表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

5話 人質なんだけど敬われています

 魔王軍の最上階一つ下にある牢屋……


「おーい、姫さん」

「あらあら、アークデーモンさんじゃないですか」

「これ、今日の飯な」

「いつもありがとうございます」

「今日は焼き魚がメインだ。あとは根菜の煮物と野菜のサラダ。ちょっとした変わり種で、茶碗蒸しも用意したぜ」

「茶碗蒸しですか? 魔界で作るのは大変じゃないんですか?」

「卵がなかなか手に入らないからなあ……ニワトリじゃなくて、ワイバーンの卵で妥協したんだが……でも、味はいけるぜ。ちゃんと味見したからな。あ、これは姫さんだけの特別メニューだから、他のヤツには秘密にしといてくれ」

「はい、わかりました。ありがとうございます」

「なーに。この魔王城の危機を救ってくれた恩人に対して、なにかできるとあれば俺もうれしいものさ」

「いえいえ、私なんて大したことはしていませんよ」

「はー、あれだけのことをしておいて謙遜できるなんて、大したもんだな。王女さまだから、なのか?」

「さあ、どうなんでしょう? ですが、アークデーモンさんも活躍していたじゃないですか。ずいぶんと強力な魔法を使えるみたいですね」

「ははっ、姫さんにそう言ってもらえるとうれしいな。今度、教えてやろうか?」

「あらまあ。それはぜひとも……」

「って、何を和んでいるだてめぇらはぁあああああっ!!!!!?」


 サタンが乱入してきました。


 せっかく、楽しく談笑していたというのに……

 この人は空気が読めないんでしょうか?

 だから、ぼっちなんでしょうね。

 ぼっち魔王……


 うわ、想像すると、思った以上に寂しい光景が思い浮かびました。

 玉座に座りながら、誰にも気づかれることなく孤独死……

 大変です、哀れすぎて泣いてしまいそうです。


「だから口に出てるんだよぉっ!!!? それと、勝手に人をかわいそうな子に認定するんじゃねぇ!!!」

「あらまあ」

「くそっ。お前もお前だ! 人質相手に和やかに話をしてどうする!?」

「はっ……す、すみません」

「私から話をしたんですよ。アークデーモンさんに罪はありません。手を上げるのならば、私にしてください!」

「ほう……こいつの代わりに、お前が罰を受けるとでも?」

「ひどいことしたら、しっかりと反撃しますけどね。全力で♪」

「笑顔でおそろしいことを言うな!」

「あらまあ」

「くっ……殴りたい、めっちゃ殴りたいコイツ……」


 サタンが現れて気まずくなったらしく、アークデーモンさんがそそくさと立ち去ります。

 ただ、その際、私にぺこりと頭を下げてくれました。

 お返しに手をふりふり。


「だから、なんで和んでるんだよっ!?」

「なにかいけないんですか?」

「悪いってことはないが、なんかこう、違うだろ!? お前は、人間界から魔界にさらわれてきた姫なんだぞ!? それなのに、俺たち魔族と仲良くしてどうする!? 色々とおかしいだろ!」

「仲良くしているのは、アークデーモンさんだけじゃありませんよ? ダークエンジェルさんにディープストライカーさん。モスキングさんとバッファローホーンさんとデスメイルさん。あ、それからこの前、ロードリザードさんと友達になりました」

