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13.厚切りベーコンと目玉焼き

 俊彦は奈美恵の顔色を窺っていた。健二に対する奈美恵の想いを知っていたからだ。

「よかった」

 奈美恵が呟いた。軽い笑みを浮かべてそう言った。

「そうだな…」

 やっぱりうれしいのだろう。当然のことだと俊彦は思った。健二が拘留中も手紙のやり取りをしていたくらいだ。

「これで私も心置きなくトシさんに甘えられるわ」

「えっ?」

「だって健二もこれで新しい生活を送れるのよ」

「新しい生活?」

「そう!捕まる前に知り合った女の人と一緒に暮らすんだもの」

「捕まる前に知り合った女?」

「あら、言わなかったっけ?手紙にそう書いてたって」

「手紙…」

 話を聞きながら俊彦は怪訝な表情を浮かべた。

「あっ!もしかして、トシさん、勘違いしてませんか?」

「勘違いも何も、待ってたんじゃないのか?あいつが出て来るのを」

「バカねえ!健二とはあの時、きちんと清算したのよ。私にはトシさんが居るから。そうじゃなかったら、いつまでもここに置いてもらう事なんかできないでしょう!トシさんは私のことをそんな風に思っていたの?私はトシさんにとって何?」

 奈美恵の目から涙が溢れている。自分はなんてバカだったんだ。俊彦は奈美恵の隣に移ってそっと肩を抱いた。奈美恵は俊彦に思いっ切り抱きついた。

「俺なんかでいいのか?」

 俊彦がそう言うと、奈美恵は顔を上げて頷いた。俊彦は奈美恵の涙を人差し指でぬぐった。奈美恵はそっと目を閉じた。そして、初めてのキスを交わした。


 目が覚めると目の前に俊彦の寝顔があった。奈美恵は微笑みながら軽くキスをすると、そっとベッドから抜け出して服を着た。そして、キッチンに向かい朝食の支度を始めた。

 支度が出来たので和子の様子を見ようと部屋のドアを開けた。和子の姿はなかった。新聞配達の仕事があるからと、置手紙が残されていた。終わったら一旦、戻ると書いてあった。

 食事を並べ終わったところに俊彦が起きてきた。恥ずかしそうに眼が泳いでいる。

「おはようございます」

「おはよう…」

 俊彦が席に着くと、奈美恵は嬉しそうに笑った。

「これ…」

 テーブルに並んでいたのは厚切りベーコンと目玉焼き。そして、フレンチトーストとサラダだった。奈美恵がここで初めての朝を迎えた時に俊彦が用意したものと同じメニューだった。

「覚えてました?」

「忘れるわけがない。初めて女性のために作った朝食メニューだからな」

「えっ?麻紀さんには作ってあげたことはないんですか?」

「麻紀は料理のプロだったからな。それに、俺が料理を覚えたのは麻紀が居なくなってからだ」

「そうなんですか!私って、世界中でいちばん幸せな女だわ」

 何ともこそばゆい言葉だったが、お世辞にも聞こえない。奈美恵のこういうところが俊彦は好きだった。俊彦は奈美恵が作ったフレンチトーストを口にした。

「美味い!もう、料理じゃ、奈美恵にはかなわないな」


 事務所に着くと俊彦はすぐに若田部に電話を入れた。

「急な話で申し訳ないが相談したいことがある」

 電話を切ると俊彦は若田部の事務所に向かった。俊彦が到着すると若田部はニヤニヤしながら待っていた。

「こんな朝早くからどうしたのかね」

「軽井沢の件だが…。今からホテルのレストランを押さえられるか?」

「もう、押さえてあるよ」

「なんだって!」

「なんだとはなんだ。今、黒木君が頼んだことじゃないか」

「いや、そうじゃなくて、何のために押さえてあるんだ?」

「決まってるじゃないか。コンペのパーティーのためだよ。それから…」

 若田部はもったいぶったように途中で言葉を切った。そして、満面の笑みを浮かべて続けた。

「それから君と奈美恵さんの結婚式のためだよ」







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