方が一方的に恋心を持つのは、片想い以外の何物でもない。


「あなたの言い方じゃ、もし仮に宮野千尋があなたの彼女だったなら、あなたは自発的に自殺という選択肢を選ばなかった、と言うように聞こえたのだけど」

「その通りだよ。

 もし、あんなに可愛くて明るくて優しい女の子が俺なんかの彼女だったら、俺は死のうなんて考えなかったさ」


 俺が宮野さんと付き合える可能性は、ノストラダムスの大予言が当たる可能性よりも低いだろうがな。

 学校には、いつも宮野さんの後を金魚のフンのようについて回る連中が居る。

 大半は宮野さんと同じ友達グループの女子だが、中には宮野千尋を護衛する会という名の怪しさMAXな団体に所属している男子も少なくない。

 彼らは、宮野千尋は絶対不可侵な存在であり交際はもちろんのこと告白することすら許されないという「どこの新興宗教だ!」とツッコみたくなるような理念の下活動している。

 そんな状況下で俺が宮野さんと付き合える可能性は限りなくマイナスに近い0だった。

 そんな、初めから諦めていた片想いだったので俺は別にこの想いを宮野さんに伝えたいとは思っていなかった。


「あなたはそれでも男なの?告白の一つも満足にできないなんて、情けないにもほどがあるわ。

 それに、自分が生きるか死ぬかの選択を女性に求めるなんて最低な事よ。あなたみたいなクズ人間はやっぱりあの時死んでおくべきだったのかしらね」


 俺を助けた張本人のくせに、巫は勝手なことを言う。

 俺のような冴えない人間の苦悩を、恵まれた環境で育った巫には理解できないのだろう。

 俺の持っていないものを持っていて、俺の知らないことを知っている。

 俺とは別の世界に住んでいて、俺とは別の価値観を持っている。

 そんな巫に、奥手な高校生のささやかな心の安らぎの重要性が分かってたまるか。

 というか、そもそも巫には恋心というものが存在するのだろうか?

 巫には、少なくとも俺が知る限り友達がいない。

 でもそれは、コミュ障だとかそう言うことではない。

 巫自身が無用な馴れ合いや、群れることを嫌っている節がある。

 それと同様に、巫は異性間での特別な感情を意識して避けているのではないだろうか。

 恋愛感情が無いのではなく、それを押し殺しているのではないだろうか?


 これは俺の勝手な解釈だが、巫美里と言う人間は他人と関わることが苦手なように見える。

 少なくとも、俺から見える巫はそう言う人間だ。


「なによ、黙り込んで気持ち悪い。

 なにか失礼なことでも考えてるんじゃ無いでしょうね!

 まあそれはいいとして、あなたに片想いの相手が居るというのはなかなか面白いわね。

 死を決意したものが恋愛にうつつを抜かすなんてそれだけで喜劇だわ。

 観察しがいがありそうじゃないの。

 決めた、私はあなたと宮野千尋をくっつけるわ。

 そして、死に損ないの心が満たされた瞬間を観察するわ」


 文句ないでしょ。

 巫の目がそう語っていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれよそんな勝手に。

 それに、巫が決めたってそんなのは当人の俺と宮野さんの気持ちの問題だろ」

「あら知らなかったの?

 私が本気になって出来ないことなんて無いのよ。

 安心しなさい。あなたは何もしなくても良いの、何もしなければ高校を卒業する頃にはあなたはもう一つ別の事も卒業してるわ」


 巫のその提案を、心のどこかで喜んでいる自分を見つけ、俺は自分のことが嫌いになった。













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