「多すぎだろ!? コミュ力高すぎかっ」


 イフリートを倒してからというものの、みなさん、私に優しくしてくれるんですよね。

 なんていうか、こう……敬うような感じで接してくれています。


 後から聞いた話ですが、魔王軍、けっこう危なかったみたいですね。

 私がその危機を救ったから、みなさん、敬ってくれるようになったみたいです。


 義理堅い人たちですね。

 よきかなよきかな。


「様子を見に来てみれば、こんなことになってるし……いったいどうなってるんだ、俺の軍は」

「あなたがだらしないのがいけないんでしょう」

「うぐっ」

「四天王の一人ぐらい、ちゃちゃっと倒してもらわないと困りますね。他国の、しかもさらってきた王女を頼りにしてどうするんですか? はぁ、やれやれ。情けない情けない」

「てめぇが勝手にでしゃばってきたんだろうが!!!」

「あらあら。そんなことを言っていいんですか? イフリートに押されていたように見えましたが」

「そ、それは……」

「そんなことだから、反逆なんてされるんですよ。ダメな魔王ですね。ほんと、ダメダメです。私が王国に戻った時は、あなたの情けない伝説を語り継いであげますね」

「地味ないやがらせやめろっ。っていうか、傷口に塩を塗り込むような真似をして楽しいか!?」

「ものすごく」

「ちくしょおおおおおっ!!!!!」


 最高の笑顔で応えると、サタンは泣きながらどこかへ走り去ってしまいました。


 いけません。

 少しからかいすぎました。


 四天王の反逆のこと。

 サタンの力が衰えていること。

 このまま人質として滞在する以上、色々と話しておきたいことがあったのですが……


「まあ、また今度でいいですか」


 今は、ゆっくりと食事を楽しみましょう。


「お姉さまー!」

「あら、ユニちゃん」


 おいしい食事を堪能していると、ユニちゃんがとてとてと駆けてきました。


「あっ、ごはんの最中だった……ごめんなさい、ユニ、邪魔しちゃった……お姉さまが、まだとろとろとご飯を食べているなんて、思ってなくて……」

「いえ、そんなことありませんよ」


 牢屋の隙間から手を伸ばして、ユニちゃんの頭をなでます。

 たちまち、笑顔が戻りました。


 うん。

 この子は笑顔が一番似合っていますね。


 イフリートの戦いの後……

 やたらとユニちゃんになつかれてしまい、しまいには、『お姉さま』と呼ばれるようになりました。


 困ってなんていませんよ?

 むしろ、大好物です!

 こんなに小さくてかわいい子に好かれるなんて、お姉さま冥利に尽きますからねー。


 無自覚で言葉の刃を撒き散らす、毒舌少女ですが……

 それはそれで面白いですからね!

 アリです♪


「ところで、どうしたんですか?」

「お姉さまのために、ベッドを持ってきたの!」


 ユニちゃんは、一度姿を消して、大きなベッドを担いで戻ってきました。

 小さくてかわいいけれど、竜人族だから、とても力持ちなんですよね。


「寝心地がよくない、みたいな話をしていたから……だから、みんなにお願いしてベッドを作ってもらって、持ってきたんだよ。人間はベッドがないと眠れないくらいわがままなんだよね?」

「あらまあ」


 天蓋つきの豪華なベッドでした。

 マットレスはふかふかで、寝心地が良さそうです。

 牢屋のベッドはボロボロなので、とてもありがたいです。


「さっそく交換するねー……って……あぅ、入らない……」


 ベッドが大きすぎて、牢屋の入り口でつかえてしまいました。


「ど、どうしよう……? 魔王城、狭すぎだよぉ……ベッド一つも搬入できないなんて、この城を設計した人の頭を疑うよ」

「たぶん、設計したのは魔王ですよ」

「わわわ、魔王さま、頭がダメダメだったんだ。残念な魔王さま……でもでも、かわいそうだから、ユニは離反とかしないよ」

「それはともかく。そういう時は、こうすればいいんですよ」


 私は牢屋の鉄格子を掴み、


 ぐにゅ。


 と、おもいきり曲げました。

 他の鉄格子もどんどん曲げて、ベッドを搬入できる穴を開けます。


「わぁー、お姉さま、力持ち♪ とてもひ弱な人間とは思えないの」

「ふふっ、そうなんですよー。お姉さまは力持ちなんですよー」


 ユニちゃんがキラキラと目を輝かせます。


 いいですね、この感覚。

 小さい子に憧れられるというのは、心地いいです。

 なんだか、勇者さまになったような気分。


「でもでも、いいのかな……? 牢屋、こんなことになっちゃって……後で、魔王さまに怒られるかも……魔王さま、こういうことは口うるさいの。歳かな?」

「私がしたことなので、ユニちゃんが気にすることないですよ。もしも、何か言われるようだったら、私に言ってください。きっちりとシメておきますから」

「しめる……?」

「ユニちゃんはわからなくてもいいんですよー」

「? よくわからないけど……うん、お姉さまがそう言うのなら!」


 ユニちゃんは笑顔でベッドを搬入します。

 通りかかったスケルトンさんも、笑顔で手伝ってくれました。


「ユニちゃん。せっかくだから、一緒にお昼寝しませんか?」

「ふぇ? い、いいのかな……?」

「いいんですよ。それとも、ユニちゃんはいやですか?」

「ううんっ、お姉さまと一緒にお昼寝したい! 昼間から惰眠を貪り、ゴロゴロと堕落したいの!」

「なら、決まりですね」


 運び込まれたばかりのベッドで、ユニちゃんと一緒にお昼寝。

 素敵な時間ですね♪


 ……この後、再び様子を見に来たサタンが、めちゃくちゃになった牢屋を見てあれこれと言ってきますが、それはまた別の話です。

ブクマや評価が、更新を続けるモチベーションになります。

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブクマや評価をしていただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ものの新作を始めてみました。
↓のリンクから飛べます。
勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う
よかったらどうぞ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