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 私が二十八でツエノが二十三だった。


 朗読者同士の結婚は珍しかった。そういう例がなかったわけではないから、どういうものなのかは知っていた。


 届け出はしない。というよりも、国がそれを認めない。奨励していないというだけで、禁じているわけではない、というのが国の言い分であるが、できないことに変わりはない。


 国に認められた朗読者は国の財産で、力で、兵だった。


 朗読者は家庭を持ったり、そういうものを大事にするような生き方は、望まれていないのである。


 彼女の仕事が減って良かったと思っていた。ツエノは決して私には言わなかったが、彼女はもう、朗読者として生きることに疲れてしまっていたのだ。


 だが、朗読者として生まれ、そして朗読者として生きることを選んでしまったら、もう朗読者として死ぬしかない。


 途中でただの民に戻る。それを一人でも許せば、皆がそうしてしまう。


 それを許さない。裏の軍の仕事の一つである。朗読者のそういう扱いは他の国でも同様だった。


 私もツエノもそれはわかっていた。簡単には終われない。許されない。


 私たちは、共に生きていくことさえ、許されなかったのだろうか。


 彼女は折に触れて、孤児院での生活やそれ以前の生活について話してくれた。一ヶ月以上も顔を合わせないこともあったので、何年にも渡ってそれらを聞いたことになる。


 彼女は自分の両親を知らない。生まれてすぐ捨てられていたらしい。


 私は、彼女の表情が冷たいように感じられるのは、塑山か壬海辺りの血が少し入っているからだと思う。彼女自身もそう言っていたが、一目ではそれとわからない程度なので、親も混血であったと考えられる。


 彼女を拾ったのは一人の老婆だったが、ツエノが五歳になった頃死んだらしい。


 彼女は孤児院に引き取られた。もう、その時ツエノは朗読者であることは自覚していたが、数年間それを誰にも言わなかった。練成も召喚も、少しならできたという。彼女は自分の身を守るためにそれらを使おうと考えていた。初めは隠す必要もないかと考えたが、大人たちの態度を見て、彼女はそうしなかったのだ。


 信用できなかった。だがそれを話す彼女は、取り越し苦労だったと、つけ加えていた。


 記憶のせいだった。


 彼女の記憶は十歳で死んでしまった子供のものだった。その子供は親がおらず、家もなく、道で生活していたという。そういう子供が何人もいて、子供たちだけで共に生きているのだと彼女は言った。


 物も食料も盗んで手に入れる。そんな生活だったらしい。その子供はパンを盗み、走って逃げている時、自動車という新世界の乗り物にぶつかられ、命を終えた。その地域では珍しいことではないらしい。


 トルストは、子供たちだけでの生活という言葉に、疑問を持った。大人たちは、国は、なぜその子供たちを助けてくれないのか。


 答えは単純だった。国に金がなく、そういう子供の数が多すぎたのである。


 トルストの知らない新世界の顔であった。


 その記憶のせいで、大人が信用できなかったと彼女は言った。


 その時、少し彼女は笑っていた。


 彼女は、笑うと目と鼻の間に細かいしわができる。


 そして、口はほとんど開けないが、口角が上がる。

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