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女騎士団長、アナスタシア・マーベル~あなた以外の愛ならいらない〜  作者: Alicia Nish
第二章:運命が紡ぐ未来

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45. 女性騎士団長、アナスタシア・マーベル

失くしたと思っていた。

二度と戻れないと思っていた。

しかし、彼女を愛する二人の想いに導かれ、

彼女は再び、あるべき場所へ――





「アナスタシア・マーベル」


静まり返った会場に、キースランの低重音の声が響く。


「この試験をもって、貴殿の騎士団長復帰を認める決議の場をここに設ける。」


予想だにしていなかった発言に、会場が一気にざわめきだした。


「どういうことですか!」


カインがたまらず声を荒げる。


「この場に招集された魔術師団員及び騎士団員、賛成の者はご起立願おう。」


カインの疑問を打ち消すようにキースランが会場に向かって声を張る。

騎士団志願者たちとは明らかに違う一団が、会場の一端に集まっていた。


――いつの間に


アナスタシアとの共闘に浮かれていたせいか、キースランの策略が巧過ぎたのか、彼らがここにいたことさえ気づかなかった。


――いつ現れたかさえ気づかないとは、俺も甘いな。


自虐めいた考えが浮かぶ。




「異議なしっ!」


否定的な考えに塗りつぶされそうな思考はその一言で止まった。

キースランの呼びかけに真っ先に声をあげ、拍手したのは魔術師団長だった。

続くように、魔術師団員、第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団の団員たちも直立して拍手を送る。

