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俺は決意した。

 気が付いたら夕方だった。

 俺はいつの間にか眠っていて、いつの間にか目を覚ました。

 目を覚ました俺の目に飛び込んできた光は、眩しい朝日ではなく暖かいオレンジの夕日だった。

 どうやら、この年の瀬の貴重な一日を棒に振ってしまったようだ。

 だが眠ったことで重たかった頭がいくらか軽くなった。


 グゥ~


 頭が軽くなったら、胃の中が空っぽになった。

 俺は眠たい目を擦りながら、三分で出来る焼きそばを作るために台所へ向かった。


 少し固めの麺を啜り、水道水をコップ一杯飲み顔を洗うと、俺は心を決めた。

 これからのいろんな事を決心した。

 一人で生きていくこと、巫の観察のこと、幽霊のこと、それらに向き合っていく決心をした。

 そして俺は、その決心が鈍らない内に誰もいない部屋に向かってこう言った。


「幽霊さん居るんでしょ?話があるから出てきてよ」


 すると、十二月の冷たい空気に包まれていた部屋に、さらに冷たい空気が流れ込んできた。

 その空気に身を縮めると、次の瞬間には目の前にトビーが立っていた。


「四人で押し掛けると狭いので、今回は僕だけがお邪魔することにしました」


 詰め襟の少年トビーは、はにかんでそう言った。

 俺とトビーは、そのまま黙ってこたつに座った。


「まさか、叶さんか僕を呼んでくれるとは思ってもいませんでした。

 普通、生きている人は僕らを見ると怖がりますからね」


 初めに口を開いたのはトビーだった。

 その顔は少し申し訳なさそうだが、それを被うほどの嬉しさがにじみ出ている。


「普通ってことは、俺以外にもトビー達のことを見れる人がいるって事?」

「いえ、そう言うわけでは……ってあれ?自己紹介してましたっけ?」

「いやしてない。だけど、後の三人との会話を聞いてればだいたいはな」

「そうでしたか。すいません、名乗りもせずにお願いなんかしちゃって。

 それじゃあ改めて、僕の名前というか呼び名はトビーと言います。これからよろしくお願いします」


 トビーはそう言って頭を下げた。

 見た目は中学生だが、礼儀はしっかりしている。

 名前ではなく呼び名と言ったことに若干引っかかったが、元々渾名のようなものだろうと思っていたので今はスルーした。

 今は、もっと話さなければならないことが他にある。


「それじゃあ、早速本題に入るけど、その前に確認しておきたいことがある。

 お前達は本当に幽霊なんだな?」

「はいそうです。僕らはみんな自殺という方法で命を絶ち、死にました。

 そして、霊界の特例により現世に魂だけ舞い戻ってきた存在です」

「あの赤ちゃんのリッシーもか?」

「あの子は、少し事情が違うんですが死んでいるという事には代わりありません」


 俺の質問に、トビーは淀みなく答える。

 それが嘘だとは考えにくかった。


「それじゃあ次の質問だ。

 トビー達の目的はなんなんだ?」

「目的ですか。難しい質問ですね。

 ただ、最終的な目的は決まっています。それは、未練を晴らし成仏することです。

 その為に、僕達は叶さんの体が必要なんです」


 トビーは少しからだを前に乗り出して話していた。

 俺とトビーの顔の距離は一メートルも離れていない。

 近くで見れば、ますます生きている人間と変わりなく見える。

 目の前の少年が本当はもう死んでいて、俺に見えているのは幽霊となった魂の部分だけなのだと思うと、ぞわぞわと虫が這うような気味の悪い感覚が背中を伝った。

 さっきしたばかりの決心が鈍り逃げ出したくなったが、俺はなんとかそれを堪えトビーの目を見た。

 透き通るような、汚れのないきれいな目をしていた。


「トビー達の未練は、俺の体がないと晴らせないのか?」

「叶さんじゃないと駄目というわけではありません。

 ただ、僕達が憑依できるのは僕達のことを見れる人だけなんです。

 これだけ言っておきますが、僕が幽霊になってから僕のことを見れた生きている人間は叶さん、あなただけなんです」


 トビーのその言葉は、俺の最後の逃げ道を塞ぐものだった。

 俺はゆっくりと目を閉じて、再度自分の意思を確認した。

 そして、その思いにブレがないことを確認すると、閉じたときと同じくゆっくりと目を開いた。


「それじゃ、本題に入る。

 はっきり言うが、俺はまだ心の底からトビー達を信じ切れていない。

 いきなり人の家に現れて、幽霊だの、成仏だの、お願いだの、憑依だの言われても正直ピンとこない。

 それに、トビー達を助ける為に自分の体を貸す義理もない。

 自分で命断ってんだから、未練くらい自分達で何とかしてくれ。

 もし同じ部屋のよしみとか言うんなら、俺は別の場所に引っ越す。

 俺は、幽霊なんていう気味の悪い得体の知れないものと関わる気なんてこれっぽっちも持ち合わせてない。

 早く俺の目の前から消えてくれ!

 それが俺の本音だ!

 ……だけど、俺にはお前らを見捨てることが出来ない。

 実は俺も、自殺しようとしたことがあるんだ。結果は失敗だったけど。

 その時の俺は、本気で死のうとしていた。心の底から死にたいと望んでいた。

 だけど、自殺が失敗したとたん急に生きたくなったんだ。

 まだまだしたいこととかやりたいことが沢山あるって事に気が付いたんだ。

 もし、あの時自殺に成功していたら、多分俺も幽霊になってたと思う。

 トビーみたいに、魂だけの存在になってたと思うんだ。

 その事を思うとさ、なんだかトビー達のことが他人事に思えなくなるんだよ。

 それが全てってわけでもないんだけど、そういう理由で俺はトビー達を見捨てることが出来ないんだ」


 一気に喋った。

 額の血管が切れて、肺が破裂するんじゃないかと思うほど苦しくなったが最後まで言い切った。

 最後は怒鳴るようになったが、正直な心の内を全部ぶちまけた。

 俺の言葉を聞いて、トビーは放心したような顔になった。


「と、言うことはもしかして……」

「トビー達のお願い、引き受けるよ」


 俺がそう答えると、トビーの顔が涙で崩壊した。












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