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五月の三十日。
トルストが壬海へ来てから、ちょうど三十日が経った。政治家殺しは偶然の事故で片づけられた。
珍しく海へ行き、流された。
まあ、季節としては夏で、海はにぎわっているから、別に有り得ないわけではない。
わざわざ、泳いではいけないところで泳ぐ方が悪いのである。水が沖へ向かって吹き出すように流れている場所。政治家の服はそこの砂浜に脱ぎ捨てられていた。
トルストは一人、館を後にした。
例の砂浜の様子を見ようとしている。次も使えそうか。
付近の様子は今、どうなっているか。海へ出るまでの間に街の様子も確かめる。服は変え、壬海の人間と同じように短い丈のものを着ている。
歩いた。大きな通りは、人で埋めつくされている。ここでは自分の顔はよく目立つ。トルストは遠くに人の群れを見ながら、少し南へ方向を変えた。
空っぽにもなれない。ツエノの思い出だけでも生きていけない。自ら、死ねない。
白い光を大ざっぱに照り返している海が見えた。
なだらかで長い下り坂。
建物が段になっているのがわかる。
道は広く、下の方で子供たちが遊んでいるのが見える。
潮の香りは、まだしない。