隊長クラスの面々は、口々に「異議なし」と唱えている。


「異議なし!」


目の前のフィルとエリックも、カインに向かってにやりと笑う。


「お前ら、知ってたな?」


会場を揺らす拍手と悪びれなく笑う仲間を前に、カインはもう何も言えなくなった。



「満場一致により、アナスタシア・マーベル。

 貴殿を騎士団長とする。

 追って陛下より勅命を受けることとなるだろう。」


キースランがアナスタシアを見つめる。

拍手に包まれ、アナスタシアは感極まった状態で立ち尽くしている。

しかし、その手には力強く剣が握られていた。

その姿を見つめるキースランの瞳は、どこまでも優しく、揺らぐことのない静けさを宿していた。




女性騎士団長の正式復帰に会場の興奮はピークに達していた。

キースランがアナスタシアに静かに歩み寄る。


「やはり、君の居場所は彼の隣なんだな。」


そっと耳元でそう呟いた。


――奴は、悔しいほど君の隣が似合う。


柔らかく美しく微笑むアナスタシアの姿に、焦がれた想いがよぎる。

けれど、厳しい表情で死線を見据える彼女こそが、本来の姿だ。


――こうして『戦う場所(居場所)』を与えれば、君は君のなりたい君に戻れる。

  迷うことも、言い訳も必要もない……わかっていたことだ。


「シア......君は自分で自分の未来を掴める。

 そして、それが一番君らしい。」


――これは、わたしからの最後の手向けだ。

  受け取ってもらうよ。


「……愛していた……心から。

 だからこそ、君は君のいるべき場所へ。」



誰にも分らない角度で、軽くキースランの唇がアナスタシアの頬を掠める。

そして、それはキースランにとっての『別離の挨拶(しるし)』だった。


***


数日後、王城の謁見の間――そこには、アナスタシアとカインの姿があった。


「アナスタシア・マーベル。我が命により第二騎士団、団長を任命する。」

「はっ」


頭を垂れて国王からの任命の言葉を受ける。

新制度によってアナスタシアが正式に女性初の騎士団長となる。


「カイン・ニコルソン。」

「はっ」


カインも同様に騎士の礼を尽くして陛下の御前に頭を垂れる。


「第三騎士団、団長。及び、これまでの功績を讃え、陞爵とし、伯爵とする。」

「……は?」


公式の場にそぐわないカインの間抜けな声がポツリと落ちて、周囲から小さな笑いが漏れる。


「キースラン・ミルグレン大公より推薦があった。貴殿の活躍、誰もが認める功績だ。褒章なしというわけにはいかんだろう。誰一人、異論はなかったぞ。」


カインの緊張を解くように、陛下が砕けた口調で笑う。


「ありがたき幸せ。」

「うむ。マーベル騎士団長の第二騎士団は、王都の警備が主な任務だが、緊急時は魔獣討伐に加わる。第二騎士団と共に、軍備の補強と魔獣対策訓練を精励せよ。」

「――『無敗の双剣』よ、両騎士団の連携を期待しておるぞ。」


陛下が二人の異名をあえて口にする。


「「はっ。謹んでお受けいたします!」」


その期待にこたえるかのように、二人が息ぴったりに答えた。


***


王宮の訓練場では、新しい訓練体制が整い始めていた。

第二騎士団と第三騎士団の合同訓練は、二日に一度行われ、その中心にいるのは誰もが認める新団長だった。


「右翼、動きが甘い!」


魔獣討伐を想定した訓練は常に実戦形式だ。魔獣を知り尽くした第三騎士団が群れの動きを模倣し、第二騎士団がその討伐をする。


「指示を待つな。隊長クラスが自分で判断できないでどうする。」


アナスタシアの容赦ない声が飛ぶ。


「団長、怖いっすね」


訓練をながら、カインを揶揄うようにラルフが笑う。


「あいつはいつも、あんな感じだろ?」


気の抜けた声とは対照的に、その瞳はとても優しい。


「あれほど嫌われてたってのに、第二の奴ら団長を掻っ攫っちまうんだもんな。」

「それは言っちゃいけませんよ。」


フィルが自然と会話に加わる。


「ま、俺らにはカインがいるからな。」


ジャックの言葉にエリックが大きく頷く。


「お前、そこはカイン団長だろ。」

「いや、お前に団長は」

「いらん。」

「いらねぇな。」

「いらないな。」

四人が口を揃えて答える。


「はいはい、わかりましたよ。ま、いいさ。」

「だけどな」


エリックが真面目な顔でカインを見る。


「ぼさっとして、パートナーの座を奪われたりするなよ。」

「無敗の双剣に挑もうって奴がいるんなら、お会いしたいね。」

「そっちじゃねぇよ。」

「そっちじゃない。」


またもや四人が口を揃える。


その言葉の意味が分かって、カインが真っ赤になった。


――カンカンカン


訓練場に警笛が鳴り響く。


「……来たか。」


ふざけた雰囲気が一瞬で消え、誰もが臨戦態勢になる。


「東区外苑に魔獣を目視。出動を願います。」


駆け込んできた伝令部隊の報告に、カインが素早く反応する。


「フィル、先行してくれ。」


カインに頷くと、フィルが部隊と共に飛び出す。



「カイン、フィルは」


訓練中の団員をまとめたアナスタシアが、カインに声をかける。


「先行させた。」

「よしっ。詳しい状況を確認できるまで、第三騎士団は東区外周、第二騎士団は東門にて待機。」


ざわつく騎士団員たちを一喝するように、アナスタシアの鋭い号令が響く。

カインは剣を肩に担ぐ。


「……やっぱ、こうじゃなきゃな。」


迷いのない命令は、『戦場での号令』だ。


