7話 勝負をすることになりました
「では、さっそく勝負といきましょうか」
私は腕をぐるんぐるん回しました。
やる気をアピールします。
「ま、待て待て待てっ! ストップ!」
「どうしたんですか?」
「お前、腕力勝負と勘違いしてないか?」
「えっ、違うんですか?」
「違ぇよっ! レベル3000の俺が、1億のお前に敵うわけないだろっ!!!」
「魔王のくせに情けない台詞を口にするんですね……がっかりですよ」
「むぐっ」
「私に負けるわけない、と言っていたあなたはどこへ行ってしまったんですか? 私なんて、小指一本でけちょんけちょんにできる、と豪語していたじゃないですか」
「言ってねぇよっ! 記憶の捏造すんな!!!」
「あらまあ」
「くそっ……やっぱり、腕力勝負にするか? こいつ、ものすごく殴りたい……」
女の子を殴りたいなんて、紳士力ゼロですね。
一国の王がそんな態度で大丈夫なんでしょうか?
魔界の将来が心配ですね……
10年後の魔界は、とても荒廃しているかもしれませんね。
誰もがモヒカンになり、馬車に乗りながら『ヒャッハー!』とか叫んで通行人を襲うようになっているかもしれません。
「……」
「あら? 今度はツッコミを入れないんですか?」
「ここで口を出したら負けだからな。俺は学習できる男だ。堪える、ということを覚えたんだよ」
「あらまあ」
いつものように心の声を盛大に口にしていたのに、サタンは塩反応です。
つまらないですね。
サタンは、いじられてなんぼのキャラだというのに。
からかうことができないサタンなんて、道端の石ころほどの価値もありませんね。
枯れた草木の方が、何倍もの価値があります。
むしろ、馬のふ……
「誰が馬糞じゃああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
「あらあらまあまあ。口を出さないのでは?」
「うっ」
にやにや、にやにや、にやにや。
期待通りの反応をしてくれたことがうれしくて、私は晴れ晴れとした笑みを浮かべました。
「……さ、さて。勝負の方法だが」
「ごまかしましたね」
「単純な腕力勝負というのはつまらん。魔界での闘争は日常茶飯事で、見慣れた光景だからな」
「ごまかしましたね」
「そこで、知恵比べというのはどうだ? 良いアイディアだと思わないか?」
「ごまかしましたね」
「うるせぇえええええっ!!! ねちねち、ねちねちとつぶやくな! 俺をからかうことができて、そんなに楽しいか!? 楽しいのかこんちくしょうっ!!!?」
「ええ、とても楽しいです」
「うだぁああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
サタンは発狂したような感じで、ガシガシと頭をかきむしりました。
以前も頭をガシガシしていましたよね。
そんなに頭をかいたら、ハゲてしまいますよ?
ハゲ魔王……
うん、なかなか良いネーミングセンスですね。
「よくねぇよっ!!!」
良い反応ですね。
そこまでのオーバーリアクションなら、一流の芸人を目指すことができますよ。
ナイス、リアクション!
「やかましいわっ!!!」
とても楽しいですが、このままだと話が進まないので……
名残惜しいですが、からかうのはここまでにしておきましょう。
「それで、勝負は知恵比べになるんですか?」
「まだ決めたわけじゃないけどな。異論はあるか?」
「私は構いませんが……忘れたんですか? 私のレベルは1億ですよ」
「うん? それがどうした?」
「『かしこさ』のステータスも、それ相応の数字になっていますよ」
「……」
サタンの頬をたらりと汗が流れました。
さては、忘れていましたね。
「知恵比べは……また今度にしよう」
「そうですか。私は、なんでも構いませんよ」
「ほう……言ったな? 今、確かに、なんでもいいと言ったな? 二言はないな?」
「ええ。武士に二言はありません」
「ん? お前の国、武士の家系だったのか?」
「いえ、適当言いました」
「……ま、まあいいだろう」
一瞬、サタンのこめかみが引きつるものの、なんとか我慢したみたいです。
煽り耐性がついてきているみたいですね。
つまらないです。
でもでも、それだけからかいがいが出てきた、ということにもなりますね?
そう考えれば、わりと悪いことではないのかもしれません。
私の煽り力が試される時がきましたね!
「その顔、どう見てもろくなこと考えてないだろうな……くそっ、藪をつついて蛇が出てこないとも限らないからな。ヘタにツッコミを入れられん」
「いいんですよ。もっと、バシバシ来ても」
「お前のおもちゃになるのはごめんだ」
「残念です……」
「心底残念そうな顔をするんじゃねぇ!!!」
だって、残念なんですから。
一応、人質の身だから、サタンをいじる以外にやることがないんですよね。
唯一の娯楽なので、そこは大目に見てほしいです。
「それで、勝負の方法はどうするんですか? 私から挑んだので、内容はそちらにお任せしますよ?」
「そうだな……腕力、知恵比べがダメとなると……おもいきって、運勝負でもしてみるか?」
「私の『こううん』のステータスは……」
「あ、いや。やっぱりなしだ。ならば……魔法を学んでいないと言ったな? なら、魔法勝負はどうだ?」
「構いませんが、ヘタに魔法が発動したら、どうなるかわかりませんよ? 初級魔法でも、このお城が吹き飛ぶかも……」
「やめだやめ! えっと、ならば……手芸の腕を競うとか」
「私、手芸は得意ですよ? ほら」
レベル1億のステータスを駆使して、サササッ、と一瞬でセーターを編んでみせる。
「なんで一国の王女が手芸が得意なんだよ!? そういうのはメイドとかに任せるだろっ、普通!!!」
「趣味なんですよ。いいじゃないですか。それよりも、私が了承していたら、本当に手芸で勝負するつもりだったんですか? 手芸が得意な魔王という方がおかしい気がするんですけど」
「るせぇっ、趣味なんだよ!」
意外とかわいらしい魔王なのかもしれませんね。
夜。
魔王の部屋。
一人、想い人のためにせっせとセーターを編むサタンの姿を思い浮かべます。
「……普通にキモいですね」
「よくわからんが、すっげー失礼なことを考えた、ってことは理解したぞ。やんのか? おう、やるのか?」
「話がズレていますよ。今は、どんな勝負をするか、でしょう?」
「うむ……まあ、そうだな」
よっぽど、私と勝負をしたいんでしょう。
色々と言いたいことはありそうでしたが、サタンはそれらの言葉を飲み込み、勝負の内容を考え始めました。
そんなに、私に出て行ってほしいんですかね?
こんなにキュートな女の子を手元に置いておきたがらないなんて、サタンは男としておかしいんじゃないでしょうか?
もしかして、不能?
いえ、それだけじゃなくて……
「……」
「なんだ、その生暖かい目は?」
「安心してください。私、同性同士でも理解がある方ですから」
「あん? なんの話だ?」
「むしろ、見ている分には大好物です♪ 応援していますね」
「ええいっ、わけのわからない話をするな! それよりも、勝負の方法を決めるぞっ」
「何か思いついたんですか?」
「勝負の方法は……激辛料理の早食いだっ!!!」