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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
四章⊟~ルークと原点

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9話

飛び込んだ先、劇場の下は地下よりは幾らか明るい様に思えた。埃っぽく、雨上がりの木の皮の様な匂いが立ち込めてはいたが、人の気配はしない。真上には昇降機の裏側が見え、真っ黒な月の様に見えた。ただ物音の様な物は響いてこない。上には誰もいないようだった。

立ち止まり、ウィリアムを探せば彼は既に進むべき方に当たりを付けていたのか、少しだけ離れた所にいて、目が合ったこっちに手招きをしていた。それからプロトとミラを先に行かせて自分が最後尾につく。右手には双刃剣を握りしめた。此処からは何時敵の襲撃があっても変ではない。もう気を緩められるのはミラを頂点に立たせられた後か、死んだあとだけだった。


ウィリアムの歩みに迷いは無かった。彼は此処で騎士団長だった。だから警備なんてものは腐る程やっただろうし、緊急時の時の為に迷路の様な城の内部の事は勿論、その周辺全てが頭に入っていた。だから今回のルートは彼が決めた物だった。

遠くからは帝都の喧噪を無理矢理に引き裂いたかのような音が幾度も響いてきた。アッシュたちの陽動が本格的に始まったのだと思った。それに合わせて帝都の温度が数度上がった様な気さえした。それに背を背けるようにして自分達は城への潜入を目指した。


ウィリアムが選んだのは再び地下からの侵入だった。帝国の城は大きな城壁に囲まれていて、その中に幾つか建物が立っていて、それが連結しながら建っていた。中央には尤も大きい部分である城そのものが鎮座していて、突き出した槍の様な塔が3本横連なっていた。中央が一番高く、両端は頭一つ分は低い。その内の1つはミラの部屋が最上階にある。恐らくその反対は皇后たちの部屋があるのだろう。そして正面は仕事の場でもあり、入口の方にこの劇場広場が置かれていた。そして地下にある秘密通路を伝って城に潜入し、ミラの居住している塔から中央の塔、今も燦然と光を発しているだろう玉座の間を目指す。其処に行けばこの帝国を統べる者の証が玉座の裏手の壁に自らが王であると主張するようにかけられていて、ミラがこの帝国を手にする為にはその証に改めて帝国の主だと認められる必要があった。ミラを識別するための物は既にある。あのペンダントだ。あれと証を交信させて、ミラが言うには対話する必要があるらしかった。だから玉座へとまずは行く必要があった。


劇場の地下、其処から更に今度は排水の為に掘られた地下を歩く。城の下にあるだけあって、今まで以上にきっちりと作られている。綺麗に切り揃えられた石材を幾つも傘ねてた通路は四角四面に几帳面に整えられていた。整備の為の者しか入らないだろうに通路は確りとしていて、誤って水路に落ちたりしないようの柵までズッと奥へ向かって連なっていた。何より今までの地下と違って光源もあり、地下とは思えない程に広々としている。地下特有の冷たさと寂しさはあるが、それでも普通に生活を営む事が出来そうな程だった。黴臭さもないのだから管理大事に整備されている事は想像に容易かった。

「此処からは間違いなく警備がいる。吾輩がまず対処するが警戒は怠るな」

「おう、後ろは何とかする」

「ボクも魔法で支援するよ」

「私も、光くらいなら出せるからいつでも言って」

ウィリアムの言葉にぞれぞれが自分の役割をあえて口に出しながら答える。案外こういう場において口に出すというのは馬鹿にならない効果があった。緊張は何時だって記憶も飛ばせば理性や思考も乱暴に線を引いた画用紙位に意味の分からない物に変えてしまう。だから自分のやる事、そして仲間がやる事を細かく、メモするように口にするのだ。そうしていれば無意識でも反応出来る事が増えるし、動き出しもスムーズになる。そして全員の顔を見て、改めて頷いてから走り出した。


地下通路にはウィリアムの言った通りに警備の者がいた。ただそれらは魔道人形が大半で騎士と呼ばれる様な者の姿が見えない。以前に帝都へ来たときは散々に騎士を見たと言えるのに、ここに来てからはまだ姿を見ていない。まぁ、騎士と比べれば戦闘力の平均値が高くなったとしても魔道人形の方が変な手心を加えなくて良いし、葛藤も生まれずに済むから楽ではあった。彼らと話してみたいと言っていたプロトも後でミラに交渉するからか、はたまた実の所、歯を食いしばる様にして我慢しているからなのか、兎に角今の所動きに迷いの様な物は見られなかった。


魔道人形たちはこちらを認識すると一切の警告や躊躇の様な動きを見せることなく、手に持った杖を振りかざして魔法を行使する。行使される物は基本的には揃いの物で、個性だとか得手不得手の様な兆しは少しも感じられない。杖が発光すると共に、寸分たがわず同じ大きさ、同じ速さ、同じ熱量の火炎玉や水球が発生して飛んできた。其処には意思が感じられない。それこそ自動で発射される大砲もかくやだ。これが平地で整列して魔法を繰り出すというのなら相手にとっては確かに地獄だろう。更には矢は勿論、空を飛ぶ個体もいるのだから手に負えない。どれほどの数を揃えているのかは知らないが、他国に忍ばせようとする程には揃っているのだから防衛を筆頭に正面作戦で負ける姿を想像できなかった。でも今は城の地下であり、平地と比べれば額ほどの広さしかない場所だ。ここでは個の力が物を言った。つまりウィリアムの突撃を止められる術が彼らには無かった。