「第三騎士団、出動!」


カインも声を張り上げる。その視線の先に、アナスタシアの横顔が映る。

訓練中とは違う、前を見据える表情。


――あぁ、これだ。


アナスタシアが視線に気づいてカインを見る。


「指揮はわたしがとる。異論は?」

「あるわけないだろ。」


間髪入れないやり取りに、周囲の騎士たちが息をのんで二人を追いかけた。


***


「やっぱり、あの二人はすごいな。」


興奮冷めやらぬと言った感じで、酒を飲み交わしながら、騎士団員たちが討伐を振り返る。


「アナスタシア団長のあの魔法。」

「それを言うなら、カイン団長の剣捌きだろ。」


酔って気が大きくなっているのか、団員たちがどんどん騒がしくなる。




「あいつら、飲み過ぎだ。」


騒ぐ声を聞きながら、カインが苦笑いする。


「勝利の酒は美味いんだろ。今夜くらい、好きにさせてやるといいさ。」


アナスタシアが笑う。


「まぁ、俺も嬉しいんだがな。」

「……」

「また、お前の隣で戦える。」

「……」

「アナスタシア。」


騒がしい周囲の声が、遠く聞こえる。

風が一瞬止まったような気がして、わずかに静寂が落ちた。

静けさの中で、カインの声が静かに届く。


「俺にはお前しかいない。」


少し湿った暖かい風が吹き抜けた。


「お前の人生の相棒(パートナー)としても、俺を選んでくれないか?」

「カ……イン……」

「結婚してほしい。」


騎士たちの騒ぎは、そのまま宴会にでもなったかのようだ。

陽気な歌声を遠くに聞きながら、アナスタシアは胸がいっぱいになって言葉が出てこなかった。


「まだ」

「ちが……」


カインが話題を変えてしまう前に、かろうじて声を出す。


「わたしで……いいのか?」

「おいおい、いまさらその質問はおかしいだろ。」

「傷は……」

「騎士の勲章なっ」


カインがにんまりと笑う。

迷いないその言葉に、アナスタシアの瞳から大粒の涙がこぼれる。


「お前がいい。お前じゃなきゃダメなんだ。」

「カ……イン」


アナスタシアは、感極まると想いが口にできなくなることを初めて知った。


「結婚、してくれ。」


真っ直ぐな気持ちに応えたくて、こくこくと首を縦に振る。


「……ほんとに、いいんだな?撤回なんか、聞かないぞ。」

「撤回なんか、するはずないだろ。」

「よしっ!」


カインが満足そうに破顔した。


――その笑顔に、アナスタシアはようやく居場所に帰ってこれた気がした。


***


どこまでも澄み渡る青い空。

小高い丘の上に美しく飾られた小さな四阿(ガゼボ)がある。

その四阿(ガゼボ)を中心に、大切な家族と仲間たちが集まってくれた。

そして、その人垣の中央に敷かれた真っ赤なカーペットの先には、いつもの軍服に真っ白なマントを羽織り、カインが立っている。


アナスタシアは、父にエスコートされ、そのカインに向かって真っすぐ歩いていく。


「アナってば、あんなお衣装で結婚なんて」


不服そうに兄に愚痴をこぼす母の声が聞こえる。


「おめでとうっす。」

「よかったな。」


同期のフィル、ジャック、ラルフにエリックの姿もある。

貴賓席にはキースランの姿も……


「アナスタシアを妻とし」

「カインを夫とし」

「「わたしたちは、夫婦となり、今日この日より、手を取り合い助け合い、喜びも悲しみも共に分かち合うことを誓います。」」


一糸乱れぬ誓いの言葉に、ゲストが感嘆のため息をこぼす。


――カンカンカン


教会の警笛が鳴り響いた。


「みなさまの前で、誓いを立てることができました。我々はこれより、任務へ参ります。」

「ゲストのみなさまは、どうかこのままご歓談ください。」


アナスタシアがドレスを解き放つように外すと、その下から軍服が姿を現した。キースランから贈られた『婚礼騎士装(ナイトドレス)』――祝福と戦装を兼ねる可変式礼装。緊急事態を想定した、特別仕様だった。


「まさか、本当に必要になるとはな。」


キースランが、瞬時に臨戦態勢をとったアナスタシアを静かに見つめる。


「父上の贈り物が?」

「あぁ、役に立ってしまったよ。」


どうしてもウエディングドレスを着せたいマーベル伯爵夫人を説得するためにと、アナスタシアに相談されたときのことを思い出して、キースランが困った顔をする。


「彼女らしいですね。」

「あぁ、あれでこそアナスタシアだ。」



――君の未来を守れてよかった。


キースランは、白いマントを脱ぎ去ったカインと騎士団の仲間たちと駆けだしていくアナスタシアを見つめた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この物語で、アナスタシアにどんな未来を生きてほしいのか――何度も悩み、迷いました。

完結できるのか不安になったこともありましたが、それでも最後まで書ききることができました。


こうしてアナスタシアをしあわせにできたことが、本当に嬉しいです。

この作品を読んでくださった、すべての方々に感謝を――


いつか機会があれば、「IFエンド・キースラン編」も書けたらいいなと思っています。


ブクマ・リアクション・評価をいただけたら、とても励みになります。

次回も楽しんでいただける作品を目指して頑張りますので、どうかよろしくお願いします。

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