「大丈夫か?」

自分の前を行くミラとプロトに向けて声をかける。基本的にはウィリアムが暴走馬車の様にして轢き殺しているから敵の攻撃は一切こちらへは飛んでいない。むしろプロトの魔法は相手方へ通り、ミラの妨害も良く通っていた。だから何方かと言えば、特殊な状況でのめり込み過ぎていないだろうか、という確認に近い問い掛けだった。

「えぇ、私は大丈夫。ほとんどウィリアムとプロトが担当してくれているから」

「ボクも、ウィリアムが相手しなかった相手だけだから全然だよ」

2人は走りながら振り返る事も無くそう答えた。随分慣れたもので、ここまでの旅路が決して無駄なものでは無かったと、場違いではあるがふと、そう思った。そして大剣を振りながらの筈なのにこちらが歩を緩めようものなら一気に置いて行ってしまいそうなウィリアムに限っては心配するだけ無駄に見えた。彼もこの帝都奪還に随分と熱を入れているようだった。やっぱり故郷と言うものには人を引き付ける何かがあるのだと思う。自分とてあんな嫌な奴だと思ってのノクスの事が胸の奥から離れないのだから、彼らだってそう言うものなのだ。


「ここだ」

進撃を続けていたウィリアムの歩みが止まる。彼の視線の先には武骨で周囲の壁と溶け込んでしまいそうな扉が一枚あった。どうやらあれが上に行くための出口らしい。此処迄一気にやって来た事で少しばかり息が乱れてはいるが、本番はこれからだ。自分の頭を軽く振って短く息を吐く。

「あの扉?」

「はい。あそこからミラ様が住んでいた居城の一階に出られます。其処から上に上がって、連絡通路を通って玉座の間を目指します」

ミラの問いにウィリアムが頷く。そして止めた足を再び動かして扉に近付こうとした瞬間だった。その扉が向こうから開かれた。一気に緊張感が高まり、空間に線が入ったようにツーンとした気配が張り詰めた。


「あぁ、やっぱり此処から来たよ」

「あぁ、やっぱり想定道理だよ」

ケラケラと人を小馬鹿にする様な声色と共に嫌に重なった2つの声が聞こえる。1人の人間が2人いるかのように見せかけながら喋っている様な違和感のある声の主がペタペタと足音立てながら出て来た。

「お前たちか・・・」

「やぁ、裏切者の騎士団長、久しぶりだね」

「やぁ、逃亡者の騎士団長、会いたかったよ」

どうやらウィリアムの知り合いらしい。ただ、酷く剣呑な雰囲気が両者の間に漂っていたし、旧交を温める、なんて声音でもない。セリフだって酷く冷たいものだ。

「さて、話す事なんて分り切ってるよね?」

「さて、伝えたい事位知っているよね?」

「「大人しく投降してくれるかな?」」

黒と白の道化師衣装に身を包んだ2人が、化粧で表情なんて分からない筈なのに、酷く冷酷な目でこちらを見やる。同時に彼らの背後から魔道人形がワラワラと雪崩れ込む様にして出て来た。気が付けば背後からも足音が聞こえ、すっかり囲まれているのが分かった。

「断ります。モノにクロ、私はこの国を正しに来たのです」

そんな中、ミラが一早く前に出て、モノとクロと呼んだ道化師たちの視線を奪った。

「やぁ、皇女様。お久しぶり」

「やぁ、皇女様、ご機嫌如何?」

「貴方たちと話すつもりも交渉を受けることもありません。こちらの要求はただ一つ。退きなさい。私はミラ・セイリオス。帝国の未来を担う者、貴方方に選択肢はない。退きなさい」

ミラが何時になく、堂々とそう告げる。彼女の皇女としての覇気が空気を震わした。彼女の言葉にウィリアムが静かに武器を構えて彼女のやや前に並ぶ。それは極めて自然に見えた。それでも道化師たちは一切怯む様子はないし、魔道人形にも変化は無かった。まるで壁にでも喋っているかのようだ。

「ふうん、そう来るんだ」

「へぇ、そうなるんだ」

道化師たちはやはりどこか嘲る様な雰囲気を冷酷な眼光に混ぜて、不気味なステップをその場で踏み続ける。周囲に変化はない。ただ、不穏だけが渦巻いて両者の間に佇んでいた。


「まぁ、いいや。分かってたしね」

「まぁ、いいさ。予想の内だしね」

変わらない声音のまま道化師の雰囲気が変わった気がした。その瞬間武器を持つ手に力が入る。間違いなく、来る。そう思った。

「皇后さまにはどんなでも良いから連れて来いって言われてるんだ」

「皇后さまは生かせとも五体満足とも言わなかった」

「「だから、少し痛い目を見てもらうよ」」

背中に氷柱を差し込んだような純粋な殺意が振りまかれ、地下が鮮やかな色に染まる。最初の関門が扉を開いた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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